7月27日(木):清純不純は客観しろ

「あっつぅ…」

増し込む陽気に弱音が能動するアテムの後方から、素焼きタイルを蹴って奔走する少女ひとり。

バテかけた身体は前傾を取り、視界から直前方を追いやる。

無論、互いに気づくはずもなく──。


「わぁ、ぶつかる!」

「えぇ!?」

アテムが反応したその時点で、玉突きは完了していた。

胴で弧を作ったその身体は重心を崩しそうになるが、咄嗟に差し出した左足でどうにか耐える。

「んぐ…大丈夫ですか?」

「はい、すみません急いでいたもので…」


少女は罰悪く面を上げると、途端に昂った。

「あーー!こんなところにいたんですね、不良部員!」

「え?」

「え?じゃないです。鶏から定食ぶちまけ隊とか言いましたね!正式に認められていない部活でありながら合宿なんてものを企てるなんて…!」

「いや全然名前違いますし!というかなんで合宿やるの知ってるんですか!」

少女のそれは威嚇する猫のよう。


「昨日たまたま通りすがって聞いたんですよ!まったく…ただでさえグレーな部活でありながら男女2人で泊まりなんて!不純不純不純!あまりにも不純!」

「不純じゃないです!わたしと隊長はそんな関係じゃない!」

「何を言ってるんですか、だいたいあなた…えーっと名前が日当ひあて…」

言いかけたところで、少女の口にアテムの手が飛びかかる。


「あぁぁぁそれ以上は言わないでください!わたしにはアテムっていうペンネームがあるんです!!それで呼んでください!!」

「えぇ?…まぁいいです。アテムさん、あなたに苦情が大量に寄せられてるんですよ」

「…苦情?」

亀田かめだ…いやここではメタ先輩、でしたっけ。彼とあまりにも距離が近いって話です!」

「わたしと隊長が?…ホントですか?」

「ホントですよ!いつでもどこでも、メタ先輩を見かけると必ずあなたがいる!あなたと先輩が一緒に居すぎて全然メタ先輩に近づけないじゃないかとか、男女2人のみの非正規の部が夏休みにもなって何の活動をしてるのかとか、そもそも非正規でありながら部室を取得できているのもおかしいとか!」


「最後の方は部への文句じゃないですか…

というかそもそもあなた、誰なんです?

いきなり現れて難癖をつけてくるなんて、いくらわたしでも傷つきます!」

アテムの眉が珍しく皺を作る。

「…!そうでした…失礼。私はあなたと同じ1年の詩代しじろ つづりと言います。そして…」

綴は奥底へと息を吸い込んだ。


「アテムさん!メタ先輩を、頂きに参りました!」

その瞳の澄むこと、一縷たる曇りも認められなかった。

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