第27話 海軍基地での会談
「あらよっと……」
舞い降りる赤いオーラが着地すると屋根に沿ってオーラが霧散する。ラファエラが振り返ると高い屋根の建物ばかりで、路地には自分を追っているであろう警官達の右往左往する姿を興味深げに眺める。彼女の持つ杖にはめ込まれた赤い龍結晶がぼんやり光る。
【何を見ている?】
「おとうさま。あの人たちは龍結晶もないのに、どうして私を追うの?」
【それが奴らの仕事だからだ】
「私と会ってどうするの? 龍剣士からは逃げられないし、死んじゃうだけだよ。」
【……】
「叶わないと知っていながら。どうしてやってくるんだろう」
【ラファエラ】
「なぁに?」
【あいつらのことは考えるな。今はあの『雑種』をどうにかしなくてはならない】
「うん。……あ、そうだ。聞いて」
【どうした】
「あのカルミアって龍剣士。私たちと同じ流れを感じるの、あの人はどうして……?」
【……今は隠れる事に集中しろ】
「……うん」
再び飛翔する赤いオーラは次第に内陸の森へと消えていった。
―――
プロイサの港湾にあるのは貿易用の港だけではなく、先に完成している港と施設。それらの鉄の軍艦にはイングリウム王国の旗がはためいていました。
あのまま寝転がったアプリコットを私とハイゼルさんが車に運び込んでホテルからは離れました。流石に襲撃のあった場所に留まるのはマズいですからね。
あわや会談はご破算になりかけましたが、私が無理を言って帰ろうと主張するハイゼルさんを引き留めました。ならばとイングリウム軍の施設内なら良いだろうと、妥協案はすぐに決まり、こうして私たちはプロイサに駐留する「イングリウム海峡艦隊」のお世話になる事になりました。
基地司令の方は前回の僻地の陸軍の司令とは違い、立派な軍服の胸に勲章をジャラジャラ付けているタイプでした。所作からして貴族とは分かりましたが、あいにく龍剣士ではない軍人はあまり有名ではないのです。
突然の来訪でも歓迎を受けた私たちはすぐさまゲストルームへと案内されました。
荷物を置いて一安心……っと思ったら。昼過ぎに到着したのに夜から会談の席を用意してくれたようです。ホテルの会食や道具は全てタクシーで配送して水兵さん達の使い終わった訓練施設を間借りした会場には、先ほどよりは少ないものの資本家さんたちが集まって行くのが待っている部屋から見えました。
先ほど庇った事でところどころ服が燃えてしまったルイーズ市長も着替え直して出席です。施設には多くの兵士が警戒しハイゼルさんのように低出力の龍結晶を保有するイングリウム歩兵ではさすがに来る様子はないようでした。
「はい!こちらを向いてください!」
カメラマンを呼んでの記者達の前でルイーズ市長と握手を交わしました。私たちが顔を向ける後ろでアプリコットがカメラに入るように笑顔を見せます。どうやらカメラがどんな装置であるのかを理解して、どのように映るとみんなが喜んでいるのかを知っているような。意思は分かりませんが……。
「ありがとうございます。カルミア様」
一連の撮影などを終えて二人きりになった時にルイーズ市長から礼を言われました。一応とぼけておきます。
「なんのことでしょう?」
「会談が上手くいかずに妨害されていれば、新しいプロイサの信用に傷がついていた事でしょう」
「私はテロに屈したくなかっただけです。今の私はイングリウムの使節でもありますから」
「イングリウムは巨大です。その巨体を支える足腰があれば、どこの国でも巨体の持つ腕によって破壊されるでしょう。しかし……」
ルイーズ市長は冠りを振るいます。
「巨体を維持する負担を強いる足腰はいつまで体の言う事を聞いてくれるでしょうか」
永遠などない。イングリウムの時代もいつか終わる。それを理解出来ないわけではありません。ですから余計に疑問だったのです。
「新しいプロイサが港湾都市としたのは、イングリウムに完全に背中を預ける事を意味すると思いますが……。イングリウムの時代が終わると思われるなら、この海峡が将来どこかしらの敵の艦隊に封鎖される可能性もあるはずです」
「はい」
「でしたら。遷都推進派の方はどのような形での平和を望んでいるのですか?」
「従属……と言えば聞こえは悪いかもしれません。ただ、イングリウムが世界中の大陸に抱えた世界の中心であろうとするならば。イングリウムの平和は、世界の平和であると思います」
「……はぁ」
世界の平和? うーん。ルイーズ市長って難しいことを考えているんだ。
「イングリウムによる平和。私たちはそれに協力することで対立より豊かさを手に入れられます」
「理解は……しました」
ディステル社長からお話されました。軍事なんて儲からないから少ない方が良いし、なんならない方が良いと。
同時に「軍隊は儲からないが、軍隊がいなければもっと儲からない」と言う古代人の教えも授けられました。
「仲良くしたいのなら、私達も安心して別の方向に軍隊を向けられますね。その間にプロイサはアルビオン島に運び込む物資の中継地点として栄える上に、イングリウム海軍の制海権能力にただ乗りすると……」
あえて煽ってみますが、ルイーズ市長は応えることなく。口元を水の入ったコップで隠すのでした。
……遠くでアプリコットが空のワイングラスをまじまじと見つめています。たぶん眠気がこないことを不思議に思っているのでしょうが、しばらく彼(?)がアルコール飲料は眠くなるものではないと言う誤解を解かないといけないのかもしれません。
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