第2話 攻略対象(その1)があらわれた!
さて目標こそ立てたものの、私は未だにこの状況を信じられないでいた。
だってそうだろう。キャルロッテとしての私は十数年間生きて来たけれど、前世込みの私はたった今目覚めたばかりなのだ。いきなり自分が悪役だと知らされてはいそうですか、と受け入れられる方がおかしくない?
正直、まだ夢なんじゃないかという気さえするくらいだ。
「でも二人の出会いは学園だし、私も入学すればこっそり二人の仲を見守るくらいはできるんじゃないかしら……!」
ゲームの中のキャルロッテは王宮で贅沢三昧で学園に通っている描写は無かったけど、歳の頃はヨハン王子やリリスちゃんと同じくらいなのだから学校に行けばちょっとは推しカプのツーショットが拝めるかもしれない。
それに王宮から遠ざかればその分だけ国王と出会う可能性も低くなって、バッドエンドの原因を生むこともなくなるだろう。
「そうと決まればまずは学校に通うためにも今から魔法を練習して……」
「起きたのか? 入るぞ」
当面の目標を固めたのと同じタイミングで高らかなノック音が部屋に響き渡る。慌てて起き上がって「ハイ」と返事をすれば、ドアの向こうから一人の青年が姿を現した。
「キャルロッテ、調子はどうだ? 今日も気分が優れないなら魔法の勉強は今度にするが……」
チョコレートを思わせるような甘いブラウンの髪に涼やかなマリンブルーの瞳。何度も見たから忘れるはずもない、『革命に咲くアマリリス(通称:革リリ)』の攻略対象の一人……アレキサンダー・アントニーだ。少しぶっきらぼうな態度ながらも面倒見の良いツンデレ属性で、他でもないキャルロッテの義兄でもある。
設定資料集によればキャルロッテも元は庶民だったらしいけれど、彼がここにいるということはもう私は魔法の才能を見出されてアントニー家の養子になっているということだろう。
「お気遣いありがとうございます、お兄様。もうすっかり元気になったから今日は魔法を教えてください!」
かなり混乱してるけど身体自体は元気もりもりだ。魔法の勉強なんて「私」は初めてだし、是非とも教わってみたい!
なので渡りに船な申し出に素直に答えれば彼は信じられないようなものを見る目をこちらに向けた。
……すっかり頭から抜けてた。そもそもキャルロッテは自分勝手な女で昨日も散々ワガママを言った挙句に勉強が嫌だからって「気分が悪くなったわ」なんて仮病を使っていたのだった。使用人にはキツく当たるし立場をいいように使って命令するものだから義兄自ら様子を見にきたのだろう。
なのに一晩経ったら急にやる気満々になったなんて、アレキサンダーからしたらさぞかし奇妙に違いない。
「あ、えっと……私ももう十四になりましたから、そろそろ大人になろうかと思いまして……!」
慌ててしどろもどろな言い訳をすればまだいくらか訝しげではあったもののアレキサンダーは「ああ、そうだな……」と一応の納得はしてくれたらしい。「降りてこられるようなら来るように」と伝えて彼が部屋を後にしたのを見届けてから、私はもう一度手鏡の中を覗き込んだのだった。
ゲームに登場した時より少し若いけれど、それでも傾国の美女の面影のある整った顔立ちの少女であることには変わりはない。わかりやすく言えば綺麗系の美少女だ。しかも原作ではキャルロッテは魅了系の強力な魔法を使っていたので、活かそうと思えばこの美貌を武器に欲望が満たせるのだろう。
「…………なら、私はやっぱり二人のハッピーエンドが見たい」
前世からの強い願いを改めて言葉にしてみれば、驚くほど今の私の口にも馴染んだ。
ヨハン王子とリリスちゃんは身分違いの恋だからきっと多くの障害が待ち受けているだろうけど、死別に比べたら何もかもがマシだろう。うまくいけばそのまま結婚する可能性だってないわけじゃないし、今の私なら同じ世界に存在しているんだからいくらだって介入できる!
きっと私がキャルロッテとして転生したのは二人を幸せにするためなのだ。
本命カップリングの新たなルートに胸をときめかせた私は立ち上がるとその場で思わずくるくる回る。ゲームを何周しても見れなかった幸せがここにあるなんて……今ならあの「ひゅーほほほ」という笑い方もできそうなくらい浮かれてしまう。
あっという間にここで生きていく気がもりもり湧いてくるのだから、我ながら単純だけど鬱ゲーと名高い『革リリ』のハッピーエンドなんてDLCでもなかったのだ。ファンからしたらこんなのテンション上がらない方がおかしいだろう。
「これはもうなんとしてでも、二人の結婚式までは生きなくっちゃ!」
そうと決まればまずは魔法の勉強をしていざという時に二人を守れるようにならなくては!
その後、意気揚々と
転生した傾国の美女は推しカプを溺愛したいので革命を阻止することにしました 折原ひつじ @sanonotigami
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