第45話 シー

 四天王は、大広間に「プロシージャ」の教祖と人柱を呼び出していた。

「あぁ、四天王様……! どうかお許しを……!」

「お許しを……」

「お許しください……」

 その声を一蹴するように、四天王のうちの一人の声が響く。

『黙れ! この期に及んで命乞いか!』

『所詮は下等な人間の行いだ。この結果は当然と言ってしかるべき』

「しかしながら、我々は精一杯のことをいたしました! あの下劣なヘリクゼンさえいなければ……!」

『下劣?』

 その言葉を聞いた瞬間、教祖の頭が飛んだ。そして、まるでゴミのように地面に転がり落ちる。

「ひぃっ……!」

 人柱のうちの一人が悲鳴を上げる。

『ヘリクゼンのことを下劣と呼ぶな。ヘリクゼンは我々が求める力を秘めているのだ』

『至高の力。それを全て引き出すためには、何かが必要なのだ』

『そのために貴様らを使った。それなのにレジスタンスの格闘者の一人も倒せないとは』

『もはや万死に値する』

 すると、教祖の後ろにいた二人の人柱の首も飛んだ。

 粘度の高い液体が飛び散り、嫌な音を立てる。

『結局、使えない奴らばかりだったな』

『依り代のアイテムも意味を成さなかった。無駄骨だったが、収穫はなかったわけではない』

 すると、人柱が持っていた四天王の残りのアイテムが勝手に浮かび上がる。

 そして空中でヒビが入り、砕け散った。

『ここからは我々の出番だ』

『直々に手を下してやる』

 そういって、四天王が声を揃える。

『変身』

 一方インスタンスでは、探索用の作業着に身を包んだミネ博士と所属するレジスタンス戦闘員の半分ほどが、インスタンスの前で整列していた。

「これより、敵である『オール・ワン』への進軍を開始します。案内には、以前四天王にも会ったことがあるカイドウを起用します」

 そういってカイドウが手を上げる。

「これからすることは、一挙攻勢をかけて敵を殲滅することです。この戦いに負ければ、それは人間側の敗北を意味することになります。全員、気を引き締めりように」

「「はっ!」」

「それでは、進軍を開始します」

 ミネ博士が下がると、レジスタンスの指揮官が前に出てきた。

「カイドウを先頭に縦列陣形、並べ!」

 素早く人が移動し、陣形が完成する。カイドウは先頭、イツキはミネ博士と一緒に中心付近、ジョーは殿の方に配置された。

「全体、進め!」

 そして行進が始まった。ここからは四天王全員を倒すか、レジスタンス側が全滅するかの二択しかない。

 しばらくカイドウの案内で歩いていくと、巨大な横穴に到着する。

「ここが『オール・ワン』の本拠地の入口だ」

 一応、人の手が入っているようだが、しばらく放置されていた形跡が残っている。

「なんで『オール・ワン』はこんな所に本拠地なんて作ったんだ?」

 イツキが辺りを見渡しながら呟く。

「ここは簡単に人が来れるような場所じゃないわ。しかも、いつ崩落するかも分からない人工物。普通なら入ろうとは思わないわね」

 カイドウが周囲の安全を確認して、前進しようとした時だった。

 横穴の奥のほうから、誰かが歩いてくる。戦闘員は小銃を構え、臨戦態勢に入った。

 そこに現れたのは、見たこともない格闘者であった。

『君たちがレジスタンスだな。噂はかねがね』

「お前は……、四天王の一人、シー!」

 カイドウが叫ぶ。

『その通り。スクリプト、よくも我々を裏切ってくれたな。ここで借りを返してもらうぞ』

「そいつはどうかな?」

 そういって出てきたのは、最後尾にいたジョーである。イツキも一緒にやってきた。

「こっちには格闘者が3人。お前は一人。こっちのほうが圧倒的に有利だぜ?」

 そういって3人はベルトを腰に装着する。そしてアイテムを装填した。

「「「変身!」」」

 それぞれの最強形態に変身する3人。

『どれだけ束になった所で、私には勝てないぞ』

「やってみなきゃ分からんだろ」

 数秒の静けさののち、イツキたちが先に動く。3人による波状攻撃だ。

 イツキのパンチ、ジョーの斬りつけ、カイドウの回し蹴り。三つの攻撃が繰り出されるものの、それをシーは見事に回避する。そのままシーは、周囲を囲まれた状態で攻撃を食らう。

 そんな状態でありながら、シーは攻撃を回避し続けていた。時には攻撃を受けるシーンもあるが、ダメージが入っているようには見えない。

「こいつ、滅茶苦茶硬いぞ」

『貴様らの攻撃なんぞ、痛くもかゆくもない。これ以上の攻撃がないのなら、こちらから行くぞ』

 すると、シーはパァンと両手を叩き、そのまま手を地面に下ろす。すると地面がグラグラと揺れ動き、一気に3人を吹き飛ばす。

「うおっ!」

 3人はシーから距離を取らされる。3人が後退すると、レジスタンスの戦闘員が銃撃で支援する。

「こいつは厄介な奴だな。どうする?」

 カイドウがジョーに聞く。

「そうだな……。それなら一つだけいい案がある」

「いい案?」

 イツキが尋ねる。

「あぁ。ここを俺に任して、お前らは先に行くというヤツだ」

「まさか、一人でアイツを相手する気か?」

「問題ない。これでも戦闘経験は多いほうだからな」

 すでに覚悟は決まっているようだ。

「……分かった。お前の判断に任せよう。そこらへんの戦闘員! 命知らずなヤツはここに残って援護だ!」

 カイドウが10人程の戦闘員に告げると、そのまま奥のほうへと走る。

『行かせはしない』

 そういってシーが、カイドウたちの前に立ちはだかろうとした。

「させるか!」

 ジョーが間に割って入る。隊列はそのまま奥の方へと進んでいく。

『貴様……、命が惜しくないのか?』

 シーがジョーに尋ねる。

「まぁ、命あっての物種だからな。惜しいのは惜しいが、アイツのことを思えばこれしきのことなんともないな」

 ジョーは剣を振るって、シーとの距離を広げる。

「そう……。イツキは、俺たちの希望の光となるはずだ。あの日、宇宙と同化した俺の甥、一月一日ねんが一基いつきのようにな」

『一月一日一基……? 貴様、あの御方を知っているのか?』

 シーは、少し動揺した声を出す。

「甥のことなら、多少は知っているつもりだ。それがどうした?」

『そうか。お前が格闘者に変身出来た理由が分かった。だからといって、今の状況が変わるわけではない』

 そういってシーは、ジョーに向かって走り出す。

『貴様はここで死ぬのだ!』

 シーは拳を何度も振るう。それに合わせて、ジョーも剣を振る。

 ジョーが突きをして、シーとの距離を離すと、そこに戦闘員による銃撃が行われた。

『チマチマとうるさい……!』

 シーはエネルギー体を溜めて、それを足に移す。そしてそのまま足を振るった。

 エネルギー体は斬撃のように飛び、防御耐性のない戦闘員を全員排除した。

「や、やりやがった……!」

 ジョーは仲間である戦闘員がやられたことに対する憤りを感じる。

「やっぱり、人類に敵対する『オール・ワン』は許しておけないな……!」

 ジョーはグリップを納刀し、一度捻って再び抜刀する。

『シャープ ソードストライク!』

 光の剣の出力が上がり、超高温の光線となった剣をジョーが全力で振った。

 それはシーの体を包み込むほど太く、そして高熱であった。シーの装甲が溶け、体中が一瞬のうちに焦げ付く。それでもなお、防御が効いているため即死には至らない。

 最終的には、腰に装着しているバックルが熱に耐えきれずに融解。強制的に変身を解除させた。

 変身が解除されたということは、超高熱に生身の肉体が曝されることになる。シーの肉体は一瞬のうちに炭と化した。

 光の剣は次第に縮み、元の大きさに戻る。グリップを納刀して変身を解除したジョーは、仲間である戦闘員のほうへと駆け寄った。

 しかし、一目で絶命していることが分かる。

「すまない……。俺の判断ミスで、君たちのことを死なせてしまった……。俺は君たちのことを忘れない」

 そういって手を合わせるジョー。

 祈りを捧げ、いざ踵を返そうとした時だった。

 胸の辺りに生暖かい温度の液体と痛みを感じる。

 ジョーが自分の胸を見てみると、そこには巨大で鋭利な針のような物が胸に突き刺さっていた。背中から針のような物で突き刺されたのだろう。

「なん……」

 針のような物が抜かれ、ジョーの胸には風穴が開く。針の突き刺さったであろう方向を見ると、炭になったはずのシーが鍵のようなものをこちらに向けていた。

「鍵で、刺した……?」

 ジョーはそのまま地面に倒れる。息が出来ない。心臓も損傷している。もはや痛みが強すぎて感覚が麻痺してきた。

 ジョーの意識が遠のく。ジョーが最後に見たのは、相打ちになった喜びで口角が上がったシーの死体であった。

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