第25話 倒れる黄金の毛玉
ちょっとしてからアプリコットが渋々車から降りました。レンガと石造りのホテルへと入りました。未だに上層階では建設が続いてますが、1階から低層では営業がされておりました。
柔らかな絨毯やつるつるの家具がこのホテルがプロイサの中心地に相応しく設計された事は疑いようがありません。ハイゼルさんやルイーズ市長が先導するのを私とアプリコットが続くと1階のホールへと案内されました。
扉を開けられるとそこには数多くの正装のスーツを着た方々が待っていたようです。入室すると扉が閉められ施錠の音がします。
「こちらにお集まりいただいたのはプロイサの資本家たちです。どうか彼らの交流や献上品も楽しんで行ってくださいませ」
ルイーズ市長が私に向き直って説明します。あれぇ。なんか写真撮るだけで良いって感じって聞いたんだけど……。
ハイゼルさんが視線を向けていました。すぐ私はうなづいて合図を送ります。任せると言ったのです。全部ハイゼルさんに投げてしまいましょう。
「まずは歓迎の乾杯からいたしましょう」
ホテルマンさんが持ってきたグラスには薄く色づいたスパークリングワインが注がれています。それを到着した私達3人とアプリコットが手を取ります。
「キュピピ?」
アプリコットは初めて見たのかよくよくグラスを眺めてから鼻で香りをかいでから……。
ごくっと一杯……。
「あ、あはは……」
笑います。とりあえず笑うしかありません。それを察してかルイーズ市長も笑い、会場の人達も引きつった笑いが感染します。
「ピピピー!」
とても美味しかったのかグラスを掲げて嬉しそうにアプリコットは鳴きました。おそらく上機嫌な事が伝わったのか、ちょっとだけ会場が朗らかな雰囲気になります。
ですが、その中でハイゼルさんだけがその雰囲気に溶け込まずに周囲に目を光らせています。ルイーズ市長に連れられホールの上座の方へと移動してルイーズ市長が咳ばらいをしてから大声で皆さんに呼びかけます。
「さて、私達は新たなプロイサの都市の始まりに、友好国であるイングリウム王国の龍剣士を迎えて……」
手短なスピーチが彼女の口からスラスラ出てきます。私はまだまだ口は得意ではないので彼女のスキルがうらやましく感じます。
「……では、カルミア・グレインヴェーゼ様。乾杯をお願いします」
「えっ、あ、はい!」
体はとっさに反応して返事をしますが、頭が急に真っ白になりました。そこにハイゼルさんが耳打ちします。
「名前とどこからやってきたのか。そのくらいで構いません」
うなづいてすぐに咳払いで喉に空気を通します。ええい。やけよ!
「イングリウム王国より参りました。カルミア・グレインヴェーゼと申しますわ。みなさん、私の来訪への歓迎に感謝申し上げます」
なんかお嬢様みたいな言葉を使ったりしたけどどうかな……と思っても頭を下げた先から響く拍手がとりあえずの成功を私に知らせてくれました。
「……それではかんぱぁい!」
私がグラスを掲げたと同時に皆さんが各々の持っているグラスを掲げました。
……。
私がふとアプリコットを見やると、アプリコットはその場に座り込み目をウトウトと開けたり閉じたりして、、、
その場に倒れ込みました。
「アプリコット?」
駆け出した私は黄金の毛の体に触れてゆすります。
「危ない!!」
その瞬間です。ハイゼルさんが私の背中に立ってから軽く衝撃を感じるとハイゼルさんは私の頭上を飛び越えて吹き飛ばされました。
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