12月29日(駅前)

幼馴染の亜紀はどさくさに紛れて触ってくる




やってしまった……幼馴染だぞ。友人、友達、親友。もしくは家族のような相手だ。


小学校からいつもそばに居て私の事を親よりわかってくれている人だ。そんな相手とキスをしてしまうなんて……


私は亜紀が出て行った扉を見つめる。


これ次はどんな顔して会えばいいっていうんだよ。


悠木涼と凪沙は付き合う前からキスしてたって言っていたが、よくそれで平然としていられたな……いや、あいつらは慣れてるのか?凪沙だって付き合っていた相手がいたわけだから、キスくらいしたことあるだろうし、悠木涼だってありそうだよな……


もしかして私が遅れてる?


いやいや、高2でもキスしたことない奴なんていっぱいいるだろう。


亜紀はないはずだしな!



亜紀……



別に嫌だなんて思わなかったし、柔らかくて意外と気持ちいいものだと思った。ただ唇を触れ合わせただけだったけど、こんなにも心が乱れるなんて……


ただの幼馴染、友人、親友から次はキスをした幼馴染、キスをした友人、キスをした親友に変貌を遂げたんだと私はベッドで頭を抱えた。


♢♢♢♢♢♢


そして29日。


日曜日は会わずに避けれたが、今日は凪沙との約束もあるから避けては通れない。


ソワソワと制服に着替えて亜紀とのいつもの待ち合わせ場所に向かう。


向かう?


玄関に行こうとリビングの前を通り過ぎようとした。


「いや、なんでいるんだよっ!!」


リビングからちはやの楽しそうな声と聞き覚えしかない亜紀の声が聞こえてきて、扉を開ければ楽しそうにトランプをしている2人が目に入った。


「迎えにきた」


ちはやがせっせとトランプを片付け始める。律儀な奴だな!!


「なぁ、凪沙ちゃんと出掛けるんでしょ?」

「ん?そうだけど?」


トランプを箱にしまいながら、ちはやが凪沙の名前を口にした。ちはやと凪沙は前に一度会った事がある。ちはやと亜紀と3人でショッピングモールに買い物に行った時に偶然出会したのだ。


その時は恥ずかしそうに後でモジモジしていたが、家に帰った後『あの人めっちゃ綺麗な人だった!姉ちゃんの友達とかありえねぇ!!』とか喚いていた。しっかりとコブラツイストをかけて黙らせたが……


「俺も凪沙ちゃんに会いたいんだけど……」

「は?」


「ちはやって凪沙さんの事好きなの?」

「………」


箱にしまったトランプを弄びながら、私たちに見つめられてちはやは視線を逸らした。


まだ小学生のちはやが凪沙の事を意識しているなんて、マセすぎではないか?今の小学生ってそんなもんなのか?

私が小学生の頃なんて、ずっと亜紀と一緒に遊びまくっていたから恋の「こ」の字も話題にならなかったし、意識すらしていなかったぞ?


「凪沙は諦めな。あいつ恋人いるから」

「え!?恋人いるの?前はいないって言ってたのに……」


「最近付き合い始めたんだよ。今日出掛けるのも、凪沙の恋人がバスケの練習試合するからだし」

「どんな人?バスケやってるってことはかっこいい?」


恋人がいるって言えば素直に諦めるかと思えば、逆に食いついてきたな……


「まぁ、かっこいいんじゃないか?モテるタイプだし。ただ、凪沙にベタ惚れしてるから、凪沙に近づいてくるやつがいたら噛み付かれるかもな」


若干引き攣った顔をしたちはやだが「俺もバスケ始めようかな……」なんて呟いていて、諦めないで自分を磨こうとする姿勢に感心した。




ちはやの事もあってどんな顔して亜紀に会えばいいのか悩んでいたのが、結局は有耶無耶な感じになり駅までの道のりをいつものように2人で歩いている。


「凪沙さん。小学生のちはやまで魅了しちゃうなんてすごいね」

「ちはやがマセてるだけだろ」


「そんなことないと思うけど?小学生くらいになれば好きな子くらいできると思う」

「……そうか?」


「そうだよ」


表情を変えずにまっすぐ前を見ながら答えてくれる。


ただあたしが恋とか興味がなかっただけなのか、亜紀も小学生くらいの時には好きな人とかいたのかもしれない。聞いたことはなかったけど、あたしの事をいつから好きなんだろうか……


「それで、ちさきはどう?」

「どうとは?」


「この間私と――」

「あー。あれね。アレ……別に?なんともないけど?」


昨日一日中亜紀とのキスを考えていたなんて言えなくて少し強がりを見せる。


「ちさきは嫌じゃなかった?」

「亜紀とは長い付き合いだし?嫌だなんて思わなかったよ。嫌いなやつだったら、そりゃ嫌だとは思うだろうけどさ」


「そっか」


あまり表情の変えない亜紀だが、なんとなく嬉しそうにしている。


幼馴染で小中高と一緒にいるんだし、嫌いだったらもうとっくの昔に離れているわ。今もこうやって2人で同じ制服を着て一緒に学校に行くのも、割と好きなんだ。だから一緒にいる。


そうか、キスをした幼馴染になっても亜紀は変わらず、家に来てちはやと遊んでくれて、あたしと一緒に学校に行く。少し変化をしても亜紀の態度は変わらないし、その変わらない部分があたしが好きなところなのかもしれない。


「うん。やっぱり亜紀といるのが楽で良いわ」

「ん?どういうこと?」


高校を卒業した時とか、環境の変化とか周りが変わっていくことはあっても、亜紀が変わらずそばにいてくれたらあたしは楽しく生きていけそうな気がする。


「いや、ずっと一緒にいてぇなって思って」

「え……それって………」


ん?なんかあたし変な事言ったか?


「……プロポーズ?」


「は!?いや!!違っ!!違うから!!そのままの意味だからな!?」

「そのままの意味だよね?」


亜紀があたしの手を握ってくる。

あたしは逃げるように足を進めるが、握った手を離さないで引っ張ってくる。


前言撤回、亜紀の態度はかなり変わった!




亜紀は駅前であたしに抱きついてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どさくさに紛れて触ってくる百合 シャクガン @yamato_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ