第46話 プラス

 イツキたちは洞窟の中を速足で駆ける。

「この洞窟は基本的に一本道だ。このまま前進すれば、四天王のいる大広間に出る」

「私としては、さっきみたいにわざわざ分散してくれたほうがありがたいんだけどね」

 ミネ博士がそんなことを呟く。確かにそうだ。向こうは4人が結束してレジスタンスに攻撃するのが得策だろう。

 それを無視して、あえて一人をよこしてきた。希望的観測だが、四天王が一人ずつバラバラで向かってくるのなら、レジスタンスとしてはとても戦いやすい状態に他ならない。

「でも、一人ずつ出てきてくれるんですかね?」

 イツキが不安そうに言う。

「四天王は見栄えを気にするタイプだ。イツキが登場してから、俺が『オール・ワン』を抜けるまでかなり負けが続いた時、かなり怒っていたからな。おそらく、一人で決着をつけようとして、単騎でやってくる可能性は否定出来ない」

 カイドウがそう解説する。

「なんというか、変なところで抜けている感じがありますね……」

 イツキがそんな感想を述べる。

 そんな時だった。

 目の前に人影が一つ現れる。それはゴツい剣のような物を持っていた。

「誰だ!?」

 カイドウが隊列を止め、その影に聞く。

『我の声を忘れたか?』

「この声……、四天王の一人、プラス!」

 目の前から光が当たり、その姿が露わになる。

 全身金色に身を包み、剣を肩に置いていた。その剣の柄にはカードのような物が差し込まれており、不気味に光っている。

「本当に敵は、戦力を分散して来ているようだな」

『当然だろう。我ら四天王が一斉にかかったら、お前らなど一捻りだからな』

 そういって剣でカイドウのことを指す。

『スクリプト、我と勝負しろ。そうすれば他の人間は見逃してやるし、貴様の罪も許してやる』

「そこまで言われちゃ、簡単に引き下がるわけにはいかないな」

 そういってカイドウが前に出る。

「カイドウ……」

 イツキが心配そうに声をかける。

「心配するな。お前と散々戦ったのを忘れたわけじゃないだろう? 俺はそれなりに強いからな」

 そういってカイドウはバックルにアイテムを装填する。

『リビジョン・アップ!』

「変身」

『ローディング!』

『ファイター スクリプト・ミュー!』

 二人の格闘者が、向かい合っていた。

「イツキ。他の戦闘員を連れて、先へ行け」

「でも……」

「早く!」

 聞きなれないカイドウの大声に、イツキは仕方なく先を急ぐ。

 数人の戦闘員を残して、他の戦闘員とミネ博士は先に進む。

『さて、どちらが格上か思い知らせてやらないとな』

「そいつはどうだろうな。案外互角かもしれないぞ」

 数秒の静寂ののち、二人は一斉に走り出す。

 そのままプラスの剣とカイドウの拳が交わる。初手で剣を弾いたカイドウは、弾いた拍子に下がった腕を前に押し出す。強力な右ストレートだ。

 その拳はプラスの胸の装甲に命中するが、プラス本人はビクともしない。まるで巨大な鉄鋼の塊を殴っているような感覚だ。

 プラスはそのまま剣を振るい、カイドウとの距離を取る。状況を仕切りなおしたプラスは、剣先を地面に置いて心を鎮める。

 次の瞬間、爆発によって水柱が出来るように、いきなり剣を振り上げる。剣を振り上げたとき、質量を持った斬撃がカイドウに飛んでいく。

「うおっ!」

 カイドウは軽い身のこなしでそれを回避する。再びプラスの方を見ると、すでに2個、3個の斬撃を繰り出していた。

「ぐぅ……!」

 カイドウは次々と繰り出される斬撃を回避するのに精一杯であった。

 そんな状況でも、カイドウは諦めることはない。

「何か、策があるはずだ……」

 洞窟の天井に近づいたとき、カイドウはあることに気が付く。一瞬の思考で、プラスの攻撃を無力化できる算段を思いついたのだ。

 カイドウはそれを達成するために、割と派手にプラスの攻撃を回避する。

『どうした、スクリプト。回避するのに疲れたか?』

「さて、どうかな?」

 すでに何十もの斬撃による攻撃を回避している。

『小癪な奴め。これでも食らえ』

 そういって、プラスは剣にパワーを溜め、大きく振り払う。今までよりかなり大きい斬撃だ。

 それがカイドウの目の前に接近する。

 はずだった。

 突如として、大きな音を立てて何かが崩れ落ちる。カイドウの目の前に落下したそれは、今しがた放ったプラスの斬撃を代わりに食らうのだった。

 土煙が晴れると、そこには大規模な土砂があった。

『……天井付近にダメージを集中させて、わざと崩落を招いたか。面倒な手を考えるものだな』

 プラスは少し関心したようだが、納得はしていないようだ。

 積み重なった土砂を前に、次の手を考える。

「そんな暇があるのか!?」

 崩落した土砂の上から、カイドウが高速移動でプラスの背後に降り立つ。逆立ちに近い体勢から、全身をバネにして蹴りを入れ、プラスの不意を突く。

 反動で起き上がったカイドウは、プラスが右手に持ってる剣をはたき落とすべく、さらに接近する。

 お互いの体が当たりそうな状態で、カイドウは左の拳を使ってプラスの右手を強く殴る。

『ぐっ……』

 思わず剣を手放してしまったプラス。そこを狙ってカイドウは拳をお見舞いする。

 しかし、プラスもただでは負けない。カイドウの戦闘に合わせるように、プラスも拳を交える。

 お互い攻撃しかしないボクシングの試合のような状態になる。ただひたすらに殴る。

 だが、最初はカイドウが優勢だったが、プラスの圧倒的な強打によってカイドウはだんだんと不利な状況に陥る。

 そして決定打がカイドウの顔面に入った。それにより、カイドウは地面に倒れこんでしまう。

『ふん、貴様もここまでのようだな』

 そういってプラスは、剣を拾うとカードスロットを押す。

『チャージ!』

 すると、カイドウにも分かる程のエネルギーが剣に集まる。

 これを止めるには、自分の身が蒸発するだろう。

「クソ、だったら方法は一つしかねぇだろ……!」

 カイドウに迷いは無かった。カイドウはバックルの両端を3回連続で押す。すると、アイテムの画面に「10」と表示がされる。

 カイドウはそのまま最後の力をふり絞って、プラスにタックルする。

 画面の表示は「6」になっていた。

 どうにかしてタックルに成功すると、そのままプラスの背中側に移動する。

『何をするつもりだ?』

「ちょっとした花火だよ」

 表示は「3」になっていた。

 そして「0」になる。

 その瞬間、カイドウのバックルを中心に、強烈なエネルギー拡散が始まる。

『こ、これは……!』

「スクリプトのアイテムが持つ自己崩壊システム、いわゆる自爆だよ」

 エネルギー拡散はしているものの、一定の範囲内に留まっているようで、それ以上は拡散しない。

 それもそのはず。この自爆は、バックルを中心に超小型のブラックホールを形成。その蒸発と共に全てを消し去るのだ。

 さすがに四天王であっても、ブラックホールには敵わない。

『お、おのれぇ!』

 プラスはそのままブラックホールに落下した。

「じゃあな、イツキ。後は頼んだぞ……」

 そしてカイドウもブラックホールに落下する。

 ブラックホールは一定範囲を吸収すると、そのまま別の空間に転移するように消え去った。

 その跡には球体状の抉れがあるだけで、シンとしていた。

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