第5話 おまけ②【手紙】

おまけ②【手紙】



 おまけ②【手紙】




























 これは、将烈が姿を消したあとのやりとりの手紙を記したものだ。








 【斎御司殿


 連絡が取れないため、手紙を送ることにした。身動きが取れない状態になっている。ある事件の概要について調べたい。資料を送ってくれ。   太郎(偽名)】


 【太郎殿


 手紙でのやりとり承知した。資料に関しても、データをポスト投函で送ることにする。しかし、この事件は危険すぎるのではないか。首を突っ込むのはあまりお勧めしない。考え直すよう助言とする。  斎御司】


 【斎御司殿


 データ受け取った。感謝する。しかし、データを見る為の機器がここにはない。パソコンを送っていただけると助かる。 太郎】


 【太郎殿


 承知した。部下に送らせた。それにしても今何処にいるのだ。太郎殿の部下も心配していたので、手紙でも連絡されたし。斎御司】


 【斎御司殿


 確かに受けった。もう手紙を書くのが面倒なのでしばらく連絡はしない。  太郎】


 【太郎殿


 面倒とは何事か。貴殿を心配しているというのに、面倒とは何事か。確かに久しぶりに文字を書いたためか漢字が出てこなかったり文字の並びが斜めになってしまうこともあるが、それでも私は頑張って書いているというのに、何事か。今後も連絡されたし。斎御司】


 【太郎殿


 なぜ返事をよこさないのか。手紙を始めたのは太郎殿ではないか。私は辞書を横に置いて常に待機しているのだ。太郎殿もそれくらいの覚悟で手紙を始めたのではないか。返事されたし。    斎御司】


 【太郎殿


 いい加減返事をよこせ。なぜ私からばかり手紙を送っているのだ。というか太郎とはなんだ。最初誰かと思ったぞ。太郎なんていう知り合いがいたかと眞戸部に調べてもらったくらいだ。ふざけているのか。それとも太郎に憧れでもあるのか。返事されたし。斎御司】


 【太郎殿


 というか将烈、お前返事をよこせと言っているだろう。この私が忙しい時間を割いて手紙を書いているというのに、なんでお前はよこさないんだ。今すぐ返事を書け。そして送って来い。   斎御司】


 【おい将烈!お前本当に私を馬鹿にしているのか!折角手紙を書いているのに返事がこないのはとても寂しいんだぞ!仕事のことじゃなくてもいいから手紙を書きなさい!わかったな!  斎御司】


 【将烈!!!!!!何度言ったらわかるんだ!もしかして手紙が届いていないのか!?それは心配だ!私がこの住所のところに直接手渡しに行った方がいいのか!?よし待っていろ!すぐに届けにいくからな! 斎御司】


 【おっさん


 面倒だからって書いただろうが。つーか文通してるわけじゃねえんだよ。必要なときだけ送ってこいよ。暇なのか?おっさん暇?てかわざわざ太郎にして身元がバレねぇようにしたのになんで名前書いてんだよ。あんた馬鹿だろ。手紙を手渡しとか馬鹿だろ。用があったら連絡するから大人しくしとけ。 太郎】


 【太郎殿


 ようやく返事をくれたな。とても嬉しかった。愛娘の将来の婿候補だからつい熱くなってしまった。申し訳ない。お詫びに娘の写真を同封する。   斎御司】


 【親馬鹿


 写真とかいらねぇし婿候補でもねぇから。いつから脳内花畑になったんだ?もう返事はいいっつってんだろ。用があるときだけ送れって言ってんの。そんなに頻繁にやりとりしてる方が怪しまれるわ。二度と迷惑な手紙は送ってくんじゃねぇぞ。  将烈太郎】


 【娘の将来の目つきの悪い婿


 娘が会いたがっている。どうしたらいい。これは大変重要な話だ。また家に来てくれと言っている。どうする。式は和装か。いや、あの可愛さならドレスもいい。お前はどっちが好みだ。いいか、これは最重要事項だ。すぐ返事を書け。  斎御司】


 【娘の将来の口の悪い婿


 おい、なぜ返事をよこさないんだ!最重要事項だと言っただろう!!!娘が毎日毎日いつお前に会えるんだと聞いてくるんだぞ!そのときの私の苦しみが分かるか!?よし、都合のよい日を何日か書いておくから、その日からお前が選べ。  斎御司】


 【娘の将来のクソ婿


 私なりに頑張ったんだ。娘が目映りするように、色んな男どもの写真を見せたんだ。それはもう将来有望な男たちだ。娘は歳の差を気にしていないようだったから、お前よりはまともな奴らを選んだ。それでもダメだった。娘はお前一筋のようだ。早く連絡をよこせ。でないと、お前を今後一生私の部下として迎え入れることになるだろう。 斎御司】


 【娘の将来の素晴らしい婿


 すまなかった。私が悪かった。だからどうか娘に一度会いに来てくれ。でない私が娘から嫌われてしまう。それはダメだ。そんなことになったら私は職務を全う出来ない。出来ない自信しかない。一生私の部下にもしない。お前のような狂犬は手に負えないからな。笑。


だからどうか頼む。斎御司】


 【斎御司殿


 将烈とかいう人の代わりに書いてます。面倒だから書けって言われたよ。娘の話はどうでもいいって言ってます。そんな話でわざわざ手紙をよこすなって言ってます。口が悪くてすみません。でも悪い人じゃないんです。ただ正直なだけなんだす。手紙が面倒なんですって。こういうの好きじゃないんですって。だから俺が代わりに書きました。今度一緒に美味しいご飯を食べましょう。奢ってください。  黄生】


 【黄生殿


 こちらこそ斎御司が迷惑をおかけしてしまって申し訳ございません。将烈さんにもお伝えください。上司としては立派な方なのですが、どうにも娘さんのこととなると人が変わってしまうところがありまして、お許しください。また、将烈さんのことも大変心配しての行動であること、ご理解いただければと思います。今後は余計な手紙は書かないよう十分見張っております。よろしくお願いいたします。 眞戸部】


 【眞戸部様


 全然平気です。まじで。将烈はいつも暇そうにしてるんでいつでも送ってください。こいつまじで何もしないんで。亭主関白かっていうくらい何もしないんで。まじブン殴ってもいいですかね。娘さんはとても素敵な女性になると思うので、こんな男にはもったいないとお伝えください。 咲明】


 【咲明殿


 お気持ち良くわかります。斎御司さんも暇そうにしているんです。なのによく私が仕事に狩り出されるんです。どうしてでしょう。一昔前の親父か!っていうくらいに動きません。それはもう、動かざること山の如し。娘さんの件も、まだ10にもいかない子供なので、流せば良いと言っているんですが全く耳を貸しません。馬鹿なのかなって思います。あなたとは気が合いそうです。ありがとうございます。  眞戸部】


 【眞戸部様


 それは大変ですね。直接会ってお話ししたいくらいです。心身ともに疲弊しきっていることでしょう。お会いできる機会があれば、是非お会いして話したいところです。ですが何分旅をする身ですので、なかなか出来ないのが悔しいところです。 咲明】


 【咲明殿


 旅をしていらっしゃるのですね。羨ましい限りです。私はここから動くことが出来ませんので、自由に旅をしたいものです。いつか旅の話を聞かせてください。そしてゆっくりお茶でもしましょう。  眞戸部】








 「おい眞戸部、この報告書・・・」


 「今手紙書いているのでご自身でお願いします」


 「・・・そうか」


 いつもなら、どんなに忙しくても仕事を引き受けてくれる眞戸部が、最近は手紙ばかり書いている。


 斎御司は頼んでいない。


 つまり、将烈との手紙ではない。


 「眞戸部、お前は一体誰と文通をしているんだ・・・!」








 「・・・あいつ、誰に手紙書いてんだ?」


 「さあ?しーらない」


 「そこ、五月蠅い」


 咲明もまた、手紙を書いていた。


 将烈は頼んでいない。


 つまり、斎御司との手紙ではない。


 誰とやりとりしているのかは少し気にはなったが、咲明が心なしか楽しそうに見えたため、黄生も将烈も何も言わない。


 咲明も眞戸部も、目を輝かせながらこう呟いたという。






 「「会ってみたいなぁ」」






 そんな2人を見て、近くにいる男たちはこう思うのだ。


 ((若いっていいな))


 「おかわりー」








 ―後日談


 「眞戸部!急用だ!」


 「どうしました?」


 「手紙を!将烈に!急げ!」


 「わかりました!なんと書きますか!」


 「娘が一緒にお風呂に入ってくれなくなった!助けてくれと!」


 手紙一式は、眞戸部によって燃やされたとか、いないとか・・・。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

maria159357 @maria159753

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る