第21話県外の山の中腹のカフェまで
瑠璃とのドライブの果に県外の山の中腹まで来ていた。
「もうすぐ着くよ。超穴場だから」
彼女は嬉しそうに口を開くとこの先にあるカフェを楽しみにしているようだった。
「瑠璃はお昼食べた?」
「まだ。カフェで軽食が食べられるから。そこで済ませようと思って。彼方は?」
「僕もまだ。同じ様にカフェで昼食にするよ」
「ナポリタンが良いよ。パスタを前日に茹でてタッパーに入れて冷蔵庫で保存してるの」
「ふぅ〜ん。手が込んでるみたいだけど…それだとどうなるの?」
「めっちゃモチモチのパスタになる。超美味しいよ」
「じゃあナポリタンにする」
「私もそれを楽しみに来たんだ」
瑠璃は子供のようにはしゃいだ笑顔を浮かべると狭い道路の右手にカフェらしき建物が見えてくる。
そこに車が入っていくと駐車場スペースに車を停める。
車から降りると一つ伸びをしてカフェへと入って行った。
静かな店内のテーブル席に腰掛けるとメニューを開いた。
「私はナポリタンとアイスコーヒー」
瑠璃は決まりきったルーティンがあるらしくメニューを見ずに口を開く。
僕はメニューを端まで見るのだが結局瑠璃と同じものを注文した。
「もちろん来るの初めてでしょ?」
「うん。車運転するけど…山には来ないから」
「だよね。もう少し登ると広場みたいな場所があるんだけど。冬の夜にそこから下界を見るとイルミネーションみたいでキレイなんだよ」
「へぇ。良く知ってるね」
「まぁ。元カレから教えてもらったんだけど」
「噂の元カレ?」
「そう。バイクが趣味で…車の免許はないのに中型のバイクの免許は持ってたんだよ」
「へぇ。バイクで山を登ってたのかな?」
「そうみたい。それでたまたま見つけた場所らしい」
それに頷いて応えると軽く想像をする。
バイクで風を切りながら気持ちよく山を登っていき、偶然にも見つけたその場所で見た景色。
それは一生忘れられないものになるだろう。
そんな景色を自分の恋人と共有したいと思った元カレはダメ男だったのだろうか。
「良い元カレだったんじゃない?」
どうしてその様な質問をしたのか自分でも分からなかったが瑠璃に問いかけると彼女は首を左右に振る。
「全然。ヒモみたいなやつだったよ」
「そうなんだ…無職だったの?」
「そうね。毎日ギャンブルして過ごしてたわ。たまに勝つと気分良く帰ってきて色々買ってくれたけど」
「たまに聞く話だけど…本当にヒモの彼氏とかって存在したんだ」
「するよ。普通があるってことは普通じゃないがあるってことだから」
瑠璃は少しだけ難しい言葉を口にすると呆れるように嘆息した。
「今は何処で何をしているか。借金でもして追われているかも」
「ちゃんと別れたんだよね?」
「もちろん。私も途中で目が覚めてね。もう関わってないよ」
「そっか。もしもなにかあったらいつでも相談してね」
「ありがとう。やっぱり彼方は大人で優しいね」
それを否定する訳では無いが首を左右に振る。
そこに丁度、注文していたものが運ばれてきて遅めの昼食の時間となる。
ナポリタンは王道でシンプルなものだったが麺だけは特別仕様だった。
モチモチの麺に味が染み込んでいて非常に満足感を覚える。
アイスコーヒーも挽きたてだったのか味も香りも深いものだった。
深い満足をすると会計を済ませて車に乗り込んだ。
「じゃあ戻ろうか。休日を利用して部屋の片付けしないと」
瑠璃は面倒くさそうに口を開くと車を発進させる。
「部屋は片付いてないの?」
「いや、普通に片付いてるけど…掃除は微妙かな。仕事を言い訳にして家事を疎かにしてるのは確かだから。休日に纏めてやらないと埃がすごいかも」
瑠璃は自嘲気味に微笑むと軽く鼻をすすった。
「僕も帰ったら部屋の掃除しよ」
「ずっと休日が良いのにな」
「そうなったら暇を持て余すかもよ」
「そうはならないでしょ?皆で集まればいつでも楽しく過ごせる」
「それもそうだね…」
そんな他愛のない会話を繰り返しながら僕らは帰路に就く。
街の駅前で降ろしてもらうとその足で帰宅した。
帰宅すると夕方でそこから夜がやってくるまで掃除をして過ごすのであった。
晩酌をして過ごしていると鏡子から連絡が来る。
「明日空いてる?映画でも観に行かない?」
それに了承の返事をすると僕らは明日デートをして過ごすことが決定するのであった。
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