第11話 青い光
「ピピピッピ―!!」
アリーシャを背負ったアプリコットがキャンプ地に突撃したのはすぐの事。
異変を感じたロベニアが走り寄り、アプリコットの金の毛並みに付着した赤を見た。
「……あ」
アリーシャを慎重に下ろしたアプリコットと彼女にすがるロベニア。
「アリーシャ……アリーシャ!!」
既に顔に血の気はなく。刻一刻と死へと近づいている事が理屈がなくとも分かる。少しだけ目を開けたアリーシャがロベニアの顔に微笑みかけ、唇をわずかに動かす。
「いい。しゃべるな。今は傷口を……」
顔をあげたロベニアは絶句した。周囲の自分に付き従ってきた人々。
その顔が、よく見えないのだ。
陰であったからかもしれないし、ロベニア自身の目と脳が錯乱を起こしたのかもしれない。
ただ。大人から子供まで、向ける視線は信用に欠けたもののようにロベニアは思ったのだ。
「やめろ。見るな……そんな目で……」
駆けつけたカルミアとハイゼルが、ロベニアの顔を見て同時に驚く。あの冷静で落ち着いた龍剣士である彼女が狼狽して取り乱すのをこらえるかのように震えている。
ロベニアは顔をまたアリーシャに向ける。目は完全に閉じていて、息はしていない。
「……」
カルミアは心配そうに近寄る子供達をすぐさま遠ざけた。ただアリーシャの在り様から遠ざける為のものだった。また振り返ってロベニアを見ると、アリーシャの体から生える細い矢を手にかけた。
「まだ遠くには行っていないはずだ」
ボキリと矢を折ってからロベニアが立ち上がると、鎧の内側から赤と黒のオーラが徐々にロベニアの体を包み込む。カルミアはオーラに内包された怨嗟の声を感じ取り一歩後ずさる。
「龍結晶にされた人間の怨念が……」
龍剣士でもないハイゼルすら近づくだけで感情を持っていかれそうな怨嗟。直接受け取っているロベニアの感情などもはや自身で制御出来るものではない事を瞬時に悟った。
オーラは次第に火となってロベニアの周囲に顕現すると、先ほどアプリコットの走って来た血痕を追ってロベニアは火と共に疾走する。
「くっ、グレインヴェーゼ様!追いますよ!……な、なにを?」
焦るハイゼルだがカルミアを見ると彼女も青いオーラを纏っていた。カルミアはゆっくりとアリーシャへと近寄ると、盾の裏側に取り付けられた龍結晶に触れ。
―――
(良いのだな?)
「うん。この人を、助けてあげたいから」
―――
結晶が割れて一部がカルミアの指に収まった。アリーシャの胸濡らす滲んだ血が深々と開けている穴のように広がっている。その傷口に青い光を放つ結晶の欠片を入れると、光は更に強くなり……。
ハイゼルは目の前の光景が信じられなかった。金属より硬く加工された龍結晶は容易く割れ、それが今、人の傷へと入り込み光を放っている。
「どうなってるんだ?」
光をたたえたままの結晶を離したカルミアは立ちあがってハイゼルに告げる。
「ロベニアの後を追うんですよね」
「ええ、ですが……」
割れた結晶に残された出力。それがロベニアと相対する時どのような結果への要因となるか。
少なくともプラスの要因にはなりはしない。それでも、ハイゼルはうなづいた。
二人が去った後。アプリコットは布で体を覆って、そこらに撒き散らされた火を体でかぶさって消していた。
「ピュイー!」
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