第15話 判決
「ピュイー!」
甲高い声と共に現れた金色の毛玉のアプリコット。気を取られたロベニア(?)が黒いオーラを纏う大剣の切っ先と炎を向けると、たまらずアプリコットは悲鳴をあげてその場で飛び上がる
「ロベニア!」
「あん? だれっ……」
わずかに黒いオーラが揺れ動く。アプリコットの背中から這い出すアリーシャ。その胸からは青い光が全身に行き渡り、体を動かす力となっていた。ロベニアの体は逆に動かずに徐々に膝を屈し始める。
「だれだか……しらね……な……」
「ロベニア、止まって!」
力を出し切り動けないカルミアはロベニアの周りの炎に当たりそうになる彼女に叫ぶ。
「アリーシャさん!ダメ!今の彼女は!」
「分かっています。この結晶が教えてくれますから」
胸に手を当てたアリーシャから放たれる青い光があふれ出すと、あてられた黒いオーラが霧散し始める。
「や、やめやがれ……!」
大剣を取り落としたロベニアが必死に右手をアリーシャの首に伸びるが、左手がそれを抑えつける。
「やめろ。この体はお前のじゃない」
つぶやくように言ったロベニアの言葉と共に、黒いオーラは消え失せ、倒れ行く鎧の隙間から砕かれた龍結晶がサラサラと地面に散らばり広がった。
―――
満身創痍。体力を使い切ったカルミアとハイゼル。人格を乗っ取られかけて気絶したロベニアと、なぜか生きているアリーシャ。
人間全員が突っ伏しているところでようやくカルミアが息を整えて立ち上がろうとするも……。
「っ……!」
思わず息をのんだ。黒や茶色の色とりどりのハム族。地面や木の上にも大量にこの場を取り囲んでいて、それぞれこん棒や槍で武装していた。
それぞれ目には警戒の色が浮かんでいて、弱っていると分かればすぐさま全員飛び掛かって来るだろう。
「そ、その」
言葉を伝えようとするも彼らに伝わっている保証はない。恐らく彼らの怒りの原因はロベニアの放った炎が森を燃やしたことにある。
言葉が出ないカルミアの前に真っ黒な毛並みのこん棒を持ったハム族が歩み出る。
「ヴュイ!ヴュイヴュイ」
彼は興奮しているのか発音が濁っている。
「あのね。これには深いわけが……」
ドスンとこん棒が空を切って地面に振り下ろされる。どうやら話し合いをするつもりはないようだ。進退窮まったところ。
奴は現れた。
「ピピピッピー!!」
カルミアと黒いハム族の間に割り込んだのは黄金の毛。アプリコットは黒毛に話しかける。
「ヴュイヴュヴュヴュイ!!」
「ピピ、プピュピュイ」
「ヴュイー!」
鳴き声の応酬はしばらく続くとやかましいのかハイゼルやロベニアも顔をあげ、状況に気付きアプリコットがしている事を察した。
「ピピピー」
「ヴュイー……」
少し落ち着いた黒毛はロベニアを指さしてから両腕で×を作ると身を翻して去っていく。
ハム族の包囲は解かれ、残るのは数匹だけ。
「助かった……の?」
激しい舌戦(?)を繰り広げたアプリコットは大きく息を吐いてから、ロベニアに向けて×を作る。
「どういう意味なんだ?」
問いかけに木の枝を拾い上げたアプリコットが地面に円を描いてから、円の中に一本の線にギザギザを加えたのを複数描いた。
覗き込むハイゼルは考察を口にする。
「木? いくつかある……つまり森でしょうか」
そのままアプリコットは小石を拾ってロベニアを指さし、そのまま指を小石へと持っていく。
「この小石がロベニアで……」
円の森の中央に置かれた小石、それから小石をつまみ上げて円の外に放り出される。
それからアプリコットはロベニアに向けて腕を×を作る。
「森から出ていくように。それがハム族たちの条件」
「ピー……」
「ああ、そうか。そうだよな」
理解したのを悟ったのか。残ったハム族たちが槍の先をロベニア達に向ける。
森からの追放。それが自らの住む森を燃やされかけたハム族たちの下した判決だった。
「ですが……」
ロベニアがいなくなれば残された人々はどうなるのか。いっさいの手立てや用意のないままで自分達は森から出なければならない。
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