第11話
『決まりました』
まぁまぁ昔の事を思い出していた間に、初見さんがそうコメントする。
「お、何かな?今なら何でも答えるよ!」
『なんか気になるものでもあるんか?』
『今来た感じだからな、最初からいた俺たちとは持ってる情報が違うからな』
確かに、初見は今来たばっかだし、ダンジョンスイッチの事とか聞きたいいかもしれない。
でも、それ以上に俺に興味を持ってくれた事が何より嬉しいもので、配信者冥利に尽きることだ。
『住所はどこですか?』
そのコメントが流れた。
「…………う、打ち間違えたか、もう一度質問して欲しいな」
何故だろうか、全身に冷や汗が現れる。
売っているのは間違いなく初見さんのアイコンだ、でもこんな質問されても答えられないなんてことは分かりきっているはずだ。
何かがおかしい、あまりにも変だ。
『流石にな…うん』
『ちょっと…上を行きすぎた回答だとは思うが』
なんか流れたような気がするけど、流石に打ち間違いだよな。
住所…重心か、変な質問するなぁ初見さんも。
『住所はどこですか?』
うーん、俺の目がおかしくなっている可能性があるな。
てか、それが確実だ。
「ごめん、一回顔洗ってくる」
洗面所に行き、手でお椀を作って水を貯める。
念入りに三回程、顔に水をぶつけてタオルで拭いてまた席に戻る。
『住所はどこですか』
「…うーん」
変わっていない。
それどころか、また新しく質問が増えている。
何が起こっているんだ。
「あぁっとすいません…そういう質問は答えられないですね、やっぱり個人情報だからね、別の質問をしてほしいな?」
『なんか変じゃね?』
『それな、リアルを知っているわけじゃないけど』
『今までも文面から見ても、その文章一つ一つからは礼儀正しさが見て取れる、こんな質問をするとは到底思えない』
こいつらも同じことを思っている。
あの文章からは礼儀正しさが見て取れたために、今送られたこの質問文は明らかにミスマッチだ。
では、残る可能性は誰かが初見さんのスマホなどを借りて代わりにコメントを行っているという事…じゃあ、それは誰だという話になる。
『ありがとうございます』
「え、あ、ありがとうございます?」
何か急に感謝してきたけど、一体何なんだ?
急に送られる脈絡もない感謝に、若干気が動転する。
『どうしちまったってんだ?』
『マジでどうした、何かの暗号か?』
『なくはないが、その可能性は毛ほどもない、やっぱり誰かがスマホを借りてコメントしているとしか』
「…じゃあ、誰がそれを…ん?」
そう呟いた瞬間、家のインターホンが鳴る。
インターホンの音により靄のかかった頭が晴れると同時に、一つ絶対にありえない結論が頭の中に残る。
『何?インターホン?』
『ちょっとぉ何か変なの頼んでんじゃないでしょうね?』
『男が頼むものつったらあれしかないだろ、あれだろ』
『早く出た方がいいんじゃないですか?外で宅配便が待っていますし』
「…なぁ、とてつもなく面白いこと言っていいか?」
普段なら初見さんがそういうならと、ホイホイ出ていくかもしれない。
そうだな、俺の今の気持ちの一言で言うのならば──
『絶望』と『恐怖』である。
「初見さんの配信を見たことがないんだけど、もしかしてどこかの企業に所属してたりする?」
『あぁな、確か-神宮寺プロダクション-に所属してるんじゃなかったっけ』
『企業と言ったらこれって奴だろ?一番最初にこの配信に浮上した時、これから頑張りますとか言ってたよね』
「初見さんにスマホを借りてこの底辺の配信にコメントする人、誰がいると思う?」
『いるわけないやろ』
辛辣なコメントが流れる、しかし今はそれでいい。
本来いるわけないんだ、この配信にコメントするもの好きは。
多分だけど、この質問をする前の初見さんは俺たちが知っている人で間違いない。
「信じたくはないが、今初見さんのスマホでコメントしているのは神宮寺プロダクションに所属してて、さらに俺に恩がある人だ…信じたくはないが神宮寺瑠奈しかいないだろ?」
財布とリュックを手に取り、窓を開ける。
俺が住んでいるのは小さな二階建てのアパート、いざとなれば窓から飛び降りることもなんとかできる。
『あ…え?早くね』
『ありえないけど、できるかもね』
『見てる分には大変そうとしか思わないが、当の走者は結構参っているようだな』
俺をねぎらうようなコメントが流れるが、それ以外に一つのリンクが張られた。
そのリンク主は、我らが長文ニキだ。
『ひとまずこのリンクを開いてサイトに入ってくれ、そしてこの配信のアーカイブを消すことだ、もしバレてサイトを知られたら面倒くさいからな』
スマホからそのリンクを入ると、行き着いた先には連絡グループが出来ていた。
『こういう時のために作っておいたんだ、まさかこんなに早く使う時が来るとは思わなかったが』
『センキューだ、でも神宮寺さんが入ってくるんじゃ?』
『その辺はグループ創設者がキックすればいい、初見は入れないがまぁ仕方がない』
「…よし、大体まとまったな、次に俺が顔を出すのは決着がついた時だ」
『じゃあな』
『頑張ってな』
パソコンの配信を切ってから窓枠に足を掛けて、からだを前に傾ける。
と同時に、玄関先からどたどたと足音が鳴る。
俺は窓枠から足を離して、そのまま玄関にダッシュして勢いよくドアから出た。
二階にある柵をジャンプで飛び越え一気に地面に着地。
そのまま全力で家から距離を取り続ける。
普通の人ならばドアから一階に降りる際に俺を視認する。
何故ならば俺の方が早いから、二階から降りると確信して一階走っても、俺の部屋の真下まで行く間に俺が部屋から出るのを途中で見るはずだ。
「でもここにいないってことは…やっぱり神宮寺さんか」
目を疑うほどの速度、流石は最強のスキルを持つ人だ。
でも俺だって負けられない戦いだ、なにせ俺のスキルは『逃走』逃げる事なら誰にも負けない。
「何とか逃げてやるぜ…最強のスキルとやらさんよ!」
雑魚スキル『逃走』を駆使して、世紀のダンジョン攻略RTAをする~攻略中に一人の少女を助けたんだが、どうやらその人は超有名な配信者だった~ 超あほう @coming1234
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