第47話 ジャバ
先を急ぐイツキたち。
すでに戦える人員は数少ない。
「ミネ博士、大広間まであとどのくらいですか?」
「カイドウが書いてくれた地図によれば、後500メートルくらいね。ここの空間が正常であればの話だけど」
すでに洞窟に突入してから1時間は移動しているだろう。その距離から考えれば、この洞窟の空間も異常な状態にあると言える。
「とにかく、先を急ぎましょう。最奥まで行けば、『オール・ワン』の重要な何かが手に入るかもしれないわ」
ミネ博士が軽い励ましの言葉を入れる。
ちょうど曲がり角になっている場所を進むと、目の前に人の姿があった。
「誰だ!?」
イツキが声を上げて、隊列を止める。
位置的に隊列はまだ見つかっていないだろう。今はイツキが一人で飛び出しているような状態だ。
『私はジャバ。四天王のうちの一人だ』
ジャバは手に拳銃を持っており、全身の装甲は動きやすい恰好をしている。おそらくガンナーだろう。
「四天王が一人ひとり出てきてくれるのはありがたいね」
そういってイツキはすぐさまバックルにデバイスを装填する。
『セットアップ!』
『スキャニング!』
「変身!」
『アプルーブ!』
『ファイター ヘリクゼン・シータ!』
変身が完了し、イツキはジャバと対峙する。
『それがヘリクゼンの究極形態か。なかなかに強い力を感じる。何の力も持たない人間が生み出したにしては上出来だ』
「それはミネ博士に感謝しないとな」
イツキはジャバの様子を伺っている。相手が遠距離射程の攻撃手段を持っているからだ。下手に接近すれば、袋のネズミにされる可能性も否定できない。
『なんだ? 攻撃しないのか?』
ジャバが煽る。しかしそれに耐えるイツキ。
しびれを切らしたのか、ジャバが無言で銃撃を行う。イツキはそれに対して、回避することなく体で受け止める。四天王クラスの攻撃を正面から受けているのにも関わらず、全くダメージは入っていない。
『ふぅん? 少しは楽しめるようだ』
ジャバはイツキに向けて銃撃しつつ前進する。イツキもそれに合わせるように、少しずつ後退していった。
しかし、ジャバの前進する速度のほうが速い。このままではあっという間に間合いを詰められてしまう。
そうしてジャバが曲がり角に差し掛かった時である。
「撃て!」
ミネ博士の声が響く。その直後に響き渡る複数の銃声。レジスタンスの戦闘員による総攻撃だ。
戦闘員による銃撃の半分がジャバに命中するものの、当のジャバは全く反応していない。
『こんなに侵入者がいたのか。即刻排除しないと』
ジャバの構える銃口が戦闘員の方を向く。
そこにイツキが割って入る。とにかく銃口を戦闘員の方に向けないように、銃口を上へ向けた。
しかし、それで黙っているジャバではなかった。戦闘員に攻撃したいジャバと、攻撃させまいとするイツキとの取っ組み合いのような状態になる。
その取っ組み合いの中で、何度かイツキに向けた銃撃がジャバによって行われる。イツキはその銃撃全てを、ギリギリの所で回避していく。
『なかなか筋がいい。だが、いつまで耐えられるかな?』
そういってジャバは、手のひらでイツキの腹部を思いっきり突く。
思わず後ろに下がったイツキに、ジャバの銃口が向いた。
「あヤベ」
イツキは思わず言葉を漏らす。
その瞬間、イツキの後ろから真横にかけて何かが通り過ぎる。
その何かは、そのままジャバへと衝突した。ジャバの左腕に命中すると、肘周辺の部位がデジタル迷彩のように消滅した。
『なっ……!』
イツキは後ろを振り向く。そこにはミネ博士といつもの技術員が、ロケランに似た装置を構えていた。
「上手くいったようね」
「ミネ博士、それは?」
「前々から研究していた基底現実強度変動装置よ。これを使えば、現実改変プロンプトのような効果を発揮することが出来るわ」
「そういうのあるなら、最初から使ってくださいよ」
そんな話をしていると、ジャバがイツキたちのほうに向かって一歩踏み出す。
『何も持ち合わせていない人間が、ここまで力を持っているとはな……。少々侮っていた』
ジャバは拳銃をこちらに向けて、銃を乱射する。
イツキはとっさに、ミネ博士たちを守るために自ら壁となって守る。
「ミネ博士! とにかく撃ってください!」
「分かってる!」
装置は、パソコンやアタッシュケースのような物とコードで繋がっており、一筋縄では行かないことを物語っている。
「次弾、いけます!」
「撃て!」
その言葉と同時に、イツキは一瞬だけ射線を空ける。
それによって、装置の弾はイツキをギリギリ回避し、ジャバへと命中した。今度は左の太もも辺りだ。
『グゥ!』
基底現実の強度が保てずに、ジャバは地面へと倒れてしまう。それと同時に、基底現実の侵食が発生し、ジャバの体をどんどん蝕んでいく。
「いい感じです、ミネ博士! このまま攻撃を続行してください!」
「それはいいけど、イツキは今すぐ先に進みなさい」
「え……?」
突然の言葉に、イツキは思考が停止した。
「な、何言ってるんですか……。ミネ博士がいないと、『オール・ワン』の重要情報すら手に入らないんですよ……?」
「大丈夫よ、イツキなら問題ないわ。それに、もう時間がないの」
「時間がない……?」
「この装置を使う反作用として、周辺の空間の強度が不安定になり、最終的には消滅するわ」
「……つまり、このまま放置すればジャバと一緒にミネ博士たちが消滅するってことですか?」
「話が早くて助かるわ」
イツキは思わず変身を解除する。
「そんな、そんなことってないですよ! 自分一人じゃ何もできない!」
「大丈夫よ。イツキはもう戦える力を持っているわ」
その瞬間、ミネ博士とイツキの間の
「もう時間よ、イツキ。早く行って!」
そういってミネ博士と技術員、そして戦闘員までもが覚悟を決めていた。
「……っ!」
イツキは半歩だけミネ博士のほうに進むが、すぐに踵を返して洞窟の奥へと走る。
「それでいいわ。さて……」
ミネ博士は、ひび割れが起きている空間の中で一緒にいるジャバに歩み寄る。すでに基底現実の侵食により、顔以外は存在が怪しくなっていた。
「一緒に地獄に落ちましょう?」
『ふっ……。そんな簡単に落ちてたまるか』
そしてジャバは何かをミネ博士に話した。それを聞いたミネ博士はハッとする。
「それが本当なら……、イツキが危ない!」
そういって走ろうとした瞬間、ミネ博士たちのいる空間が基底宇宙から引き剝がされる。
そのまま空間は大きく振動し、そして一瞬のうちに縮む。
そこには、丸く切り取られた空間が残されていた。
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