第13話 内なる声に従い
炎を纏ったロベニアの剣は切っ先に向かって龍の顎を顕現させる。実体のようで実体ではない。物理的干渉は及ぼすがそれ自体がエネルギーの塊。
未だに解明されないが、太古より伝説として語られた力の一部であり、向けられた全ての物体が自らの存在を諦めるしかない。圧倒的実態と虚証の伝承で形作られた権威であった。
一方でカルミアの剣はそのままで、体や盾と同じ青いオーラを纏うしか出来ていない。未だに一年も満たない訓練で初実戦。力を引き出すことが出来ているだけでもロベニアの本性は「ほぉ」と関心する。
相対しての準備は数刻。無情にも始まりの時は告げる。
先制したのはロベニア。
上から下へと振り下ろされる剣自体の強烈な大振りとオーラの残滓から形成された炎の二重攻撃。
カルミアは体を横に逸らすと共に、剣で斬撃の切っ先を完全に逸らしてから、盾から青いオーラが広がり炎を防ぐ。
ただ、すぐにロベニアは自らの体幹と龍結晶で引き揚げた身体能力によって、下から上へと切り上げる。
再補足する切っ先と、追撃に形成され始める炎。今度は盾に何重ものオーラを集中させてから斬撃の衝撃を利用して後ろへとジャンプして距離を取ると、炎の追撃は距離減衰して盾の前に消え去る。
ロベニアの顔から怒りの目が消える。だが、カルミアは逆に後ずさりした。
冷たく見透かすような目で。安易な力押しは効かないと理解して、今度はどのように処そうかと考えている目だ。
「カルミア・グレインヴェーゼ」
「なんでしょう」
「お前はなぜ。私と戦う?」
龍結晶に内包する声なのか、それかロベニア自身の考えなのか。掴み切れないが、カルミアは思ったことを口にした。
「私は龍剣士として、あなたの前にいます」
「龍剣士? それは余りにも曖昧な答えだな」
「力の象徴。全ての憎しみと怒りによる暴力を収め、望んだ未来を守り掴みとる力」
「……それはグレインヴェーゼ伯の教えか?」
「ええ」
「それを、貴様に教えた事を、彼は実践したのだろうか」
「……」
「結局、力関係の前では理想を通す事は出来ない」
「それは、分かりません」
「なに?」
「理想はないから理想なんです。それに今の状況は私の龍剣士の理想に合致しています」
「なんだと」
「見えないのですか? 森を燃やす炎が!」
カルミアは初めて声を荒げる。切っ先で指し示すのはロベニアの周囲から燃え移る木々。
「理想はなんだと答えはしました。でも、今はそんなことは関係ないし、あなたを止める事しか考えていません」
「……」
「過ちは何度も許します。だから周りを見なさい!ロベニアさん!!」
「っ……」
ロベニアの周囲の赤いオーラがしぼみ込む。
「そうだ。私が望んだのは、こんな……」
ポツポツと呟き始めた瞬間。赤が黒に代わると途端にロベニアが胸を抑えて膝を着いた。
「な、なに?」
「ようやくだ……」
「ロベニアさん?」
「あの女はダメだ。怒りを途中で覚ましやがって余計なことをするなよ」
口調も違ければ雰囲気も違う。まるで粗野な男がロベニアの体を操っているようだ。
「あなたは。誰?」
―――
「アリーシャ。何かいい考えがあるのか」
ええ、この集落だけが襲われたわけじゃないと言うことは。きっとこの森には私たちと同じような人が居ると思うの。
「アリーシャ。これはどうすれば良いと思う?」
大人達を班に分けて設営と食糧確保を割り振るの、恐らく安定するはずよ。
「アリーシャ。あの子たちは……だが、きっと今いるメンバーから反対が……」
ロベニア。きっとあの子供達も大人になると思うの。だから仕事と教育を与えようと思う。大人達も未来を守りたいと思うように。あの子たちは保護を、大人達には未来を育むように。
「アリーシャ。どうしたらいいんだろう」
ロベニア……。あなたはきっと思い悩んでいたのでしょう。正しい行き先は何かを。きっとあなたは上手くいく未来を望むけれど、それに至る方法を考えるのが苦手なだけなの。
自信を持つのは成功体験なんだけど。あなたは自分の強さでしか道を切り開いた事がないんだわ。そして、誰かに言われたとおりの方法で、積み上がったものしか持っていない。
龍剣士だから失敗は許されない。その事にずっと囚われて、失敗しないように周囲に支えられて歩んでこれたのに。一人になった瞬間、道を踏み外して失敗の中でどうしたらいいのか分からない。
あなたは道に迷って泣いている子供と同じ。だからこそ私はあなたを見捨てたくないの。
……でも。私はもう。
「……ィ―……」
誰かが呼んでいる?
「ピュ……」
今度は胸が熱い。これは……なに?
「ピュイー!」
……
目を開けると眩しくて目をもう一度閉じる。それでも上体を起こして両手でうずく胸に手を当てる。
胸に深淵のように真っ黒く血が付着した上着中央、発する青い光は徐々に光を失い……いや。逆に血管へと流れ込んで私の体へと逆流している?
心配そうに近づく金色のハム族。周りにあるのは血だらけになった水のおけ。
「ピピピー!」
分からない。なぜ私は生きているんだろう?
……でも私にはやらなきゃいけないことがある。きっとロベニアは、何か間違いを起こす。
いや、もう起こした後かもしれない。
立ち上がろうとするけれど。途端にくらんで転びそうになる。すぐに金色のハム族が支えてくれたけれど。このままじゃ……。
「お願い。連れて行って。ロベニアのところまで」
「ピュイ!」
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