『異次元アイドル』

「異次元アイドルってなんですか?」


聞き慣れない単語に橘は疑問をもつ。


「異次元アイドル。それは同じ次元にいるはずがない存在。畏怖と敬愛を人々に抱かせ、尊く、輝きに満ちた新時代のアイドルのことさ!」


セイトは突然バッと立ち上がり、両手を広げて語り出した。


「それって二次元と混ざった2.5次元みたいなアイドルのことを言ってないよな?」


僕はその謎概念に意見する。


「全くもって違う!それに、アイドルと違うジャンルを掛け合わせた〇〇×アイドルや、なんちゃってアイドルとも違う!『異次元アイドル』とは次元の垣根を超えたアイドルなんだ!」


息を切らして力説しているセイトに僕と橘は、怪訝な眼差しで見る。

コイツは何を言ってるんだろうと。


「そんな抽象的なことどうしたらいいのか、分からないです」


「それにだ。異次元アイドルって神さまとかと同じ部類に聞こえるけど、そんなの現実で可能なのか?」


半分諦めというより、セイトの頭がおかしくなったんじゃないかと心配になった。

一応話には乗っかる。


「異次元アイドルってのは神と同格かそれ以上と思ってもらっていい。それに可能だ。これから異次元アイドルになるため、とある場所へ向かう。荷物は用意してあるから出発しよう」


「これからいくのか?もう夕方近いぞ」


あまりにも話が早く進んだと思えば、急に場所を変えるというのだからセイトのペースにはいつもハラハラさせられる。


「ああ、それにこれはアイドル活動初日と思っていい。明日何も予定はないよな?」


「俺はないが橘は平気か?」


「私もないけど服とかこのままでいいの?」


橘にだっていろいろ用意するものとかあるだろうに、その辺りのことは考えているのだろうか?


「そこは問題ないよひなこちゃん。向こうに全て必要なものは揃えてあるから。

それとソラト。手伝うと言ったがいくつか条件を出させてもらう」


「条件?」


「ああ、主に3つだ。1つ、アイドルの仕事は俺の会社と契約すること。2つ、契約は必ず守ること。3つ、これから行くところは絶対に口外しないこと。それが守れるなら協力する」


たった3つ。シンプルな条件だが、簡単に鵜呑みするわけにはいかない。


「その前にいくつか質問させてほしい」


セイトに了解をもらい改めて条件について確認する。

もちろん橘と一緒に見直す。


すでに橘とは契約を済ませてある。

そして活動による契約も橘と意見を合わせていく方がいいと考えた。


なんとかお互い納得いく形で話はまとまった。


「というか、セイト。条件の3つ目に入れるくらいこれから行く場所ってバレたらマズいのか?」


そう。セイトが隠したいと思うほどの場所。何か大きな事情があるのだろう。


「まあな〜。お世話になった人が困るみたいだからさ。一部の人にしか教えてない」


「そこに何があるんだ?」


「それは行ってからのお楽しみだ!ささっ、二人とも出かけるからついてきてくれ」


マンションを下りると、地下に到着する。

見渡す限り外車ばかり。

セイトの車もきっとすごいのだろうと思ったのだが、白のミニバンだったことに拍子抜けした。


なんでもいろんな場所にドライブするならコスパがいいという話らしい。

そこは現実的なんだなと思った。


橘は疲れたみたいで横の席で眠っている。

僕は久々にセイトと語り合う。


懐かしいな。

少し前まではよく遊んでいたんだけど。

セイトが忙しくなって、僕もいろいろあって関わる時間が減っていた。


「それにしても、ひなこちゃんを捕まえてくるなんてすごいなソラト。アイドル向きな要素が備わりすぎてる」


セイトも橘を見て普通じゃないものを感じたらしい。


「だろ?僕も人目見て思ったんだ。アイドルに間違いなく向いてる、これはなれるってね」


「でも話聞いた時は驚いたぜ。アイドルやるから力を貸してほしい!って。滅多に頼み事はしないオマエが声かけてくるなんて雹でも降るのかと思ったぞ」


「大袈裟だろ。それなら、今向かってる場所で異次元アイドルになることの方が、いろんな意味で度が過ぎてると思うけどな」


正直今の段階では与太話程度としか到底思えない。

だがその謎概念が頭から離れないのだから不思議なもんだ。


「…よし。そろそろ近いな、悪いがソラト。しばらく眠っててくれ」


そう言い残して、セイトは何故かガスマスクのようなものを装着した。


「はぁ?なんだよそれ…、……あれ?……なんか、………ね、眠く・・・」


僕はそのまま抵抗する間もなく意識が途絶えた。

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負けヒロインを拾ったのでアイドルに誘ってみたら、『異次元アイドル』が爆誕しました! 綴ル @tudulu

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