第13話 商売敵

 私がイタコとして口寄せをはじめて、三ヶ月くらい過ぎてから、キリスト教の牧師のような人が、出入りするようになりました。

 黒ずくめの格好は、神父だけど、その人が変わっていたのは、キリスト教の話をあまりしないで、どちらかと言うと、相手の話に耳を傾けることが多かったからなの。

 そうして、本当にうなづく。見ているこちらが、大丈夫かと思うほど、まじめに話を聞いている。人の話を真剣に聞くということは、実は本当に大変なことなのです。

 それをいやな顔をせず、一日、続けられるということに、私は驚いてしまった。こちらは、商売でも一日、一〇人がやっと。あちらは、一人の話を一時間でも二時間でも聞いている。

 そして相手が聞いてくれたことに、満足したと思われたときに、あなたとあなたの大切な人のために祈りますと言って、少しの間、目をつぶる

 そして、休むのは、昼食のときと一〇時と三時のときだけ

一日おき、あるいは二日おきと毎日ではなかったけど、ある日、それは、他の避難所を回っていたからだとわかったの。

 そうして、土日は、どこかの教会でお勤めをしているのかな。

 私と同じようなことをし始めた


 また、商売の話しに戻るけれど、 ある日、体育館の裏手で、口寄せをしていたら、冷たい感じの女が来たようなの(私は、口寄せに夢中で、テントの外で何があったのかは、知らなかった)。突然、その人が、

「ここで営業はやめてください」

って言ったらしい。彼が、

「どちら様ですか」

と聞くと、

「精神保健センターの臨床心理士です。あまり、いい加減なことを、話さないでください」 彼が、イラっとして、

「ここで、口寄せをしているのは、人助けのつもりなんですが、何か問題がありますか」

「人助けにしても、あまりに人の弱みにつけ込んだものは、どんなものでしょう」

と、馬鹿にしたような話し方だったと言う。

後から、仲良しのじいちゃんが教えてくれたが、何でも、県から避難者の心理上の問題を解決するために、カウンセラーが派遣されて来たようなの。その臨床心理士が、即席のカウンセラー室で相談者から悩み事を聞いていると、

「あのイタコのお陰で、息子があの世で暮らしていることが分かって、ほっとしたとか、死んだ妻が私のことをずっと思ってくれるということを伝えてくれので感謝している」

というようなことを多く聞いたので、イタコとは誰ということになったらしい。そのカウンセラーは、口寄せなんかは、全くのインチキ、迷信以外のなにものでもないというタイプだったから、大分、怒っていたらしい。ただ、彼女も、夫を亡くしていたことは、後で知った。

 私は、それを聞いて、ぼったくりバーじゃあるまいし、むしり取るほどのお金は取っていないし、別に口寄せをしてもらって、それで気分が良くなるならいんじゃないと思ったが、なるべく、その女には会わないようにしていた。

 ところが、会いたくない人には、会ってしまうのね。それも、トイレで。会った瞬間、互いにおやっと思って、あちらから声をかけてきたが、

「思い込み、一種のヒステリー状態、ノイローゼ、催眠、自己暗示。非科学的で、時代錯誤も甚だしい」

とぼろくそに言われた。




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ゴミ溜めのマリア @chromosome

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