第53話 告白の返事は…

 その後、アリスからの返事はなく2人とも沈黙したまましばらく経った。しばらくといっても多分それは体感で、実際には十数秒程度だったと思う。

「…あの、どうかな?その…空気感的なのも含めて…」

 沈黙に耐えきれず情けない追撃をしてしまう。

「…只男とは空気が合ってるとかじゃないの…もはや空気なの。」

 言ってる意味が分からないけど、とりあえず頷いて続きを促す。

「…引っ越してきてから、ずっと只男と一緒にいたよね。いつも隣にいたのが只男だったから、今年はたくさん楽しめたんだと思う。交差点でぶつかったのが只男で良かった。文化祭でも一緒に回ったし、体育祭ではムカデもリレーも楽しかったよね。夏休みもいっぱい遊んだし、修学旅行も色んなところ回れて本当に楽しかったなぁ…今年の私の思い出には全部全部只男がそばにいるんだよね。今更、只男がいないのなんて想像できないし、只男と一緒にいる時間が1番楽しいし、これからもずっと一緒だと思ってる…」

 良いことをずっと言われ続けるのは嬉しいけど、だけど…が続きそうで不安になる。この予想は当たらないで欲しいけど…

「だけど、只男は友達が少なくて、仲良くなるとちょっと態度が悪くなって、いつも強がって素直になれなくて、憎まれ口ばっかりでいっつも口げんかみたいになっちゃうよね…」

 やっぱり、だけど…が続いて悪い方向に流れ始めた。ダメだったのか…

「すっごい子どもっぽい時もあって、でも辛い時には駆けつけてくれて、危ないことから守ってくれて、何でも付き合ってくれて、時々核心を突くようなことを言って、大事なところで毎回噛んじゃって、そんな只男が…只男が……私も好き。」

 …今、確かに好きって言った!?言ったよな!?

「毎回噛んじゃうのは申し訳ない…でも、今…その…す、好きって…」

「そうよ。お付き合いしましょうってこと。」

「おぉ…うおぉぉ!」

「っていうか、遅いよ!ずっと待ってたんだから!この鈍感男!」

「おおぅ…ごめん…」

「もういいけど!…ずっと…ずっとこのまま何もないんじゃないかって…」

 話しながらアリスの頬からポロポロと涙がこぼれ落ちる。きっと気付いてなかっただけで、不安な気持ちで待ち続ける日々を送らせてしまっていたんだろう。

「だから…今日も頑張って誘って…なのに…北王子君ばっかり話しかけてきて…」

「…ごめん…ごめん。」

 こういう大事な時に的確な言葉が見つからないのは一生治らないかもしれない。でも、目の前で泣いてるのにそのままにしておくことはできない。

 アリスに近付き、そのか細い体に両腕を回して、壊してしまわないように優しく強く抱きしめる。アリスも同じように抱き返してきて、止まらない涙で左肩が濡れていく。

 しばらくして落ち着いたアリスがブランコに座り直すのを確認して、隣のブランコに座る。

「…何か変な感じ。付き合ったって言っても実感湧かないよね。」

 アリスはそう言い終わると、地面を蹴ってブランコを勢いよく漕ぎ始める。

「確かになぁ。今までもよく遊んでたし、そんなに変わらない気もするような…」

「うーん…キスでもする?」

 ブランコを漕ぎながら突拍子のない提案をぶっ込んできた。

「…ちょっ、おまっ…それは…その…」

「嘘だよー。只男焦りすぎー。」

 勢いがついたところで、反動をつけてブランコから跳び出していく。猫のように身軽で音もなく綺麗に着地する。その自然な体の動きに目を奪われてしまう。すると、くるりと振り返って得意げな笑顔を見せてくる。

「でも、これからずっと一緒だから焦らなくてもできるよ。」

「別に、したくて焦ったわけじゃ…」

「あははっ、からかい甲斐があるなぁ。只男、これからもよろしくね。帰ろ。」

 そう言って公園の入り口に向かって歩き出してしまった。慌ててブランコから降りて追いかける。

 確かに、これからもずっと一緒なんだから、こうやって気ままに歩き出すのを追いかけて追いついたら横に並んで一緒に歩いていければいい。

 アリスに追いついて横に並ぶと、できるだけ自然に見えるように手を握る。アリスは一瞬驚いたような反応をしたが、すぐに手を握り返してきた。アリスの顔をチラッと覗き見ると、あっちも同じことをしていたみたいで、目が合ってしまって同時に吹き出してしまう。こういう時間を積み重ねていけばいい、自分たちのペースで。そんなことを考えてながら、ゆっくりと歩いて帰った。

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転校生とフラグ察知鈍感男 加藤やま @katouyama

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