裏の英雄

かいとも

裏の英雄

「王様ー!ザイルだよー!」

「入ってきて」

「了解」


<エルン·ザイル

 職業 冒険者

 年齢 20

 世界の英雄と言われた1人

 世界の英雄の中で一番年下>


<アイル·エラン

 アイル国の王

 年齢 35

 世界の英雄と言われた1人>


「すまないな、来て貰って」

「王も大変しょ?今回は何取ってくればいいの?」

「実はアイが腹を痛めだしてな、子痛草(こいんそう)が必要になったんだ。

魔物がいつ攻めてくるか分からない。

国からだすとしても、50人も行かないほどだ」

「いいよ。

俺がどれだけ強いか知ってるだろ?

世界も平和になって、なまってないかも心配だしな」

「ありがとう」

「おう!じゃあ行ってくるよ!」

「行ってらっしゃい」


<子痛草(こいんそう)

 どんな痛みも少しの間無くせる薬。

 アイはもう少しで赤ちゃんが産まれるため、痛みを感じないように必要。

 アイル山の天辺に生えている草>


<アイル山

 アイル山を登る為には、冒険者ランクS以上が必要。

 アイル山に向かう途中に山があるが、冒険者ランクによって、入っていいか決まっている。

 F~C 森の手前

 B~A 森の手前~中央

 S~英雄 森の手前~アイル山>


<ザイルが門の前についた>


「アイル様おはようございます」

「ザイルおはよう」


<アイル

 アイル国の神>


「今日も王のおつかいか?」

「子痛草ですよ…幸せになりやがって!」

「そうか。

そろそろ魔物が動きだすから、きおつけて行けよな」

「分かってますよ!それじゃあ行ってきます」

「おう!行ってら」


<国を出たら分かる事だ。

 動物や虫は居ない静かな森。

 木の葉が揺れる音、風の音がハッキリ分かる静けさ。

 こんなに静かなのは恐怖心もある>


 魔物はまだ山から出ていない?

 子痛草はアイル山なら何処でも生えている。

 近くの辺りを探すか。

 探している間や、取り終わった瞬間に出たら…考えたくない。

 木の枝を渡り合った方が速いし、渡り合うか…

 なまってそうで怖いな…体覚えていろよ?


<ザイルは木の枝を渡り合って、目的の場所までついた。

 そして子痛草を取り終わった>


 魔力がいつもより外に出ているから、子痛草がこんなに生えてたのか。

 速く戻ろう。


<戻ろうとした。

 だがザイルは帰れないと分かった。

 木が揺れ、土地が揺れ、空気は重くなった。

 山の中からデカイ音が聞こえた。

 それは、何万何十万の魔物の足音>


 は?ヤバイって…国に戻る?

 戻ったら魔物は何処まで進む?

 こんな数の足音、魔力探知しなくても分かる…

 こんな量…国に戻ったら必ず崩壊する…


<ザイルは悟った。

 自分が何処で死ぬのか。

 自分がどうやって死ぬのか>


「浮遊」


 山の中に魔法を放ってもいいが…

 まだいるか分からない。

 魔力探知をすると頭痛で済むか…

 いや…済まない。

 情報量の多さに脳が焼かれる。

 いいんじゃないか?嘘の英雄が、真の英雄として死ねるなら。

 いや…逃げたと思われるかもな。


「結界、魔力吸収」


 低ランクの魔物が、高ランクの魔力量を持つなら、魔力を体から出すしかない。

 その魔力をどれだけ吸えるか…そして、高ランクの魔物達は分かる。

 俺を殺さないといけない事が。


<魔物が叫び出した。

 そして、低ランクの魔物は足を止めた。

 上の方に顔を向けた。

 魔物達の視線は、ザイルに集まった。

 飛べる魔物は飛び。

 魔法を撃てる魔物は撃ち。

 両方出来ない魔物は、結界を壊そうと結界に攻撃している>


 結界は壊せない。

 お前らが漏らしている、魔力が有る限り。

 だが、結界の為に魔力を使いたくない。

 俺も、魔力吸収のお陰で、持てる魔力上限突破している。

 もう…体が持たない。


「死ねー!自爆」


<自爆

 魔力の量によってダメージがかわる>


 <魔物達が漏らしていた、魔力を吸った事によって、結界の中は大穴が空いていた。

 ザイルの体は何処にもない、それは当たり前の事。

 ザイルの体は何処にもない、魔物達は生きていた。

 結界の中の魔物は勿論死んでいる。

 山から魔物がゾロゾロと出てきた。

 まだ山奥に魔物が居たのだ>


<自爆の音は国まで聞こえる。

 その自爆は誰が使ったか分かる人間は、数人しか居ない>


<自爆の音が聞こえた、アイル国>


 この自爆…この魔力の匂い…魔物の魔力の匂いが強いが…間違いない…ザイルだ…

 嘘だろ?いや…違うかもしれない!まずは民に言わなくては。


<神アイルは分かっている。

 ザイルは死んでいると。

 だがそれを信じたくない。

 その気持ちが心の中をまんぱんにしている>


<アイルは、城の天井の上にテレポートを使った>


「民の者よ聞け!落ち着け!

教会に集まってくれ!必ず民の者全員を救える!

まずはゆっくり教会に集まってくれ!」


 これで国民達はゆっくり避難できる。

 避難の為に人員を使いたくない。

 どんだけ魔物が居るかも分からない。

 最低でもAランクの力だ…この国にAランク以上の冒険者は少ない。

 頼むぞ英雄達。


<王宮>


「ねえ!今の音って…自爆だよね?

山に居るのはザイルだけだよね?」

「…」

「ねえ!何とか言ってよ!ザイル!

子痛草を取りに行って貰ったのザイルだよね?!」

「…」

「ねえ!お願い!何とか言ってよ!」

「すまない…」

「あ…あー!」


 私の…私のせいでザイルが…ザイルが…


 ザイル…すまない…俺が頼んだから…

 自爆を選んだなら魔物はまだ居るはず…

 ザイルの死を無駄にしない!

 絶対に国には触れさせない!


「アイ、お前はここから出るなよ」

「待って!私だっていく!」

「来るな!お前の体は、1人の命じゃないんだ!

そして、俺達にとっての、弟の命もあると思え!

死を無駄にさせるつもりか!」

「分かった…!エラン死なないでね」

「勿論だ!国民が生きていけるのは、1人の英雄の死だ。

絶対に、その死を無駄にさせない!」


<エランが部屋から出た時。

 2人の泣きさげぶ声が王宮で聞こえた。

 大切な人の前で我慢した2人。

 目の前で泣かなければいいと思ったんだろう>


 私の…私のせいで!…私のせいで…ザイルが…


「あああああ!」


 俺の…俺のせいで!…俺のせいで…ザイルが…あの時…頼まなかったら…


「あああああ!」


<騎士団と魔法士の訓練上>


「お前ら!爆発音とアイル様の声が聞こえたな!

打ち合わせ通りに配置につけ!必ず国民を1人も死なせるな!」

「オー!」


 頼む!自爆は辞めてくれ!

 今森に行けるのはザイルだけだ…


「カイラ!

私達も観に行くわよ!」


<サミン·カイラ

 職業 騎士団団長

 年齢 30歳

 世界の英雄と言われた1人

 ミランの夫>


「ミラン。

お前は来るな!考えたくはないが…もし自爆をしたのなら…

魔物の数を数えれなかったって事だ。

魔法士のお前は逃げれる確率が無い。

アイの所に行くんだ。

エランとサルンも行くはずだからな」

「分かった!カイラ死なないでよ!」

「勿論だ!」


<サミン·ミラン

 職業 魔法士団長

 年齢 30歳

 世界の英雄と言われた1人

 カイラの妻>


<ミランが王宮に入った時。

 2人の泣きさげぶ声が聞こえた>


 2人共…


<冒険者ギルド>


「冒険者ども!

爆発音とアイル様の声が聞こえたな!

お前ら冒険者は、騎士団と魔法士団と一緒に戦い国民を守れ!

お前らも死ぬな!死ぬつもりで戦うな!生きるつもりで戦え!」

「オー!」


<アフル·フヤン

 職業 ギルド長

 年齢 35歳

 世界の英雄と言われた1人>


 ち。

 ふざけんなよ!ザイル!最少年が死ぬんじゃねえよ!

 俺はまだ諦めないからな!


<門の近くで3人が集り。

 爆発した所まで集まった>


「ヤバいな…」


<そこには…魔物の大群がいた。

 その数は約9000の魔物がいた。

 山から魔物は出てきていない、これがラストの数だろう>


「魔物の数はやっぱり少ない…

フヤン、カイラ、絶対に死ぬなよ!」

「当たり前ですよ!

亡き僕達の弟の為ですから」

「当たり前だ!

俺らの命は、弟に助けられた命だ!

死んでたまるかよ!」


<この戦いは、新たな英雄の話しになった。

 動ける英雄4人はまた称えられた。

 だが、ザイルの評判はもっと悪くなった>


<ザイルの評判が悪い理由

 英雄の中で、最年少というのが理由だ。

 英雄になったのも10代。

 才に恵まれた人間は嫌われる。

 その才を認めない。

「ザイルが運良く偶然、英雄のパーティーに居たから、英雄になっただけ」

 この言葉が世界に広まるのは遅くない。

 そして、今回の出来事は。

 ザイルだけが、国の前に現れなかった。

「あいつは逃げた!」

「国民を見捨てたんだ!」

「何が英雄だよ!運良く偶然、英雄のパーティーに居ただけなのに!」

「英雄様方は優しすぎる!

ザイルは戦って死んだって言うなんて」

 アイル国に住んで居る者は観ていない、ザイルが戦っていた事を。

 神と天使、そして仲間は観ていなくても分かる。

 戦って死んだのだと。

 本当の英雄はザイルだと言う事を。

 この事も世界に広まり、真実を観ている者はいない。

 国民達の言葉を、世界の人間達は信じる。

 そして、ザイルの名誉の為に、英雄様方は嘘を言っているだけだとなり。

 英雄達の評判はまた上がった>


<この事を知った、エランとアイルの会話>


「アイル様!何故大半の国民をこれからも守らないといけないんですか!

人間達は、真の英雄を侮辱している!前からそうだった!

大半の国民達は、あの時命を救って貰ったんですよ!

ザイルに!なのに!…なのに!…何故これからも守らないといけないんですか!」

「エラン。

お前の気持ちも分かる。

俺だってそうだ」

「じゃあ何故!」

「この国と国民の命は、ザイルに救われた。

この国と国民の命は、ザイルの命みたいなもんだ!

自分を犠牲にしても守った命達を、見捨てるのか!

ザイルの命は、もうこの世には無い!

だが、ザイルが守った命はある!

それをお前は、見捨てるのか?」

「分かっているんです…だけど…だけど!…耐えきれない!

俺達のパーティーメンバーを!俺達の弟を!」

「耐えなくていい。

大半の国民を守ろうとするな。

ザイルが救った者を守るんだ。

大半の国民達の為ではない、ザイルの為に守るんだ」

「国民を守ろうとしなくていい?」

「そうだ。

何故人を殺した人間を救う?

言葉と言うのは、救いでもあるし、殺しでもある。

言葉のせいで、自殺した人間は少なくない。

だが言葉のお掛けで、救えた人間も少なくはない。

大半の国民は、ザイルに死の言葉をいった。

だが、ザイルに救いの言葉をいった国民もいる。

救いの言葉を言った国民達を守れ。

守りたくないのに、守る意味等無い」

「はい!」

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裏の英雄 かいとも @kaitomo

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