第23話上司
お盆が明けた次の日に私はスーツに着替えるといつも通りの時間に出社する。
上司に退社願いを出すと一言。
「今までお疲れ様」
それだけ言われて私の社会人としての人生は一時終りを迎えた。
デスクの荷物をまとめるとタクシーにそれを詰め込んで実家に帰る。
「子供を産むまでまだ時間があるでしょ。動ける間はお母さんと家事の分担をしましょう。身体に無理のない範囲で手伝ってちょうだい。何もしないのは気が引けるでしょ?」
母親は帰ってきた私に問いかけて来るのでそれに黙って頷く。
「それにしても成人した娘とまた一緒に暮らすって少しだけ変な感じね。吉乃はもう戻ってこないものだと思っていたから…お父さんもお母さんも何だか嬉しいわ」
母親は私の事を慰めるような表情で口を開くので少しだけ申し訳ない気持ちに見舞われる。
「負担掛けないように努めるね」
「何言ってるのよ。負担だなんて思わないわよ」
母親の優しさに触れて私は今日も泣きそうになる。
けれど涙を堪えると荷物を自室に運んで部屋着に着替えるのであった。
お盆明けの出社は思った以上にカロリーが高かった。
目覚めてすぐに身体がだるいような気がしてならなかった。
休みの間は十二分に休養を取れたはずなのに、すでに何処か疲れているような不思議な感覚を覚えた。
どうにか身支度を整えて出社をすると早速上司に声を掛けられる。
「彼方。女性に囲まれた休日は満喫できたか?」
そう言う上司も女性であり僕よりも三つ上の先輩である。
「特にこれと言って進展は無かったんですが。満喫は出来ましたよ。久しぶりに良い気分でした。自分がモテているような不思議な錯覚に陥るぐらいには」
僕の言葉を耳にした
「お前…それ本気で言ってるのか?」
「え…?はい」
正直に応えると鳳は呆れたように嘆息する。
「女性陣が可哀想過ぎる…。お前は女心が分かってないのか」
「そう言われましても…」
「何処に好意のない男性と旅行する女性が居るっていうんだよ」
「そうですかね…僕らは同僚ですし…何より同期ですから」
「関係ないだろ。じゃあ同級生の女性と旅行したことあるのか?」
「そう言われますと…」
そこで言葉に詰まっていると鳳は呆れたように口を開く。
「もう少し女性の心に敏感になったほうが良いぞ」
「はい」
返事をするとデスク下にあるパソコンの電源を入れる。
「そう言えば…」
鳳はまだ話の途中らしく、わざとらしい感じで続けて口を開く。
「私とも一度も食事に行ったことがないな。恋人が居るからって毎回断っていただろ?」
「そうでしたね」
「今日なんかどうだ?お盆明けで休みボケも続いているだろ?」
「そうですね…僕は良いですけど」
「よし。じゃあ仕事が終わり次第、食事に行こう」
鳳の言葉に頷くと僕らは夜に食事に行くことが決定するのであった。
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