第4話 ネコさんとはっちゃん
ネコさんは珍しく人と一緒に歩いていました。「まっちゃん」と呼ばれているおそば屋さんです。これからふたり(1人と1猫)でまっちゃんのお店に行きます。
「今日はいい天気だニャー。しかもまっちゃんにかつお節をごちそうになるニャ。とてもいい日になったニャ」
二人の出会いは偶然でした。ある日ネコさんが塀の上を歩いていると、先を歩いているまっちゃんからとてもおいしそうなにおいがしてきました。そのにおいにつられてネコさんは後ろをついていきました。
もともと猫好きだったまっちゃんはどこまでもついてくるネコさんが気になってしかたがありません。そこで思い切ってネコさんに話しかけてみました。「なんか用かい?」。ネコさんがまっちゃんの体をクンクンとかぐので、まっちゃんはピーンとひらめきました。
「そうか!かつお節のにおいがしたからついてきたんだな」。
ネコさんも気がつきました。「そうか!かつお節のにおいだったんだ」
まっちゃんはにっこりとほほえんで「うちまで来なよ。残っているかつお節をごちそうしよう」ー
それ以来、ネコさんは、まっちゃんが街を歩いているのを見かけると、あいさつしておそば屋さんでかつお節をいただくようになったのです。
「ネコさん、ネットで読んだんだけど人間が使っているかつお節は猫の体には良くないそうだ」
「ニャ」
「だから、今日は猫用に開発されたかつお節を買ったのだけどそれでもいいかい?」
「ニャー」
「そうか、話は変わるけど最近はお前さん目当てのお客さんが増えたから、こちらも助かっているよ。ありがとうな」
「ニャー、ニャー」
お互い相手が何を言っているのか分からないのですが、何となく気持ちが通じていて心地よい時間です。ふたり(1人と1猫)はこの時間が大好きです。
ある日のこと。ネコさんがひなたぼっこをしていると遠くにまっちゃんの後ろ姿をみかけました。まっちゃんは買い物帰りなのか大きな袋を肩に掛けて歩いていました。
「よし追いかけるニャ」
ネコさんは全力で駆け出しました。するとまっちゃんの担いだ袋から何かがコロンと落ちました。まっちゃんは気がつかないのか、そのまま歩いて行ってしまいました。
「何を落としたんだニャ?」
ネコさんが見つけたのは削る前の三日月のような形のかつお節。とてもいいにおいがしました。
「よしまっちゃんのお店まで届けてあげよう!」と思ったのですが、三日月形のかつお節は堅くて重い。ネコさんは困ってしまいました。
「とても運べないニャ。どうするニャ」。ネコさんがかつお節の回りをぐるぐると回っていると、仲良しのマルさんが通りがかりました。
「やあ、ネコさん。どうしたんだニャ」
「やあマルさん。仲良しのまっちゃんがこのかつお節を落としていったニャ。だからお店まで持っていってあげようと思うのだけど、このかつお節は堅くてくわえられないし、重くて運べなくて困っているニャ」
「なるほど、ネコさんは親切だニャ。何か力になれるかニャ」
「ありがとニャ。人間みたいに前足で抱えて後ろ足だけで歩けるといいんだけどニャー」
「それは無理だニャ。ぼくたちは猫だ。頭に乗せてみては・・・」
「転がって落ちてしまうニャ・・・いいことを思いついた。ふたりでかつお節の端っこと端っこを背中に乗せて同じ速さで歩くニャ。そうすると落とさないで運べるニャ!」
マルさんは最初は心配そうでしたが意外とうまくいきました。「わっせ、わっせ」。ふたり(二猫)の息はぴったり。
さてまっちゃんのおそば屋さんではお客さんが浮かない顔でおそばを食べていました。
「滝ちゃん。まだ悩んでいるのかい?」
まっちゃんの代わりにお店で料理を出していたまっちゃんの奥さんが、常連のお客の滝川さんに話かけていました。滝川さんのお仕事はイラストレーターです。
「うーん、いいアイデアが浮かばなくてね」
「たいへんだね。ああ、まっちゃんが帰ってきたよ」。野菜や天ぷら粉などを抱えて帰ってきたまっちゃんの姿を見かけて、奥さんはお店のドアを開けてあげました・・・と同時に目を丸くしました。
「なんてかわいい、あんた!あれを見てごらんよ」
まっちゃんが何事かと振り返ると、1本のかつお節を背中に乗せて並んだ2匹の猫が小走りでお店に向かってきたのです。まっちゃんと奥さんはその姿のかわいさに満面の笑顔。
「ネコさんと友だちだね。そうかボクが落としたかつお節を持ってきてくれたのか。ありがとうよ」
「これだよー、描けた!」。今度はまっちゃんと奥さんとネコさんとマルさんがびっくり。滝川さんが大声とともに立ち上がって、大急ぎで代金を払ってお店を飛び出していったのでした。
その日からしばらくして、ふたり(二猫)ははっちゃんのお店でいつでもかつお節を食べられることになりました。というのも滝川さんがかつお節を運ぶふたり(二猫)をイラストにしたらそのイラストが大人気。滝川さんは売れっ子のイラストレーターになったのでした。
「お前さん達は滝ちゃんの恩人だよ」はっちゃんは今日も笑顔でかつお節をエサ皿に盛ってくれるのでした。
ネコさんも元気 @yuji1970
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ネコさんも元気の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます