第20話瑠璃はドライブが好き

何事もない一人の一日が過ぎ去っていくと翌日のお昼頃にスマホに通知が届く。

「今から戻るんだけど今日って時間ある?」

瑠璃から連絡が届いて僕は了承の返事をする。

「じゃあ、お昼すぎに戻るから駅で待ち合わせしない?車で向かうから乗ってよ」

「良いの?また運転頼んで…」

「構わないよ。カフェでも行こう」

「了解」

返事をすると風呂場に向かって一度汗を流した。

身支度を整えてマンションを後にする。

駅を目指して歩いていると見覚えのある車が道の端を通り抜けていく。

(あれって吉乃の父親の車じゃないか…?)

瞬間的に見えた助手席の見覚えのある女性の姿を思い出していた。

(吉乃だよな…。実家に戻るのか…幸せになればいいな)

そんな憶測や他人事な感情を抱きながらネガティブになりかけた心を無理矢理切り替えた。

駅までの遠くない道のりを歩いて向かうと瑠璃から通知が届く。

「もう時期着くから」

それにスタンプで了解の返事をすると駅のコンビニへと向かう。

水を二本買うとロータリーの時計台の前で瑠璃を待った。

しばらくすると可愛らしい軽自動車が僕の前で止まるので中を覗き込む。

「おまたせ。乗って乗って」

瑠璃の言葉に従って助手席に乗り込むと彼女に水のペットボトルを手渡す。

「ありがとう。でもこれからカフェに行くんだよ?そんなに飲めないよ」

「いやいや。夏だから。水分補給はこまめにしておいて損はないよ」

「それはそうだけど。とにかくありがとう。じゃあ出発〜」

車が発進すると車内には懐かしの音楽が流れている。

「懐かしい曲だね」

「でしょ?同い年だから学校で流行った音楽も一緒なのかな」

「かも。文化祭でこの曲を演奏していた友達がいる」

「私も居た。あの当時カラオケに行くと皆歌ってたよね」

「そうそう。同じ曲二回も聴きたくないから誰が歌うか早い者勝ちだった」

「懐かしい〜。あったな…そんなこと〜」

懐かしい昔話をするには僕らはまだ二十四歳と若すぎる。

けれど同年代の人間と十年近く前の話をするのも悪くない。

甘い懐かしさに身を委ねていると瑠璃は唐突に口を開く。

「元カノと付き合う時、どっちから告ったの?」

その昔話はそれほどしたい気分では無かったが過去を思い出したついでに話をする。

「僕だよ。吉乃は学校でも絶大な人気者で…先輩後輩関係無くファンが居たよ。一番驚いたのが当時、学外合唱コンクールが行われたんだけど…その時、他校の生徒にも告られてたんだ」

「学外合唱コンクールって何?」

「ん?近隣の中学校が合同で合唱コンクールをして順位を競う催し物」

「へぇ。そんなのあったんだ。そこで他校の生徒に一目惚れされたって感じ?」

「そうそう。その時から僕らは付き合っていたから鼻が高かったな」

僕の言葉を耳にした瑠璃は軽く微笑んでいた。

そこで瑠璃が運転する車が高速道路に乗ったため若干の疑問を覚える。

「あれ?近所のカフェじゃなかったの?」

「うん。ドライブがてら県外のカフェに行くよ」

「そっか。運転大丈夫?きつくなったらいつでも交代するから」

「大丈夫だよ。でもありがとう。気持ちだけもらっておくね」

瑠璃の言葉に頷くと僕らはその後も懐かしの曲に身を任せながら県外のカフェへと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る