第44話 真価
そのころ、インスタンスの北と思われる方向から、ジーオーとフォージがレジスタンスの戦闘員と戦っていた。
とは言っても、戦闘員の持っている小銃では彼女らの装甲を破壊することは出来ない。
「「そんな攻撃じゃ、うちらのこと倒すの無理だよ」」
「ジーオー、こいつらに構っている場合じゃない。さっさとヘリクゼンを殺しに行くぞ」
「ヘリクゼンは建物の中にいるでしょう。中のほうから臭いがします」
フォージは銃弾の雨の中を進み、インスタンスに侵入しようとした。
そこに彼が現れる。
「待て!」
イツキだ。手にはバックルとシータ・デバイスが握られている。レジスタンスの戦闘員は攻撃を止め、イツキの方を振り返った。
「そっちから出てくるとは、賢明だな」
「お前らの好きにはさせない。俺の命に代えても!」
そんなイツキの所に、戦闘員の一人がやってくる。
「イツキさん! その怪我で変身するのは無茶です! しかもヘリクゼン・シータの制御が完全に出来ていないじゃないですか!」
「そんなことは知っている。だけど、仲間が倒れていくのをただ指を咥えて見ているだけなのは、何より自分が一番許せない!」
そういってバックルを装着するイツキ。
「暴走してでも、お前らを止める……!」
『シータ!』
そのままバックルにシータ・デバイスを装填する。
すると前回の変身の時と同じように、バックルから黒い霧のような物が現れ、イツキの体を覆いつくした。
「ぐぅぅぅ……!」
イツキは痛みに耐える。それでも黒い霧は、容赦なくイツキの体を束縛していく。
「あぁぁぁ!」
『アアアアプルーブ!』
黒い霧がイツキを覆い、そして霧散する。
『ファイター ヘリクゼン・シータ!』
禍々しい姿が、そこにはあった。
「まぁいい。ここで殺すだけだ!」
「「簡単に死ねると思わないでよ!」」
フォージとジーオーが攻撃をしようと構える。
その時だった。
ヘリクゼンの後ろから、変身したジョーとカイドウがイツキの腕を拘束する。
「イツキ! 目を覚ませ!」
「暴走することがお前のやりたかったことか!?」
ヘリクゼンは、ジョーとカイドウの拘束を解こうとする。その前にカイドウが動いた。
カイドウは、バックルに装填しているデバイスを引き抜くことに成功する。
すると、ヘリクゼンの装甲が霧のように発散した。中からは、ぐったりとしたイツキが出てくる。
「無茶しやがって」
「ジョーさん……。でも、ここで自分が出なければ、自分がいる意味がない……」
「そんなことはないわ」
上の方から声が聞こえる。声のする方を見ると、そこにはミネ博士がいた。そして手に何かを持っている。
「正直言って、まだ未完成ね。でも、イツキの持っている力があれば何とかなるはずよ」
そういって屋上から手に持っていた何かを投げる。カイドウは敵に取られるまいと、ジャンプしてそれを受け取った。
それを手にしたカイドウはイツキの元に戻る。似たようなデバイスが二つあった。
「シータ・デバイスが正常に動くように祈れば、完成するはずだわ」
「ミネ博士……。ありがとうございます」
そういってイツキは、二つのデバイスを受け取って願う。
「俺の願いを叶えられるようにしてくれ……」
手でデバイスを包み込み、願った。すると、手の中から光があふれ出した。
「な、なんだこれは……」
フォージが驚く。当然だろう。フォージの視界の隅にある現実強度値が大きく変動しているからだ。
そして光が収まると、そこには完成された二つのデバイスがあった。
「セットアップ・デバイスの完成ね」
屋上から様子を見ていたミネ博士は確信する。
イツキは立ち上がり、フォージたちの前へと立つ。
「俺はお前を、書き換える」
そういってバックルの両端にセットアップ・デバイスを装填する。
『セットアップ!』
そしてシータ・デバイスを起動させ、バックル上部に装填した。
『スキャニング!』
腕を前方で交差させ、変身前ルーティンの逆にするように腕を回す。そのままセットアップ・デバイスの出っ張りに手を添えた。
「変身!」
セットアップ・デバイスの出っ張りを内側に折りたたみ、そのままバックルの前面を押し込む。
『アプルーブ!』
いつものようにバックルから流体状の金属が溢れ、イツキの体を包み込む。
装甲が形成され、全体像が現れる。
暴走状態のヘリクゼンに似ているが、赤黒い色から蛍光色の赤へと色が変化した。
『ファイター ヘリクゼン・シータ!』
ヘリクゼン・シータの完全形態である。
「「まさか……、ヘリクゼンの意思を制御下に置いてるの……?」」
ジーオーが何かを確認しながら、驚いている。
「くそっ、こんなことふざけている! 貴様だけは絶対に殺す!」
そう言って、フォージとジーオーがイツキに向かって走り出す。
ジーオーが遠距離で銃撃する。イツキに命中するものの、ビクともしない。
「うらぁ!」
フォージは剣を振りかざして、イツキに斬りかかる。イツキはそれを腕1本で軽々と受け止める。
受け止めると同時に、イツキは反対の腕でフォージの腹部にブローをかます。
「はっ」
それをまともに食らったフォージは、腹部を押さえながら後ろへとよろけた。
それと入れ替わるように、ジーオーがイツキに接近する。
「「はぁ!」」
壊れることを覚悟して、銃を鈍器のように使うジーオー。その攻撃を、イツキは最小限の動きで全てガードする。
ジーオーは銃を鈍器にしながらも、随時射撃を行う。しかし、ヘリクゼン・シータの装甲が硬いのか、全くダメージが入っているようには見えない。
ジーオーがイツキの顔面に銃口を向けると、それを狙っていたかのように銃を押さえにかかるイツキ。
「まだまだだね」
イツキは銃身を右手で掴み、左手でジーオーの手首を勢いよく叩き、ジーオーの手からいとも簡単に拳銃を奪う。
イツキが銃を手に持つと、そのまま横に向かって撃つ。そこにはチャンスを伺っていたフォージがいて、そちらに向けて撃ったのだ。
しかし、フォージは剣で銃撃を弾く。それを合図に、フォージの後ろからモニカが飛び出してきた。
素早い動きで、モニカはイツキに向かって飛び掛かるが、それすらも予測していたようにイツキはその場からスッと移動する。これにより、モニカの攻撃は地面をえぐるという結果になった。
そしてその瞬間を狙うように、イツキはモニカを撃つ。
「ぐぅ……!」
連続しての射撃で、モニカの体からは火花が飛び散る。
その攻撃にモニカは耐えきってみせたが、その直後に飛んできたイツキの蹴りには耐えることが出来なかった。モニカは十数メートルほど地面を転がり、その場で動かなくなってしまう。
「モニカ!」
フォージがモニカの方に行こうとしたが、それを拒むようにイツキがフォージに射撃した。
「うぁ……!」
射撃が命中したフォージは、地面に片足をつけてしまう。すると、そこに瞬間移動でもしたようにイツキが移動し、モニカと同じように蹴りを入れる。
「そいっ」
フォージの体が10センチほど浮く。その攻撃で、フォージも地面に倒れざるを得なかった。
イツキは持っていた拳銃を、ジーオーがいるほうへと軽く投げる。その速度は、人間の領域を超える時速500キロメートル。それをジーオーは避けることが出来ずに、胴体へとぶつけられる。
こうして、ジーオー、フォージ、モニカの3人を戦闘不能にした。
「つ、強い……」
「こんなの、俺たちでも歯が立たない……」
ジョーとカイドウは、ヘリクゼン・シータの戦闘力を見て率直な感想を述べる。
イツキは3人の前に出て、彼らを見る
「さて、ここで問題だ。この後、俺は何をするでしょう?」
若干困惑する3人。
しかしフォージは気が付いてしまった。
「ま、まさか……」
「はい、時間切れ。正解は、必殺技を繰り出すでした」
そういってイツキは、バックルの前面を両手で押し、続けて右側を押した。
『ヘリクゼン ファイター・パンチ!』
足に力を込めて、全力で地面を蹴る。すると、3人の体は宙に浮いた。
そこにイツキの拳を巨大化したような衝撃波を浴びせる。
それにより、装甲など関係なしに3人の肉体を損傷させた。さらに衝撃波によって、それぞれのバックルも破壊される。
3人は強制的に変身を解除された。それと同時に、体が煙のように消えていく。
「あぁ、俺たちもここまでか……」
「死んじゃうのか」
「死んじゃうんだね」
「ヘリクゼン、強かったね」
「とってもとっても、強かったね」
そう言ってジーとオー、そしてフォージはその場から完全に消えてしまった。
「なんとかなった……」
変身を解除したイツキの元に、同じく変身を解除したジョーとカイドウがやってくる。
「全く、心配かけさせやがって」
ジョーが少し笑う。
「後遺症の類いもなさそうだな」
カイドウはイツキの様子をチェックする。
「まぁ、何とかなって良かったです。これで人柱も、『オール・ワン』も破壊出来るかもしれません」
「だが慢心は良くない。きちんと準備をしてからだな」
そういってイツキたちは笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます