第58話:即位

 僕にとっては物凄く辛い人質救出作戦だった。

 人質になった行商人は誰1人殺されていなかったが、酷い拷問をされていた。

 本当なら失われた身体を治す事はできない。


 だけど、こちらにはエリクサー薬草があり、伝説の回復薬を作れる新王家とつながりがあるので、エリクサー薬草とエリクサー回復薬を交換できた。

 人質になった人たちの身体を元通りにする事ができた。


 僕たちは人質を取り返して賠償金を支払わせたら、直ぐに開拓村に戻った。

 その後で愚かな貴族と一族がどのような目にあわされたのかは、僕の心を平穏を保つために聞かないことにした。


 もう王侯貴族にはかかわらないと心に誓ったのに、王家から使者が来てしまった。

 無視したかったが、大人たちが会うと決めたので仕方なく同席した。


「貴方方にどうしてもやってもらいたいことが有ります。

 このままでは王家の名誉が地に落ちたままで、まともな国交ができません。

 我が国を救う、大陸に戦火を起こさないためにも聞き届けていただきたい」


 王家が送って来た使者は必死だった。

 開拓村と行商人村の主だった者がその場にいたが、大人だけじゃなくウィロウも一緒にいてくれるので安心できた。


「貴方方は王家との交渉の時には既に独立国だった、魔王国の代表だった。

 国王陛下が交渉されたのは行商人ではなく、恐ろしい魔王国の代表だった事にしていただきたいのだ!」


 相手がロック鶏だとは言っても、神の代理人を名乗る国王が、交渉中に恐怖で小便をちびったと言うのは外聞が悪すぎるそうだ。


 相手が魔王で、ロック鶏に殺されそうになったが、必死で抵抗して交渉をまとめ上げた事にしたいらしい。

 

 僕は、よくそんな身勝手な事が言えると腹を立てたのだが、お父さんとお母さん、フィンリー神官、ジョセフ行商隊代表は違う考えだった。

 王家の使者に席を外させて、全員で今後の事を話し合った。


「国を建てるのは問題ない、望むところだ」

「でも魔王国は駄目、ケーンを魔王なんかにはさせられないわ」


 父さん、お母さん、いったい何を言っているのですか?


「そうですね、教会が始めた開拓村から魔王が生まれたと言うのは受け入れられません、ここは神から王のスキルを授かった者がいた事にしましょう」


 フィンリー神官まで何を言っているのですか?

 物凄く嫌な予感がするのですが、間違いですよね、思い違いですよね?


「1つ確認しておきたいのだが、本当に教会は建国を認めてくれるのだな?」


 ジョセフ代表は物凄く真剣です。


「はい、教会にも欲深い者がいます。

 エリクサー薬草を少し渡せば、開拓村を独立国扱いしてくれるでしょう。

 このまま勝手に教会を離れて独立宣言しても問題ありませんが、教会の庇護下にある国としておいた方が、何かと都合が良いでしょう」


「本当に教会の庇護下にいた方が都合が良いのか?

 何ならケーンが造ってくれた行商人村だけで建国しても良いのだぞ?」


 ジョセフ代表がフィンリー神官を睨みつけながら言います。


「教会の庇護下に残り、神々から王のスキルを得た者が建国した国となれば、多くの民が移民にやって来ます。

 再び行商を始める時も、領主が害を与えようとしても、神々を信じる領民が反対してくれますよ」


「……行商を再開するしないは、真剣に話し合わなければいけないが、領民を味方に付けるために教会の庇護下に残る件は了解した」


 もしかして、開拓村が建国宣言をする事に決まってしまったの?

 今の話の流れだと、僕が国王になるんだよね?

 僕、絶対に嫌なんだけど!


「ケーン、男には嫌でもやらなければいけない事が有るんだ」


「ケーン、貴男が国王になるなんて、お母さん本当にうれしいわ」


「そんな事言われても無理だよ、国王なんてやれないよ!」


「そんなに大げさに考えなくても大丈夫、これまで通りにしていれば良いのです」


「でもフィンリー神官」


「本当にこれまで通りで良い、何も変えなくて良い」


 ジョセフ代表まで無理無体を言う!


「これまで通りと良いのなら、毎日旅に行くよ、夜しか戻らないよ?」


「それで大丈夫だ、開拓村はこれまで通りフィンリー神官が管理する。

 行商人村はジョセフ代表が管理するだろう。

 ケーンは子供の頃からの夢だった旅に行けば良い」


「そうよ、ケーンは好きに生きて良いのよ。

 でも、お母さんとの約束は守って、毎日晩御飯前に帰って来てね」


「……本当にそれで良いのなら、形だけ国王になっても良いよ。

 ただ、ウィロウが行商に行くなら、僕も一緒に行きたい」


「はっはっはっ、それこそこれまで通りだ、かまわないぞ。

 ただ、行商を再開するかはこれから話し合う、ケーンも同席してくれ」


「はい!」


 結局、僕が国王となって新しい国を建てる事になった。

 教会が承認した新王国で、お父さんの名字からラッセル王国と名乗った。


 行商は再開されるが、必ずロック鶏が護衛につき、何かあっても直ぐに助けられる街や村の外で取引する事になった。


 僕は相変わらず世界中を見て廻りながら行商にも同行している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします! 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ