第4話 おまけ①【知り合い】

おまけ①【知り合い】


 おまけ①【知り合い】




























 「どちらさま?」


 「・・・・・・」


 咲明と黄生の前に、1人の男が現れた。


 見たことがあるような、ないような、いや、多分ないのだろうが、どこかで会ったような気もしてしまう。


 真っ黒な髪に真っ黒なシャツ、そこに生える真っ赤なネクタイに真っ白な手袋。


 口に煙草を咥えた男は、目の前の咲明をじーっと見ている。


 「あがってもらいなよ、咲明」


 「お前は能天気すぎるんだよ」


 「だって、外大雨じゃん。風邪ひいちゃうよ」


 そう、男は平然と立っているが、外は土砂降りのため、男は全身ずぶ濡れだ。


 ザーザーと心地良い雨音がまだ耳に聞こえ、畳の上でごろごろしている黄生は「涼しい」と喜んでいる。


 そんな黄生を見て気が抜けたのか、咲明は男を中に招き入れた。


 タオルを投げるように渡せば、男はガシガシとかなり適当で雑に髪の毛を拭き、中に入るのかと思いきや入口に立ったままだ。


 男はタオルを頭に被せたまま、手袋を外して目元をなにやらいじっている。


 何だろうと思って見ていた咲明だったが、ゆっくりと顔を上げた男のその目を見たとき、理解した。


 「咲明の知り合い?」


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 「え?なんで2人して黙ってるの?うわー寂しい。俺無視されてる。心折れた」


 男にコーヒーを淹れた咲明は、頬杖をついたまま目を閉じている。


 黄生はつまらないつまらないと言いながら、足をばたばた動かす。


 すると、急に男が口を開いた。


 「落ち着きのねぇ野郎だな」


 「え、最初にあがってもいいっていったの俺なのにそういうこと言うの」


 「黄生、俺も今脳内整理してるところだから話しかけンな」


 「つれないよぉ・・・」


 身体はうつ伏せにし、顔は横に向けた状態で拗ねてしまった黄生を他所に、男と咲明は話し出した。


 「なんで俺のことが分かった?」


 「噂には聞いてたからな」


 「他人の空似かもしれねぇだろ」


 「部下に調べさせた。詳細は話してねぇが。それに、幾らこの世界広しと言えども、この目はそうそういねぇだろ」


 「・・・・・・」


 「ちなみに、DNA検査もした」


 「は?どうやって?」


 「お前等痕跡残し過ぎ」


 「・・・・・・なんかムカつくな」


 男は、なぜここに来たのかを説明すると、咲明と黄生はとりあえず受け入れた。


 そしてしばらく男を匿いながら生活をした。


 男は手紙でやりとりをしているらしく、なんでアナログなんだと聞けば、アナログの方が情報が漏れないこともあると言っていた。


 ある日一通の速達が届き、男は戻ると言いだした。


 黄生が送って行くと言いだしたため、咲明も付き合って男を送っていく。


 男が無事に仲間と思われる奴らと合流したのを見届けると、また元来た道を戻る。


 「それにしても咲明、なんで急に泊めることに賛成したの?」


 「・・・・・・」








 小さい頃の記憶なんて、持っている者は少ない。それが、生まれて間もない頃となれば尚更だ。


 『なんだこの双子は』


 『呪われているんじゃないのか』


 『恐ろしい。恐ろしい』


 『今すぐ殺してしまおう』


 『そうだ。じゃないと、我々に呪いがふりかかるやもしれん』


 『殺せ、生贄として捧げよう』


 見知らぬ大人の心無い言葉。


 幼い耳にもしっかりと届き、その脳で理解していた。


 ―ああ、僕たちは殺されるんだ。


 ―こんなくだらない大人たちに。


 ―この世に呪いなんてあるわけないのに。


 ―哀れな大人に生かされるくらいなら、僕たちは・・・。


 夜になったら殺そうと、大人たちは生まれて間もない子供2人を、小さな神社にある境内社の中に入れておいた。


 陽が沈みだしたそのとき、1人の女性がこそこそと隠れるように中に入ってきて、2人を抱き抱える。


 「大丈夫よ。私が守るからね」


 女性は2人を抱えて村から出る為に必死に走り出す。


 しかし、境内社に赤子がいないことに気付いた村人たちが、赤子を探す為に血眼になっていた。


 松明に灯りをつけ、どこだどこだと地鳴りがするほどの不気味な空気を出しながら、まだ自らを守ることも出来ない子供を殺すために探しまわる。


 女性は息を切らせながら、村のはずれまで来ていた。


 「ここまでくれば・・!」


 ホッと安堵したのも束の間・・・。


 「いたぞ!!!」


 すでに近くまで来ていた村人の1人が、赤子を抱いている女性を見つけた。


 女性は急いであと数メートルの村の外へと出ようとするが、疲労でなかなか進まない。


 もうすぐで捕まるというとき、女性の前に1人の男が現れた。


 もうダメだと思った女性の後ろから追ってきた男が斧で襲いかかると、女性の前にいる男が後ろからきた男を気絶させていた。


 どうやったのかは、わからない。


 フードを目深にかぶっているため、しっかりと顔を見ることは出来ないが、その瞳は赤く燃えていた。


 「あ、ありがとうございます」


 女性は男に礼を言ったが、男はそのまままた村の外に行こうと歩き出した。


 女性は慌てて男に声をかけると、抱いていた赤子を差し出してきた。


 「お願いします。この子たちを、どうか、外の世界に連れて行ってください!!」


 「・・・・・・」


 男が赤子の顔を見下ろしてみると、双子の目はどちらも金色に輝いていた。


 「お願いします!」


 女性は強引に男に赤子を渡すと、そのまま村へと戻って行ってしまった。


 男はどうしたものかと赤子を見ると、1人は能天気に寝ており、もう1人は男のことをじっと見てくる。


 その女性がどうなったかなどわからないが、古の風習は悪しきものも残っていると聞く。


 しかし、この赤子をどうすればよいのかわからない男は、それぞれ違う人物に託した。


 互いに赤子の時に離れたため、互いの場所のことなどわからないし、片割れがいたことさえ覚えているかも定かではなかった。


 それでも、皮肉な運命は存在する。


 ―金の目を持って生まれた子供は、神からその目を奪ったため、神にその目を返す為、すぐに殺さなければならない。


 「それでも生きろ。神などいないのだから」








 「なーあー咲明ってばー」


 「うるさい」


 「おそろいの目してたから?」


 「・・・お前、見てたのか」


 「見てたよ。見えたよ」


 「・・・・・・」


 はあ、とため息を吐くと、咲明はその金色に輝く目を隠すことなく、どこかを見つめる。


 未だごろごろしている黄生がのそのそと身体を起こしたかと思うと、咲明もその黄生の動きの意味を理解し、立ち上がる。


 「ここももうバイバイだね」


 「だな。拠点替えないとな」


 黄生と咲明は最低限の食料だけを袋に詰めると、さっさとその場から立ち去る。


 どこに向かっているかなどわからないが、道すがら、黄生が口を開く。


 「またどこかで会えるといいね」


 「・・・・・・」


 「それにしても似てたよね、咲明と」


 「そうか?全然似てねぇよ」


 「似てたよ。口悪いところとかね」


 「・・・・・・」


 黄生にそう言われ、少しだけムッとした咲明だったが、何を思ったのか思い出したのか、小さく笑った。


 ソレを見て、黄生に「気持ち悪い」と言われたため、軽く殴っていた。


 歩くことを止めないまま、咲明はどこか遠くの方を見つめる。


 『こんな時にお前を頼るなんてのはてめぇ勝手の都合で悪いと思うし正直癪なんだが、俺の周りの人間で確実に存在がバレてねぇのはお前だけだ』


 『都合良く使われるのは好きじゃねえ』


 『だろうな。俺もだ』


 『ならなんで来た。俺があっさり引きうけるとでも思ったのか』


 『ああ』


 『なんだその自信は』


 自分と同じ目をした男は、真っ直ぐに見据えてこう答えた。


 『俺の片割れだからだ』


 『・・・・・・確かに、癪だな』


 もとより、あの男は匿ってもらおうというよりも、咲明に会っておく良い機会だとでも思ったのだろう。


 黄生もなぜか懐いてしまっていて、並んで仲良く寝ているときもあった。


 「はあ・・・」


 「どうしたの咲明、お腹空いたの?俺も空いたんだよね、よし、お昼にしよう」


 「まだ朝飯食って1時間も経ってねぇぞ」


 「生きてる限りお腹は空くんだよ」


 「お前悟りでも開くの?」


 勝手に木陰で休み始めた黄生を見て、これは当分動きそうにないと、咲明は諦めて同じように木陰に腰を下ろす。


 『互いに生きてたら、またどっかで会うだろうよ』


 曲げた膝に肘をつけて頬杖をつきぼーっとしていると、隣から黄生がおにぎりを差し出してきた。


 それを受け取って口に入れると、とても甘かった。


 「黄生、お前砂糖まぶしたのか」


 「間違えちゃったね。でももったいないからちゃんと食べようね」


 疲れた身体に糖分、は必要だが、この形では欲しくなかったと思いながらも、隣で頬張っている黄生を見て、咲明も仕方なく食べる。


 正直、美味しいとは言えなかったが。


 黄生が背負っている風呂敷の中のおにぎりが、まさか全部この味なのだろうかと思い謎の絶望感に襲われもしたが、まあ、旅は道づれというからいた仕方ない。


 こんな道連れもあるのだと、咲明は未だ飲み込めないでいる砂糖まぶしのおにぎりを噛みながら空を見る。


 「・・・死ぬんじゃねえぞ」


 それからなんとかしておにぎりを食べ終えて先へ進もうとしたのだが、黄生がお昼寝をしていたため、夜まで動けないことを悟る。


 そよそよと靡く風が心地よい。


 時折聞こえる鳥のさえずりも、近くで流れている川のせせらぎも。








 「ねーねー起きてよー」


 珍しく咲明よりも先に起きた黄生は、咲明の顔をぺちぺち叩いて起こしてみるが、なかなか起きなかったため、諦めていた。


 「まったくもう。咲明ってばお寝坊さんだな。俺がいないとダメなんだから」


 そう言って、咲明のマフラーを掴むと、地面をズルズル引きずりながら旅を続けたそうだ。


 目を覚ました咲明に思いっきり殴られたのは、それからすぐのことだとか。








 「痛い・・・」


 「俺の背中の方が痛ェわ!俺はお前みたいに服っていう服を着てねぇんだぞ!?なんでそんな人間の身体を引きずれるんだよ!?だいたいな、お前って奴は・・・」


 「今日も咲明は元気だ」


 「まじでいつかはっ倒す」







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