最終話…とか言いたい。
仕事が終わり鳳と会社の外に出ると近くの居酒屋に向かう。
席に着くとお通しが差し出されて、お互い生ビールを注文した。
「それで。誰にするんだ?」
鳳は唐突に質問を繰り出してきて僕は首を傾げる。
「誰って…まだそんな気にはなれませんよ」
「まだ言ってんのか…早いこと次の恋をしたほうが良いぞ」
「そうですかね…僕はもう一人でも良いんですけど…」
「何言ってんだ。いつかは一人になるかもしれないけど。その過程では幸せを享受すればいいじゃないか。何も進んで一人になる必要はないだろ」
「まぁ。そうですけど…」
言葉に詰まって相槌を打つことしか出来ずにいると店員が生ビールを運んでくる。
とりあえず乾杯をするとジョッキを口に運んでいく。
グビッと何口か飲み込むと割り箸を割ってお通しに手を付ける。
「ずっと一人はきっと辛いぞ」
鳳の言葉に適当に頷いて応えるとそこからも話は続くのであった。
数時間の飲み会がお開きとなると終電に乗り込んで帰路に就く。
帰宅する車内でスマホをいじっていると導から連絡が届く。
「鳳先輩とご飯行った?」
その的を射た質問に返事をすると導は直ぐに返事をくれる。
「海鮮料理のお店行こうって話ししてたでしょ?最近、県外に移転したんだって」
「そうなんだ…残念だね。また長い休みがあった時にでも行こうか」
「うん。それでお願いね」
それに適当なスタンプを押すと自宅近くの最寄り駅で降車する。
少しの酔いを感じながら自宅までの道程を歩いていると目の前から見覚えのある女性が現れる。
「吉乃…」
「彼方…あのね…」
彼女は思い詰めた表情を浮かべており僕は心配になって彼女の側に駆け寄る。
「どうかしたのか?」
「うん…その…子供産むって言って実家に戻ったんだけど…気まずくて」
「まぁ…そうだろうね」
「私どうしたら良いのかな…」
「どうしたらって…」
言葉に詰まってしまい思った通りに口が回らなかった。
僕は吉乃をどうしたいのだろうか。
目の前で今でも傷付いている彼女を許すべきなのだろうか。
少しの酔いも残っており思考が上手に回らなかった。
「戻りたい…」
吉乃は僕に懇願するように言葉を放つと胸に顔をうずめるようにこちらに飛び込んでくる。
「僕は…」
なんと言えば良いのか分からずにただ困り果てていると吉乃はその場で膝をつく。
そのまま土下座をする様な構えを取ると深く頭を下げた。
「勝手なことをして、また勝手なことを言うけど…お願い。私とよりを戻して」
その言葉に僕は考えを巡らせる。
お腹の中の子供を愛することは出来るのだろうか。
僕のではない赤の他人の子供を愛することが出来るのだろうか。
ただ僕は今でも吉乃を想ってしまっている。
身近に魅力的な女性が沢山好意を寄せてくれているのに誰にもなびかなかったのは、心のなかでいつまでも吉乃が住み着いているからだろう。
最終的にそんな思考に陥ると僕は吉乃を受け入れることを決める。
「わかった。戻っておいでよ」
「良いの…?」
吉乃は涙を流して僕の顔を見上げていた。
「もう良いよ。結局僕は吉乃を忘れられないと思うし」
「本当に良いの?こんな私で…」
「何回も聞かないでよ。お腹の中の子供も含めてちゃんと愛すから。もう行こう」
僕は吉乃の手を取るとそのままマンションへと帰っていくのであった。
吉乃と復縁したことを彼女らはSNSで知ったらしく、その日以降僕には関わろうとしなかった。
それもそのはずだ。
僕に呆れて離れていったのだろう。
それでも僕には吉乃がいる。
それでいい。
遠い未来で僕と吉乃と子供の三人で仲睦まじく過ごしている。
吉乃はあれ以来、過ちを犯さなかった。
一度の過ちぐらい僕は許せる。
何も間違えない人間なんて居ないだろう。
どんなに大事な人間でも傷つけてしまう時がある。
取り返しのつかないことだってあるだろう。
けれど二人が生きているのなら何度だってやり直せる。
何も問題はない。
僕らはこれからも末永く共に生きていく。
何度間違えようと何度でもやり直そう。
僕に訪れたモテ期は終了し安寧が訪れる。
吉乃が僕らの周りの全体を巻き込んだ一件はもう忘れられ、みんな幸せに生きるのであった。
………とか言いたい。
完
人生で初めて元カノが出来た途端に始まったモテ期の理由を僕はまだ知らない ALC @AliceCarp
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。