第22話お盆休みも明ける

翌日、鏡子と駅前で待ち合わせをすると映画館へと向かう。

「上映スケジュール調べた?」

鏡子は当然の質問をしてきて僕は頷いて応える。

「何か観たいのあった?」

「うん。でもアクション映画だから…女性は楽しめるか…」

「いや、大丈夫。役者の筋肉見てるから」

「そう言えば筋肉好きなんだっけ?」

「うん。大きい筋肉よりも硬い筋肉のほうが好み」

「硬い?」

「そうそう。細くても硬そうな筋肉の人って居るでしょ?」

鏡子はそこまで口にして僕の晒されている腕を眺めていた。

「ん?」

首を傾げて続きの言葉を待っていると鏡子は深く呼吸をする。

「ちょっと触らせて」

「腕を?」

鏡子はそれに頷くと僕の了承を得ることもなく腕を触りだす。

「やっぱり硬い」

彼女はうっとりとした表情で僕の腕を擦ると官能的な声を漏らす。

「ちょっと…まだ昼だけど…周りの目もあるし」

「映画館のシート。カップルシートにしよう!私がお金払うから」

「何か企んでない?」

「映画中、腕を弄らせて」

「えぇ〜…映画に集中できるかな…」

「良いから良いから!集中できなかったら何度も観ればいいでしょ」

「何度もって…その度に弄ろうとしてない?」

「バレたか」

映画館の中に入ると鏡子は僕の了承を得ることもなくカップルシートを購入すると館内へと入場した。

カップルシートに腰掛けると丸いソファのようなシートで靴を脱いで足を伸ばした。

「じゃあ失礼して」

鏡子はそこから映画のCMが流れ始めてから上映終了時間まで宣言通り腕を弄っているのであった。


「映画に集中できなかった…途中で腹筋まで触ろうとするし…映画館はそういう場所じゃないです」

上映時間が終了して外に出ると軽く鏡子に注意をする。

「上映時間中に言わなかった彼方も同罪でしょ」

「言えないでしょ。私語禁止じゃないけど…マナー的に声は出せないでしょ」

「またまた。本当は嬉しかったくせに」

「どうでしょうね」

呆れるように嘆息するが鏡子は僕の腕に抱きついたまま歩き出した。

「何で筋肉フェチになったの?」

僕の質問に鏡子は過去を振り返るように口を開いた。

「元カレがガリガリだったんだけど…ある日、ふざけ合ってたら相手の骨が折れちゃって…そこからは細くても健康的で筋肉質の人を求めるようになったの」

「骨が折れるって…」

「彼方が仕事中に資料室で重たいダンボールを持ち上げていた時にたまたま見ちゃって…」

「何を?」

「暑かったのか腕まくりしてたんだけど…凄く筋が出てて硬そうだったんだよね。だからなんかその日から目で追うようになっちゃって…それで普段から魅力的なのを知って好きになったんだよね」

なんとなしに頷いて応えると鏡子は僕に懇願するように口を開く。

「じゃあ腹筋も触らせて♡」

それに呆れるように嘆息すると首を左右に振る。

そのまま僕らは駅まで歩き出すのであった。


「明日から仕事だね。心の整理はついた?」

「まぁ。もう大丈夫だと思うよ」

「そう。じゃあ明日からまた頑張ろうね」

「ありがとう。今日は解散でいいかな?」

「明日も早いし…でも…」

鏡子は何か言いたげだったが駅に電車が丁度やってきて僕らはそこで別れることになる。

明日からは、お盆休みも明ける。

ここからまた何かが起きそうな予感を感じながら明日に備えるのであった。

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