マルオ

西順

マルオ

 丸い身体に丸い目鼻口が付き、足は八本でこれまた丸い。それがマルオだ。正式名称である。発見者が日本人で、その丸々した体躯から名付けたそうだ。


 発見されたのはサハラ砂漠の奥地で、発見時は種のような形だったのだが、その日珍しく砂漠に雨が降ったと思ったら、バスケットボールくらいまで大きくなり、分裂して何体にも増えたそうだ。


 発見時、「何だこの生き物は?」と騒ぎになり、分裂して増える事から、大きなアメーバのような単細胞生物ではないか? と学者の一人が声を上げれば、多細胞である事からそれは否定された。そして細胞壁がある事から、植物説を提唱する学者が現れるも、水分を含んだマルオは、その八本の足で歩く事から、これは新種の動物だと提唱する学者もいる。


 結局の所、マルオがどんな生物であるのか分からないので、生物の分類に新たにマルオが付け加えられる事で落ち着いた。


 そのマルオも、最初は大学や研究施設のみで飼育? されていたのだが、その大人しい性質と、何だか憎めない愛くるしいフォルムから、段々と一般家庭でも飼育されていくようになり、今では犬猫ウサギに続く、第四のペットとして、その地位を確立している。性質の大人しさや増殖速度からしたら、いつかマルオが一番飼育される生物となる日も近いかも知れない。


 我が家にもマルオがやって来た。息子が友達の家で飼育されていたマルオを気に入り、その家から株分けして貰って、我が家にお迎えしたのだ。我が家は賃貸マンションでペット禁止だったが、マルオは鳴いたり騒いだりしないので、飼育オーケーとされているので問題無かった。


 我が家のマルオは、最初はオーソドックスな透明に近い緑色をしていた。これには息子も少し残念そうにしていた。友達の家のマルオは、紫に黄色の線が入っていたからだ。


 マルオは食事でその体色を変化させる生き物だ。基本的には水だけ与えていれば、ずっと生きているそうで、その水が無くなっても、種状に萎み、休眠状態となって生き続けるそうだ。生命力が強い。水も、与え過ぎれば分裂するので注意が必要である。


 マルオには口があるので、水以外にも食す事が可能だ。基本は何でも食べるが、塩は与え過ぎると萎れて死んでしまうので注意。まあ、海中で生きられる生き物でなくて良かったと思うべきだろう。


 我が家のマルオは、最近ペットショップ等で売り出され始めた、マルオ専用のペットフードを何種類か与えている。これには色を変えるものや、模様を変えるものがあり、我が家独自の色模様にしたいと息子は色模様が変わる都度、ペットフードの割合を変えて試している。


 マルオはぷにぷにしており、何だかクッション代わりに膝の上に置いておくと安心する感触だ。これを枕にしてソファーで眠ると良く眠れるが、嫁と息子には怒られる。


 移動速度は遅く、赤ちゃんのハイハイよりも遅い速度だ。たまに外でマルオを散歩させている人を見掛けるが、抱いて歩いていたので、あれはマルオの散歩ではないな。我が家では散歩はさせていない。勝手に家の中を歩き回らせている程度だ。


 マルオも意外と賢いので、懐き度合いが違う。一番懐いているのは勿論息子だ。息子がペットフードをくれるのを分かっているからだ。次に懐いているのが嫁である。朝一に水をくれるからだろう。はっきり言って私には懐いていない。ペットフードも水もあげていないからか、それとも枕代わりにしているのを恨んでいるのか、私が近寄ると逃げるのだ。まあ、遅いからすぐに捕まえられるのだが。


 先日我が家に息子の友達が来た。息子がようやく納得のいく色模様に出来たマルオを自慢する為に呼んだのだ。我が家のマルオは、青に赤紫のドット柄なのだが、ドットの一つが星型で、それが息子の自慢らしい。息子の友達も我が家のマルオを気に入ったらしく、羨ましがりながら帰っていった。


 後日、その友達の家もマルオを飼育する事と決めたのだが、我が家から株分けしたマルオが良いとの事で、これを了承した。


 そうなればマルオに更に水を与えて、分裂して貰わなければならないが、そこで嫁がストップを掛けた。何かと思えば、嫁も自分だけのマルオが欲しいとの話だった。それなら私だって欲しい。となり、結局、息子のマルオから三体のマルオを分裂させ、そのうちの一体を友達の家にお譲りした。


 現在、我が家では更に増えて十体のマルオを飼育している。色模様がそれぞれ違うので、見ているだけで飽きない。ペットフードをあげれば懐き度合いも上がるので、これも嬉しくなり、その結果がこれだ。


 ネットやテレビのニュースでは、増え過ぎたマルオが山林等に捨てられる事例が報道されている。幸い川に辿り着く前に処理しているそうだが、山林等で更に数を増やしており、それらが農地に下りてきて、作物に被害が出ていると言う。困った話だ。


 それでもマルオの飼育数は右肩上がりで、このまま増えていくと、十年後にはマルオの数が世界人口を上回ると予測されている。それでも我が家では新たにマルオを株分けしようとの話が持ち上がっていた。

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マルオ 西順 @nisijun624

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