第4話フィリッツ・ジョンソン
せっかくの再会も持ち場を離れたことでカンカンとなった同僚に呼び戻され、金色のハム族はすごすごとカルミア達の元から去っていった。
市街地から離れ街の中央に位置する砦へと足を運ぶ二人。しかし、焼けた店舗や工房の跡地が並ぶだけだった。
「ここはかつてね。たくさんの職人さん達が働いていて……」
「龍結晶の伝導に優れた装備の一大生産地だと聞いておりました」
空っぽの建物にすすけたままの木材や石の建材。それからその最奥にある小ぶりな城砦。ハイゼルは気が付かれないように横目でカルミアの表情をうかがうが、普段から明るい彼女には似つかわしくない表情をしていた。
「……ごめん。ハイゼルさん」
「なにか?」
「フィリッツ伯の態度次第では、殴っちゃうかも」
冗談の様で冗談ではない。これは間違いなく彼女の本心なのだろう。少し遠くに見える城砦は未だに風にすすを流すだけで掃除や手入れなど全くしていないように見えた。まるで全く復興が進んでいないカーライルの街そのものように。
言葉もなくいつの間にかたどり着いていた城砦の門。かつて高温を帯びてカルミアの手の平を焼いたそれは触れば異様に冷たく感じた。ふと二人の横から男の声がかけられる。
「これはこれは。出迎えもなく申し訳ありません」
車を引いた中年の男。身なりは整えているが自信のなさげな態度をしていた。彼の荷物は大きな鍋と少ない薪。
「ちょうど炊き出しの時間でしてね。どうぞおあがりください」
鉄の門を開くと城砦へと入る。内装は一応質素なもので綺麗にしてあるも、使用人は誰一人いる気配もない。中年の男と同じ歳ほどの夫人が一人いるが彼は「妻です」とだけ紹介すると一通り礼をしてカルミア達を出迎えてくれた。
これまた質素な応接間へと通されて待たされる二人。一息つけばすぐさまカルミアが零す。
「あの人が……」
「フィリッツ伯です」
「思ったのと違う」
「元は先祖に貴族を持つただの一般人ですからね」
「素人じゃん。それ」
「貴族の力を削ぎたい議会の意志ですよ」
それだけ口添えすると扉が開かれ、落ち着いた雰囲気の礼服に身を包んだフィリッツが現れた。
「自己紹介がまだでしたね。私はフィリッツ・ジョンソンと申します」
「カルミア・グレインヴェーゼです。こちらはトランスポーターのハイゼル」
一通りの挨拶を交わす両名は小さなテーブルを挟んでソファに座って対面する。詳しい説明はハイゼルに譲りカルミアは引く。
「今日はこちらに泊まっていかれてから、北部の駐屯地に行かれる手筈でしたね」
「はい。駐屯地ではサプライ・ライン社の輸送ライン確立への……」
仕事の話を続けるハイゼルとフィリッツ。その間にもちらりとフィリッツを見るカルミア。ハイゼルもかなり噛み砕いて内容を伝えているが、フィリッツもその内容に付いて行っていると言うよりは、むしろカルミアより少しだけ年上のハイゼルの内容を補強しているようにも感じた。
(存外、悪い人ではない?)
復興の遅さやグレインヴェーゼの資産の行方はともかく。人間的な部分では悪そうな人間ではない。
それがカルミアの感じたフィリッツ伯の第一印象だった。
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