第43話 バックル

 人柱を追い払った翌日の事。

 監視をしていたレジスタンスの戦闘員が声を上げる。

「敵襲ー! 人柱3体襲撃ー!」

 今までにない早さで人柱が襲撃しに来たのだ。

「昨日も来たのにか。これは本格的に侵略してきそうだ」

 当直に入っていたカイドウがそんなことを言う。一緒に当直に入っていた戦闘員が部屋を出る中、カイドウは自分の小銃を持って椅子から立ち上がる。

 その時、カイドウを止める声がした。

「カイドウさん。ミネ博士がお呼びです」

 技術班のメンバーだ。

「敵襲だぞ。そんな暇はない」

 カイドウはきっぱり言い放って、インスタンスの外に出ようとした。

 そこへ走ってくる人。ジョーである。

「カイドウ! ここは俺に任せろ!」

「昨日の今日で大丈夫か?」

「問題ない! チャチャッと片づけてくるさ!」

 そういって外へと走っていくジョー。

「昨日と同じようにしてやる!」

 ジョーはバックルを装着した。

「変身!」

 シャープ・エックスをバックルに装填して変身する。

「おらぁ!」

 勢いよく右側にいた人柱に剣を振るう。しかし、ただではやられないつもりなのか、腕の分厚い装甲でガードする。

「せいっ! はっ!」

 ジョーは人柱の腕を避けるように攻撃する。人柱も反撃するものの、ジョーの回避能力のほうが高いようだ。

 だが、それだけでは終わらない。残り2体の人柱が、いつの間にかジョーの両脇に陣取っていたのだ。

 そして両脇の人柱たちは、同じタイミングで攻撃を繰り出す。

「ちぃ……!」

 ジョーは攻撃を止め、仕方なく回避する。後方へとステップすると、そこから再び攻勢をかけようとした。

 ジョーが前のほうを見た瞬間、その視界には巨大な拳が目一杯に広がっていた。

 状況を整理する時間など無しに、その拳はジョーの顔面に命中する。それによって、ジョーは大きく宙を舞うのであった。

「がぁ……!」

 地面を転がり、地に伏せるジョー。何があったのか状況を整理しようにも、顔面に強烈なパンチを食らった痛みで、まともに思考することが出来ない。

「なんだ、この感じ……? 今までの人柱の動き方じゃない……」

 何とか頭を回転させて、違和感の正体を突き止める。

「そ、そうか……! あいつら、連携をしているんだ……!」

 これまでは、それぞれが単独で攻撃をするようにルールが決まっていたような動きをしていた。しかし今は、3体が手を合わせてジョーのことを追いつめているのだ。

 それはまるで、オオカミが狩りで連携しているような雰囲気である。

「こいつは少しマズいような気がする……!」

 そんなことを言っている間にも、人柱はジョーに接近してくる。

 そこにレジスタンスの戦闘員が銃口を向け、射撃を行う。

 人柱の背中に何発も命中するが、それでひるむような連中ではなかった。

 人柱は戦闘員のほうを向くと、拳をぶつけ合う。すると、紫色の幻影のようなものが拳の周りを漂う。そして拳を振るった。

 幻影は戦闘員のところまでまっすぐ飛び、そして地面に命中する。それによって爆発が起きて、戦闘員たちは吹き飛ばされた。

「クソッ……!」

 ジョーは何とか立ち上がって、グリップを一度納刀、アイテムのボタンを押して再び抜刀する。

『シャープ ソード・スラッシュ!』

「はぁ!」

 ジョーは剣を振るい、斬撃を人柱に飛ばす。

 人柱は、その攻撃が分かっていたかのように、謎の波動で相殺する。さらに人柱は、残っていた拳の幻影をジョーのほうに飛ばす。

 それは、ジョーの体に命中する。

「ゴハッ……」

 再び地面を転がるジョー。致命傷ではないものの、かなりダメージが入っている。

「くそ……」

 地面に伏しているジョーへ、人柱たちはゆっくりと歩いてくる。

 その時であった。

「そこまでだ」

 人柱の後ろ、インスタンスのほうから声がする。

 そこにはカイドウがいた。見たことのないバックルを持って。

「カイドウ……」

「お前らは俺たちが破壊する。このスクリプトバックルマークⅡでな」

 そういってバックルを装着し、いつものアイテムを取り出す。

 しかし、いつもとは違う持ち方をしていた。

 右手でアイテムを顔の横に掲げると、それを左手で持ち替える。そのままバックルの左側に上からアイテムを装填した。そして左腕ごと横に振り上げる。その時、手のスナップを使って、アイテムを回転させた。

『リビジョン・アップ!』

「変身」

 横に出した手で、アイテムをバックルに押し込む。

『ローディング!』

 バックルから流体状の金属が回転するように溢れ、カイドウの体を包み込んでいく。

 そして各種装甲を形成する。

『ファイター スクリプト・ミュー!』

 以前より流線形が強くなった、新しい格闘者の姿があった。

「俺は、俺をさらに肯定する」

 そして人柱に向かって走り出す。

 人柱は拳から衝撃波を出すが、それを正面から食らってもカイドウはビクともしない。

 カイドウが自分の間合いに入ると、拳を振るう。人柱は反射的に腕の装甲でガードするが、それでも人柱の体が浮くほどの衝撃が伝わる。

 何度かパンチを繰り出すカイドウ。それでもガードし続ける人柱。

 少しずつではあるが、人柱の装甲にヒビが入っていく。そして装甲がはじけ飛んだ。

「ふんっ!」

 カイドウは勢いをつけて回し蹴りをかます。

 それによって人柱は後ろによろけた。その先にはジョーがいる。

「うおおお!」

 ジョーは剣を構え、背中を見せている人柱に突き刺した。

 背中から胸にかけて、剣が貫く。ジョーが剣を引き抜くと、人柱は片膝を地面につけて苦しそうな素振りを見せる。

「今だ、ジョー!」

「おう!」

 そういってカイドウとジョーは、バックルを操作して必殺技を発動する。

『スクリプト レイズ・アタック!』

『シャープ ソード・キック!』

 二人は飛び上がって、そしてお互い交差するようにキックする。

 それが人柱に命中し、そして爆散した。その時、人柱が使っていたであろうアイテムが宙を舞う。

「せいっ!」

 たまたま近くにいたジョーが、それを剣で切り裂いた。

 これによりアイテムは破壊される。

「さて……。まだやるか?」

 カイドウは、残り2体の人柱に向き直る。

 すると、人柱たちは何を思ったのか、見当違いの方向へと歩いていく。

「なんだ?」

 カイドウの元にジョーがやってくる。

「さぁ? そっちに何かあるとは思えないが……」

 その時、インスタンスのほうからレジスタンスの戦闘員が走ってくる。

「伝令です! 別の方向より『オール・ワン』の格闘者が出現しました!」

「っ! マズい!」

 カイドウとジョーは、人柱たちが向かった方向へ走り出した。

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