第49話 さよなら

 四つの人影が、ベールの向こう側に出現する。

 そして、突如としてベールが落とされた。

 そこにいたのは、四つの人の形をした何か ・・・・・・・・であった。

「な……んだ、お前ら……」

 イツキは困惑しながら、その何かに質問する。

『我々は「オール・ワン」の四天王だ』

『今まで倒してきた個体である』

「そんな……。さっきので四天王は全員倒したはずじゃ……」

『アレは我々の予備だ。機械生命混合人種のコピーに過ぎない』

「……は?」

 突然何のことか分からない単語が出てきて、余計に混乱するイツキ。

『これでレジスタンスにいる格闘者は貴様一人となった』

『パイソンのコピーが、もう少し上手く動いていれば良かったんだが……』

『ヘリクゼンの力を見極めるための、必要な犠牲であったと考えれば問題ない』

 見た目が単一で無機質の四天王は、そんなことを発言している。口などないのに。

『まぁ、いい。我々にはヘリクゼルと一基様のDNAが存在している。我々が結束すれば、貴様など赤子の手を捻るよりも簡単に殺せる』

『では、やり直そう』

 そういって四天王は、それぞれアイテムを持つ。

 シーは、鍵の形をしたアイテムを取り出す。それを腰に装着したバックルの上に差し込む。

『アンロック……』

 プラスは手持ちの剣を抜き、その柄の部分にカードのアイテムを装填する。

『エントリー……』

 ジャバは中折式の拳銃を取り出し、そこにアイテムである薬莢付きの弾丸を装填する。

『チャージ……』

 パイソンはおもちゃの鉄琴のようなアイテムを出し、ノックして音を出す。

「キィィィ……ン」

 そして四天王は声を揃える。

『『『『変身』』』』

 シーは鍵を回し、プラスは柄の横にあるボタンを押し、ジャバは拳銃の引き金を引き、パイソンはアイテムを吊るすようにバックルに装填する。

 すると、それぞれのアイテムから流体状の金属があふれ出し、四天王それぞれの体の表面を這うように全身を包み込んでいく。

 そのまま装甲が浮かび上がり、変身が完了した。

『ファイター シー……』

『ソードマン プラス……』

『ガンナー ジャバ……』

『ファイター パイソン……』

 四人の格闘者がイツキの目の前に登場する。

 イツキは直に感じていた。圧倒的な力の差を。

「勝てない……」

 本物の四天王から放たれる、相手を恐怖の底に陥れるかのような威圧感がイツキを襲っていた。

 しかし、ここまで来たのに敗北しては、レジスタンスの面々に顔向けが出来ない。

 イツキは勇気と決意をふり絞って、一歩踏み出す。

『ほう、来るのか』

『本物の我々を前にして、前進してきた人間などいなかったが……』

『面白い人間だな』

『だが、残念ながら貴様はここで死ぬ』

 四天王も玉座から降り、イツキに向かっていく。

 イツキは、ちょうど目の前にいたジャバに向かって拳を叩き込もうとした。

 恐怖を打ち消すような強力なパンチは、残念ながら空を切る。ジャバはすでに回避しており、拳銃をイツキのこめかみに向けていた。

『一つ』

 ジャバは引き金を引き、光の弾丸をイツキに命中させる。それにより、イツキは横に大きく姿勢を崩す。

 そこに、プラスが剣を引いて突きの構えをする。

『二つ』

 その一突きが、ヘリクゼンの胸部装甲にヒビを入れる。

 突きによって無理やり体を起こされたイツキの後ろには、シーがローリングソバットの構えをしている。

『三つ』

 そのままシーの蹴りがイツキの背中に命中し、イツキは前方に投げ出される。

 その先には、パイソンが拳を握りこんで待っていた。

『四つ』

 そのまま全力の右ストレートを食らうイツキ。しかも悪いことに、パイソンの拳はバックルに命中していた。

 この攻撃によって、イツキのバックルにヒビが入り、そして砕け散った。

 イツキは変身を強制的に解除され、地面を転がる。そしてイツキの目の前には、残骸となったバックルの破片が散らばっていた。

『さぁ、ヘリクゼンの力を取り戻そう』

 パイソンがバックルの残骸に目を向ける。そして「それ」を見つけた。

『一基様の概念の一部を取り込んだ石。それを回収することに成功した』

 パイソンはその石を拾い上げ、仲間の元に戻る。

『おぉ、素晴らしい。戦闘を受けて、力が溢れかえっている』

『これで我々は新しい世界を作ることが出来る』

『それでは、行こうではないか。我々の新境地へ』

 そういってパイソンが石を掲げた。

 その時である。

「まだ、終わってねぇ……」

 イツキがふり絞るように声を出す。

『何を言っている? 貴様は負けたのだ』

「そんなの、ひっくり返してやる……!」

 イツキは全身の痛みをこらえて、立ち上がる。そしてパイソンが持っている石に手を伸ばした。

 その瞬間である。一瞬石が光ったと思うと、パイソンの手から消え去った。

『い、石が消えた……?』

 四天王は周りを探すと、すぐに発見する。石はイツキの手の中にあった。

 イツキは石を両手で握りしめ、そのまま体の前に持っていく。そして、迷わず下腹部に突き刺した。

「ぐっ……!」

 突き刺した箇所からは、血が噴き出している。グチャグチャと嫌な液体の音を流しながら、イツキは石を自身の体内に取り込んでいく。

 そして最終的には、石が自らの意思でイツキの体内へと侵入していった。

 その瞬間、イツキはまるで十字架に磔にされたようなポーズを取る。握りこぶしからギリギリと音がしそうなほど、強く握られていた。

 その時、ジャバがあることに気が付く。

『なんだこれは……? ヤツのヘリクゼル適合率が急上昇している……』

 他の四天王も一緒に確認する。すでに適合率は99.999999999%まで上昇していた。

『こんな……、あり得ない。この数値は、もはや一基様と同じではないか……』

『ヤツは、一基様と同等の存在になろうとしているのか・……?』

『我が止める!』

 そういってプラスが飛び込んでいくが、イツキの数メートル手前で見えない壁に阻まれる。

『む、無理だ。もう止められない……』

 プラスが唖然とそんなことをいう。

 全身に力を入れていたイツキの下腹部に、流体状の金属が血液と混ざり合って形を作る。これまでに見たことのないバックルだ。イツキが今まで装着していたバックルに似ているが、少し形が小さいか。

 そのバックルが形成されると、イツキは顔を下ろして四天王を見つめる。そして一言言い放った。

「変……身……」

 その瞬間、イツキの背中から流体状の金属が、槍のように何本もイツキの皮膚を突き破る。そのまま先端部分が曲がり、全身の至る所へ突き刺していく。突き刺された場所に金属が定着し、装甲となった。

 そして全身金属に覆われ、形を創り出す。

『ライダー ヘリクゼン』

 バックルから音声が流れる。どうやら変身が完了したようだ。

 とはいっても、先ほどからイツキは立ったままである。

『今のうちに攻撃する』

 そういってジャバが拳銃を使って、攻撃をする。

 ジャバが引き金を引いた瞬間、イツキは片手を前に出す。

 すると、ジャバの拳銃から弾丸が発射されることはなかった。

『な、何故だ?』

 ジャバは何度も引き金を引くが、弾丸が発射される様子はない。

 イツキは前に出した手のひらを下に向ける。その瞬間、四天王は察した。

『現実強度が変化……! 現実改変が起きる……!』

『この数値は見たことがない……!』

『だが、本物の我々には現実改変など効かぬ!』

 そしてイツキは、手を下ろした。

 何か攻撃をしたようだが、何も変化していない。三賢者 ・・・は安堵する。

『何も起きてないじゃないか。ただのブラフだったようだな』

『我々には一基様の加護がついている。このまま押し切る』

 シーとプラス、パイソンは己の武器を構え、イツキに攻撃を仕掛けようとした。

 しかしその前に、イツキは手で何かを払うような仕草をする。

 再び現実強度が変化したが、何も起きていない。双璧 ・・は互いの顔を見る。

『ヤツは何をしているんだ?』

『分からない。だがひどく嫌な予感がする……』

 シーとパイソンは身構えたまま、イツキの動向を観察する。

 今度のイツキは、手を前に出して、何かを握りしめた。

 それの意味を、唯一王 ・・・は理解できなかった。しかし、パイソンは何か違和感を感じる。

『何か、この世界の強い変化を感じる……。だがそれが何であるかは分からない……』

 パイソンは、今まで感じたことのない感情を抱く。その感情が「恐怖」であることに気付く前に、イツキはパイソンの概念そのものを消滅させたのだった。

 誰もいなくなった大広間。イツキは手を合わせて、そして捻った。




──2048年 アメリカ──

 この日、アメリカのメタフラックスは記者会見の内容を変更してライブ配信していた。

『皆さんには大変残念なお知らせがあります。本日この放送にて紹介するはずだった新しい合金、「ヘリクゼル」についてです。今までにない画期的な物質であることはご承知だと思いますが、実はそれは、研究職員による文書やデータの改ざんによるものであることが発覚しました。フリーエネルギーを取り出せる形状記憶超合金は、この世には存在しなかったのです』

 世界中がこの配信に関するニュースを流していた。

 そんな中、一つの小さなニュースが流れる。

『一月一日家、無理心中か』

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天穿つヘリクゼンR 紫 和春 @purple45

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