第48話 パイソン
イツキは後ろを振り返らずに、全力で洞窟の中を走る。すべては「オール・ワン」の目指す世界を阻止するために。
しばらく走ると、前方の空間が大きく広がる。それに伴い、明るさも増す。
空間の真ん中を仕切るように、大きなベールが垂れ下がっている。そのベールの向こうには、四つの椅子が並んでいるのが見えるだろう。
「ここが……大広間……?」
『その通りだ』
イツキの横のほうから、人影が現れる。まるで燕尾服を着たような装甲を持ち合わせている格闘者だ。
「お前が、四天王の一人……」
『そうだ。名をパイソンという』
そういって、イツキのほうへゆっくりと歩いてくる。
『君たちの力は素晴らしい。他の四天王を見事に撃破した』
「倒せているのか……!?」
『そうだ。これは偽りのない真実である』
その言葉にイツキは安堵した。他の仲間は無事に役目を果たしたのだから。
『そして、最後に残ったのが余である』
「じゃあ、お前を倒せば全て万々歳だな?」
『……まぁ、大方そうなるだろう』
その言葉を聞いて、イツキは静かに闘志を燃やす。
「お前は俺が必ず倒す!」
イツキはバックルにデバイスを装填する。
『セットアップ!』
『シータ!』
『スキャニング!』
「変身!」
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・シータ!』
変身が完了すると、イツキはパイソンを指す。
「俺はお前を、書き換える!」
イツキは地面を蹴って、パイソンとの距離を一気に詰める。そのスピードを生かして、全力の右ストレートを放つ。
パイソンはそれを、両腕でガードした。
イツキの拳とパイソンの腕が衝突した時、周囲に衝撃波のような物が飛び散る。それだけパワーがあるという事だろう。
イツキは右ストレートの反動で一度パイソンから離れると、ここが閉じられた空間であることを利用してパイソンの周りを高速で走り回る。壁、天井、床と、足が置ける場所ならどこでも使って立体的な移動をする。
複数の残像が見えるまで高速移動していく。
そして、あるタイミングでパイソンの真上から踵落としする。パイソンの脳天に直撃コースだ。
しかしパイソンは、その攻撃を一切見ることなく片腕で防いだ。踵落としの衝撃でパイソンの足元に小さな地割れが発生する。
「くっ……!」
この攻撃も通らないことを理解したイツキは、後方宙がえりをしながら地面に着地し、接近戦に持っていく。
パイソンもイツキに合わせる。
交互に攻撃をしていく二人。殴ったら殴られ、殴られたら殴る。ときどき腕を掴んで寝技に持ち込むようなことをしているが、基本的に二人とも立った状態で殴り合っていた。
先に変化を出したのはパイソンだった。急に足払いをし、イツキの姿勢を崩す。倒れそうになっているところに、真上から重い一撃をかまそうとする。
イツキは姿勢の制御が効かないため、回避することは出来ない。出来ることは、腕でボディーを守ることだけだ。
パイソンの拳がイツキに命中する。そのまま地面と板挟みだ。そのダメージがイツキに直に入る。
「ぐはっ……!」
いくらガードしていたとはいえ、強い衝撃がイツキを襲う。残念ながら、すぐには動けそうにはない。
『これがヘリクゼンの完全体なのかね? 少々手ごたえがないように感じたが、気のせいか?』
「どうだかな……。まだ本気じゃねぇかもな」
『ならば早急に本気を出してもらいたい所だ。そうでないと貴様が死ぬぞ』
「だったら刺し違えても、お前を倒す」
イツキはそんなことを言っているが、正直勝てる方法が見つからない。
さっさと必殺技でも出したほうが得かもしれないが、それで確実に撃破出来るか分からないからだ。
そんな時、イツキの脳内によぎる単語。「現実改変プロンプト」だ。
イツキは覚悟を決めて、地面から立ち上がった。
『それだけダメージを受けていても、まだ立てるか。その気迫や良し。だがここまでだ』
そういってパイソンは拳を振り上げた。その時である。
パイソンは、強い違和感を覚えた。振り上げた腕を見上げ、少し焦っているようだ。
『なんだ、これは? 余の腕が動かない……』
パイソンは、腕を何度か引っ張ってみるが、まるで空間に溶接されたかのようにガッチリと固定されている。
するとパイソンは、あることに気が付き、イツキの方を見る。
『まさか、現実改変プロンプトか……!?』
「お見事。上手くいって良かったぜ」
変身した状態のイツキは、現実改変プロンプトを自由自在に操れるほどになっていた。それを使って、今イツキとパイソンがいる空間の物理法則を掌握したのである。
『くっ……! この!』
パイソンも負けじと現実改変プロンプトを発動するが、イツキのそれの方が出力が遥かに上回っていた。
『そんな……馬鹿な……』
パイソンが絶望していると、パイソンの四肢が順番に空間へと固定される。
磔の状態にされたパイソン。これもイツキの現実改変プロンプトの影響だろう。
そしてイツキは、バックルの前面を両手で押した後に左側をもう一度押した。
『ヘリクゼン ファイターキック!』
「はぁ!」
イツキは助走をつけてパイソンの方向へと走る。そのまま地面を蹴ると、ほぼ水平方向に飛んでキックをする。
そのキックは、パイソンの胴体に命中し、そして突き抜けた。
イツキが地面に着地すると、パイソンは大爆発して消滅する。
「勝った……。これで『オール・ワン』の野望を止められる……」
その時だった。
突如として大広間の明かりが消え、ベールの向こう側の照明が再び点く。
椅子の影が四つ出来ているが、そこに下から四つの人影がせりあがってきたのだ。
「こ、これって……」
イツキは嫌な感覚を覚えた。
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