ショートショート・『かき氷』
夢美瑠瑠
☆
(これは、今日の「かき氷の日」にアメブロに投稿したものです)
もう私は、還暦になりましたが、”かき氷”を食べていたのは遠い昔、幼少期から学童期くらいまでで、記憶自体が曖昧で、味とか舌ざわりとか、まつわるエピソード等は半ば「捏造」?するしか再現しようがない。つまり、”かき氷”自体への嗜好がだいたい薄かったのです。練乳の味とかは甘くて好きで、酸っぱいイチゴとかにかけて食べるのは味が混ざって非常においしいですが、味のないかき氷に練乳がかかっていてもそれほど食指は動かない。かき氷の場合は食べるムードとか冷たさゆえの一種の消夏法として縁起物みたいに風物詩の一つをセレモニアルに一家で食べる…個人的にはかき氷はそういうものだった。
「この、かき氷というやつね、なんとかもっと付加価値を高めて、人気のあるようなおいしい食い物にできないものかな?」
…ここは、「エスキモー食品」という会社の商品開発室だった。
定例会議で、懸案事項を室長が説明していたのだ。
室長は若くて意欲的で、問題は極力弁証法的に?前向きに解決していくべき…いつもそういう発想をした。
局長は北海道の離島出身で、本当のエスキモーの末裔らしかった。
彫りが深くて、目の大きい、エキゾチックな風貌だった。
生い立ちも環境も特殊で、それゆえに、常識に惑わされない、素朴で直情径行で斬新な発想ができたのだ。
抜擢された役職に、彼は本当に真摯な態度で、一心不乱に取り組んでいたのだ…
「エスキモー食品」は冷凍食品のメーカーで、「かき氷」に類する氷菓一般は、従来から主力アイテムだったが、最近は売り上げが落ちていた。味のバラエティも、商品形態も、同工異曲の千篇一律というのか、マンネリで、画期的なアイデアで失地回復を図らないと、会社自体が左前になっていく恐れすらあったのだ。
やがて、入社したてで、室長以上にアイディアマンで勉強家の、室長の腹心の部下の、美貌の女社員がさっと立ち上がった。
東大で理論物理学の研究をしていたという異色の経歴の持ち主だった。
「室長!いいアイディアが浮かびました!こうしたらどうでしょう…」
… …
二か月後に「エスキモー食品」の株は二倍に跳ね上がった。
リニューアル発売された「かき氷」の新シリーズ・「夏季ゴリラくん」が爆発的な人気を呼んだのだ!
その年には、気温が40度°を超えた日は「酷暑日」という呼称を授ける…そういう取り決めがなされるほどに夏が暑かったのだ。
その「かき氷」、「夏季ゴリラくん」のバー、手に持って舐めて、「ガリガリくん」と同じく氷と砂糖と何かおいしくて目にも鮮やかな成分を渾然一体に味わえるという氷菓の、食べ終えた後の木製のバーには、例外なく、こういう”おやじギャグ”が印刷されていたのだ…
「もう、ねえ、好き💓もー。エスキモーのアイスを愛す💓」
「あーん。氷のお菓子のアンコール!こおりゃ、おかしーw」
「夏にぴったりの美味しいエスキモー印のアイススイーツ!ぴったり合います。サマーになりすぎて吸いーつきたくなるゾ!」
… …
食べた人々は”おやじギャグ”の傍若無人で無神経の極致のような、すべてを水泡に帰する?凄まじい”破壊力”に例外なくゾゾゾ~と寒気がして、体感温度がマイナス5度くらいに「寒く」なるのだった。
その「寒さ」、涼しい感じが人気を攫って、エスキモー食品の「かき氷アイス」は爆発的な人気を博したという、つまりはこういう顛末なのであった…
<了>
ショートショート・『かき氷』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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