【門真大社祭り】
果物ナイフでリンゴの皮をむいていく
赤く光るこれは外から持ち帰った中でも上々の品だ、齧るとベたべたした汁がこぼれてくる
今日は祭りで、夜の間だけ商店街からそれぞれの店がグラウンドで露店を出す
めいめいにオシャレをして行きかう人たちの中に前田と阿賀座の顔を見つける
彼女達は去年は結婚式をあげて、来月子供が産まれるらしい
これを一番喜んだのは影の男だった
ガワを新しくして商店街に現れた彼は、今は親しみやすいロボットのような見た目をしている
会ってくれないので、直接見たことはないんだけど
スピーカーからは、ノイズがかった押さないようにだの串焼きは横から食べるようにだのの注意喚起の声が聞こえる
店長は市民ホールの最上階でレストランを開けないかと画策して、商店街の権力闘争に燃えていると聞いた
きっと今日もどこかで秘密の会合をしているのだろう
実は密かに、そのうち誰かがその内ピラニアの餌になるんじゃないかと思っている
記憶を失えないながらみんな適当に日常を折り合いをつけて生きている
僕は少年から青年になった
あの日、思い出は消え去り残った僅かなものは知識になった
そして、胸の痛みは25歳の僕が眠りと共に連れて行った
僕は、思ったより変わらなかった
白波から見たら違うのかもしれないけど、それでも彼女は変わらず接してくれる
「早いね、そんなに急ぐことなかったのに」
僕の隣に女性が腰を下ろす
「楽しみだったからさ」
彼女が差し出す、アンモナイトの串焼きをぐるりと観察する
「私もだよ、花火絶対見よう」
白波は玉こんにゃくとフランクフルトを持った手を固く握り、ニコッと笑う
「君は笑うとえくぼが出来るんだね」
「そうなの?気にしたことなかった」
彼女が自分の頬を、ぺたぺたと触る
「まあだからなんだって話か」
「はは、そうだね」
「行こう、花火の穴場にシートで場所取りしといたから」
僕と彼女は並んで雑踏の中を歩き出す、僕らはちょうど同じ位の歩幅だ
これから先もきっといろんなことがあるだろう
でも僕は、僕として彼女と終わりを迎えるその時まで仲良く生きていきたい
彼女が僕の名前を呼ぶ、僕が自分で付けた僕の名だ
僕は綾瀬、いい響きだと気に入っている
終
2つ目の月 @TyaUkE
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