青防の守り人
雪瀬 恭志
第一話:破片
――また、夢を見ました。
小さな体とサイズの小さい服――幼少期の私だ。そう思った私は、瞬時にある人を探すために、その閑静な住宅街の中をその小さい身体で精一杯走っていきます。
「ゆず姉、どこなのー!?」
ある人――姉を探すために、私はその足を、まるで烈火のごとく燃え盛る住宅街に音を知らしめるかのように駆け抜けていきます。
時折道に迷い、その際に目の当たりにする住宅街の惨状――体を壁に預けて絶命している人や倒れたまま動かない人、倒壊寸前の住宅etc……。もう何回も見た夢ですが、決して慣れないものの一つです。
「はっ……はぁっ……!!」
”あの時”に見た情景。なにも考えずとも自然と動き出す脚に嫌悪感を覚えつつ走る私。すると、曲がり角に差し掛かったあたりで、何人かの人影が見えます。
「――ゆず姉?」
長めのポニーテール、スラっとした長身…間違いない、私がこの”夢”に入るときに自動的に探している姉――ゆず姉、その姿でした。
しかし私は、その陽炎のように揺らめく人影を追いませんでした。
なぜなら
(隣にだれかいる……? ……ッ!)
何やら隣――性格には右隣に大柄な人影らしきものが見える。そう思い
「ゆずね――」
私が声を発した、その刹那
「――ッ! ……っごぼっ……」
――吹き飛ばされた。
末尾のセリフはその影響で自分が吐血したのだと発覚するや否や、急激に意識が遠のいていきます。
私は薄れゆく意識の中で、その人影が手足に何かを装着していることを確認しつつ凝視します。
――それは、あまりにも”異形”でした。
正確には、あちこちに筒状のなにかが搭載されていて、全体的にまるで西洋騎士の鎧のような、異質な見た目をしていました。
そしてその大きい人影の中央、ボディースーツらしきものを付けている小柄な身体から
「よし……ハイ……エナ小た……連れて行……けいか……」
とゆがんだ声が聞こえたと思った瞬間、”すべての景色が崩れ去り”ました。
崩れ去っていく景色の中、その破片の一部が私にぶつかり……。
◆
「な……
「……ッ」
桜那と呼ばれた私は目を覚まし、瞬時に体を起こすと、そこには見慣れた寮 ――上段のベッドの寝台の裏側と、傍らには親友でありルームメイトの姿がありました。
「大丈夫……? またいつもの夢?」
「はい……。」
心配そうに伺ってくる親友。
彼女にはこの事は事前に話してあることとはいえ、申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
「ごめんなさい
「……そんなことないよ……それに……さ」
親友兼ルームメイト――舞弥さんはそう言うと、私の机に立てられている幼少期の私と大人の姉――ゆず姉が映っている写真を見ると
「早く、見つかるといいね……お姉さん」
と心配するような声で言います。私はその声に
「はい……」
と、か細げな声で答えるしかありませんでした。
(って……そういえば、時間は!?)
私はふと時間が気になり、壁にかけている時計を見やると、そこには午前三時四十五分と記してあり、思わず
「あっ……」
と声を漏らしてしまいました。
それに気づいたのか、舞弥さんは口元に手をやり、ふふっと笑うと
「あぁ、時間? 時間なら気にしないで?」
そういうと舞弥さんは私の顔に手を伸ばし、頬を撫でてきました。
「……少しは落ち着いたかな?」
白くきめ細かい肌を持つ舞弥さんの手。そこから伝わる彼女の滑らかな肌の温かみ……落ち着く……。
「でもちょっと眠いかも……こんな時間に起こすのはホント罪だぞ~桜那~?」
そういうと舞弥さんは、もう片方の手を私の頬に添えると……
――むにむにっと”揉んで”きました。
「ひ、”ひょ”っとまいにゃひゃん……! (ち、ちょっと舞弥さん…!)」
「んー? 聞こえないなぁ……? もっとこうしてやる…! このっ……このっ♪」
「ひょ、”ひょ”っと……やめれく”ら”はい……!」
「う~ん……柔らか……痛ッ! ~~~~ッ!?」
突然、舞弥さんの頭部からガスッ!! と鈍い音がたったかと思うと苦しむように悶絶します。
私は驚き、音の出た方向を見ると、そこには”鬼”――もとい1人の女性教員が立っていました。
女性教員は周りを一瞥し、その後私たちを見ると、その低いトーンの声で
「明日……正確には今日の一時限目から実習だというのに……。……何をやっているんだ馬鹿者共」
と、小声で注意を促してきます。しかもその左手にはタブレット端末が握られていました。おそらくそれで舞弥さんの頭を襲撃したのでしょう。
……それも角で。
(――というより、いつ入ってきたの!?)
「まったく……まだ四時前だぞ……。こんな時間に怒る身にもなってみろ……これ以上怒られたくなかったら早く寝ることだな……」
「「はい……」」
◆
「おはよー!!
一連の出来事からおよそ二時間後。起床し、布団などを整えている私達のもとに、にぎやかな声がやってきます。
「みゆ姉、そんないっぺんに話しても、舞弥と桜那、支度中。――あと僕のことは言ったら許さない」
よく通る声と眠たげな声。バンッと、私たちの自室のドアが勢いよく開け放たれると同時に、双子によるこれまた勢いのある会話が繰り広げられます。
「おはようございます。沙姫さん、それに未悠さん」
「二人ともおはよー」
私と舞弥さんはそんな、勢いのある会話を繰り広げた双子姉妹に向け挨拶を交わすと
「よし、終わった。桜那〜? どう? 終わった〜?」
「――え、あっはい! 終わりました!」
「おっけー」
慌てて返答すると、そう言って上段のベッドから軽い身のこなしで降りてくる舞弥さん。「じゃあ行こっ? 早く行かないと食べる時間なくなるし」と言うその顔にはいつもの”やんちゃ”な笑みが浮かんでいました。
「えぇ、行きましょうか」
「もう腹ペコだよー!!」
「……僕も」
そしてそれぞれ思うことを口にしながら、自室をあとにします。
しばらくして、食堂のいつもの場所で朝食を摂りはじめる私達。他の生徒は、朝ということもあって顔ぶれはまちまちです。
「う~ん、美味しい!やっぱりここの朝食は最高だね〜!」
「ですね。それでいてちゃんと栄養計算もされていますし」
「ひゃなはんっふぇふぁ、ひょうゆうひょこふぁかりひにふるんふぁから〜(桜那ちゃんってば、そういうとこばかり気にするんだから〜)」
「みゆ姉、行儀悪いからせめて食べ終わってから喋ってほしい」
席の立ち位置は私が奥、隣に舞弥さん、そして私の前に未悠さん、その隣に沙姫さんの順で座っています。
ちなみに皆さんの食事メニューはそれぞれです。舞弥さんはフレンチトーストなどの軽めのもの。未悠さんと沙姫さんは少量の白米と魚系のおかず、そしてサラダが並べられています。
そして未悠さんを見るともう少しで食べ終わりそうになっており、口にはメニューのそれぞれが頬張られていて――
「……ふふっ」
ふと、日本では絶滅危惧種に指定されている「リス」なる小動物を思い出す私。今も口から溢れんばかりに頬張り、まさに文字通り「もごもご」している眼前の童顔かつ小柄な少女は、苦笑する私の顔を見ながら、頭に「?」マークを浮かべ、そして双子の妹の沙姫さんは彼女とは対象的に、箸で掴んだ白米やおかずをその小さい口にちょうど入る大きさにしながら口へ運びつつ、黙々と食事を摂っています。
「桜那〜? 手、止まってるよ〜?」
「はっ! ――あっ! す、 すみません!」
隣りに座っている舞弥さんに促され、想像タイムを終了する私。舞弥さんは途端に出た私の言葉を聞くとふふっと笑い
「もう、桜那ったら〜! いくら未悠が可愛くても見惚れてちゃだめだぞ〜?」
「え、えぇ!?」
(見透かされてる……?!)
瞬時に未悠さんを見ると、件の彼女は、一瞬キョトンとした顔をすると同時に頬をほのかに赤くさせ
「ちょっ……や、やだなぁ! 見惚れても何も出ないよー!? ね!? 沙姫……――って無視!?」
照れ隠しのつもりなのか、隣りに座っている沙姫さんに無理やり話を持っていきますが
「シャケ……うまし……」
と、相変わらずのマイペースぶり――あるいはこの手の”フリ”に慣れているのか――で”フリ”を文字通り回避します。
すると
「なぁ、”未確認のフレームらしきもの、西アジアにて目撃情報相次ぐ”……だって! 怖くねー?」
「でも西アジアでしょ?あそこしょっちゅう紛争してる地域だし、見間違いじゃない?」
「でもさー……」
と、私達が座っている位置の近くにある席で交わされる何気ない会話。ですがある部分が気になります。
それは――
(”未確認のフレーム”……)
それは、ここ最近増えている未確認・所属不明のフレームのこと。主に米国にて目撃情報が多いらしいですが、今回は西アジア。意外な場所ということもあってなにか引っかかりを覚えます。
キンコーン……!
すると突如辺りに響き渡る、食事の時間の終了まで五分を告げるチャイム音。
「っと……いけない……! 早くしないと”アレ”を付ける時間がなくなる……!」
途端に慌ただしくなる舞弥さん。
(確かに”アレ”は時間かかりますものね……って! そうじゃなくて!)
私達を含む一部の生徒は、とある物がないと実習などに出られません。
「え、ええ! そうですね! 皆さん、なるべく急ぎましょう!」
私は、彼女のその言葉を聞くと同時に、それまで手に持っていた食べかけの朝食――サンドイッチを口いっぱいに頬張りました。
◆
「――さて……と、着けますか。アレ」
「……えぇ」
食事や身支度を済ませた私達は、その後それぞれの部屋に戻り、あるものを装着する過程に入っていました。場所は私と舞弥さんの暮らす寮の自室、その隅に置かれた金庫のように重厚な縦長のロッカーの中に”それ”は入っています。
私と舞弥さんは、その重厚なロッカーに備え付けられた指紋認証システムに親指を添えて認証を終わらせ、ロッカーを開くと、中から出てきたのは、黒色の"チョーカー"と、シルバーの"左右がチェーンで繋がれたカーフイヤリング"でした。
《ライザー》――そう言われている代物。これがないと私と舞弥さんは、授業――主に実習に出ることが出来ません。
そして私がチョーカーを、舞弥さんがカーフイヤリングタイプの《ライザー》をそれぞれ付けていると
「それにしてもこれ、毎日付けるのめんどくない?」
と悪態をつく舞弥さん。私はその態度に
「めんどくさくても付けないと。それにこれに入ってるの、実験機といっても最新鋭機ですよ?折角研究所さんから提供してもらってるのに使わないなんてことは……」
と、あからさまに面倒くさがる舞弥さんを嗜めます。すると
「もー冗談だよ冗談! ……何も嫌でこのライザーを付けてる訳ではないからね。それに……さ」
言葉と表情を濁す舞弥さん。しかし次の瞬間にはいつも通りの彼女の表情に戻り
「――さて! 早く出よ?多分外で未悠達が待ってる……絶対」
と、確信を持った言葉でドアを見つめます。視線の先には、かすかに開いたドア。そこから爛々と縦に輝く二対の瞳。――上から――未悠さんと沙姫さんです。
「――ッ!?」
キイィィィ……! ガタタッ!!
「おわわっ!」
「――!」
ドアが開くと同時に部屋に文字通りなだれ込んで来る未悠さんと沙姫さん。
「だ、大丈夫ですか!?」
私はすぐに二人に駆け寄ると、怪我がないかチェックします。
「いたた……」
「みゆ姉……重い……」
各々の感情を発する眼前の双子姉妹。すると私は、あることに気づきます。
「――あ!沙姫さん……!ライザー!ライザー忘れてます……!」
そう、そうなのです。本来なら沙姫さんの右太ももについている、”ガーターリング型のライザー”がないのです。
私がそれを彼女に教えると
「みゆ姉、邪魔……」
「ちょっと待って今どくから……ってうわっ!? ――もう! 急に動かないでよ沙姫ー!」
と、双子の姉である未悠さんが上に乗っかっていることもお構い無しに起き上がると
「――忘れてた。失礼失礼…とってくる。桜那、ありがとう……」
と言うと、そそくさとその場を後にし、自室に戻っていきます。
(良かった……このまま忘れてたらどうなっていたか……)
恐らくこのまま授業を受けていたら先生達に怒られていたかもしれない……。
――それから数分後。右太ももにライザーを装着した沙姫さんが戻ってきます。
「――じゃあ、行こうか」
舞弥さんはそう言うと、まるで皆さんを先導するかのように率先して前に出ます。
(そういえばそんな時間ね……)
昨夜のように、私は部屋にあるデジタル表記付き時計を見やると、そこには午前七時五十九分と書いてありました。
HR開始時刻は午前八時半。少々早い気もしますが、この寮から教室までの時間を考えると丁度良いのです。
「「「ほら、桜那〜。行くよ〜?」」」
「あ、ごめんなさい……!今行きます!」
私は慌てて舞弥さんの隣にくっつくようにして部屋を後にしました。
◆
「今日さ、
「私も後で聴いてみてもいですか……?」
「うん!確か放課後ら辺で配信されると思うから、その時アタシと共有して聴こ!」
「音楽ね〜……。最近聴かないなぁ……」
「……僕も」
「あ、じゃあ四人で聴く?」
「誘ってくれるのは嬉しいけど、今日は委員会の仕事があるのよねえ……」
「うむ……残念」
「そっか〜……じゃぁ桜那、二人で聴こっかー」
「そうですね、二人で聴きましょうか」
道中、そんな他愛もない話をしています。
朝。先々月の春に二年生になった私達は、目的地である学校に向かっていました。
因みに”γ”とは、最近デビューしたばかりの女性アイドルユニットの名前です。
「あ、そうだ後でなっちゃんのアコギ配信も聴かないと……アーカイブ残ってるかなぁ」
そう言うと
”γ”のリーダーである沖上
「後で桜那の聴いてるやつも聴きたいなー」
そう言うと、たたたっと素早く携帯端末を操作する舞弥さん。そんな親友からの突然な返答に、私は少々嬉しげに
「ホントですか……! 新曲こちらも出たのでぜひぜひ聴いてみてください! あとかっこいい曲もあるのでそれも聴いてもらえれば! あとはですね、この曲とかギターがかっこよくて、あとは――あ」
あ、やってしまいました……。
”自分の好きなことになると夢中になって話す”悪い癖がとっさにでてしまいました……。
「――ん? どうしたの桜那?」
舞弥さんが疑問げに聞いてきますが、私にはその言葉は届きません。
(うぅ……やっちゃった……)
「……ごめんなさい……」
辛うじて絞り出すように出たその言葉に対し
「え?なんで謝るの?お互い”好きなもの”があるんだからさ、それに関して夢中になって話すのは当然じゃない?」
と、別に気にしていないといった素振りで話す舞弥さん。けど――
(自分だけ話すのは良くないと今まで教わってきた、だから――)
すると突然、ふわっと甘い香りがしたかと思うと、舞弥さんが私に”
「もう、色々考えなくてもいいの。私たちと喋る時くらい何も考えずに喋ろ?」
小声で且つ素の声でそう話す舞弥さん。私の腰に触れている彼女の細く、色白な手から感じる温もり。それを感じながら
「舞弥さん……」
と、私も赤面している顔を隠すようにハグを仕返します。
「あ! イチャコラ始まった!」
「……反則」
とはやしたてる双子姉妹をよそに、私は舞弥さんに「……ありがとうございます」と小声で伝えると、
「い、イチャコラじゃありませんよ……!」
「そうだよー。アタシ達のこれはただの”スキンシップ”。こんくらいは普通だよ?」
わざとらしく言う私とそれをカバーしてくれる舞弥さん。
「とうちゃーく! それにしてもでっかいねぇ……」
しばらく歩き、学校に到着すると真っ先に飛び込んでくるのは、校舎よりも高い建造物、通称”ホール”と呼ばれる物の一部分です。全長約一キロメートル。高さはわかりませんが、四階建ての校舎よりも高いのは確かです。
ちなみにこのホールという場所がないと、私達は実技授業が行えません。
「それにいつ見てもなっっがい学校名……絶対初めて見た人覚えられないって……」
そうつぶやき、入り口付近にある表記を見る舞弥さん。
長い学校名―”
「とりあえず中入ろっか。遅刻したらヤバいし……」
「うっ……ですね……」
「時間的に遅刻はないだろうけどフツーに怖いもんねぇ……特に桜那達B組は……」
「僕……あの人苦手……」
私を含め、暗い雰囲気になる皆さん。
私達B組の担任は、校内でも屈指の厳しさで知られています。
(まあ、厳しさの裏には”あれ”があるんだろうけど……)
担任はかつては自衛隊の隊員だったのですが、不慮の事故で自身も大怪我を負ってしまったせいで、その教訓から厳しくしているとの声もありますが、詳細は定かではありません。
(いい人ではあるんですけど……ね……)
正直、他の教員より辛口なのと言葉選びが悪い点を除けば、十分いい先生だと私は思います。
私がそんなことを思っていると
「やべ、時間間に合うか……!」
「遅刻まであと……」
という声が聞こえると同時に何人かの生徒が足早に過ぎていきます。
(……って遅刻!?)
慌ててウェアラブルデバイスの時計機能を見ると、午前八時十五分と表示されていたので
私は
「皆さん時間……!時間まずいです……!」
と伝える。
「「「あ」」」
と口々にそろえて言い、私達は足早にその場――校門から急いで教室へと向かうのでした。
◆
「な、なんとか間に合った……」
「間に合いましたね……」
「冷や汗かいた……」
「……」
口々にそう言うと、ウェアラブルデバイスを確認します。
確認すると、なんとか五分前に着席できそうです。
「じゃあ未悠たちはA組だから行ってくるね!」
「ここでお別れ……」
双子姉妹はそう言うと、足早にクラス――A組に入っていきました。
「私達も入ろっか」
「えぇ」
今私達がいる場所はC組の教室前、このままでは遅刻になってしまうので同じくそれにならってB組に入っていきます。
「舞弥〜今日も綺麗だねぇ〜」
「え〜そう〜?いつも通りだと思うけどなぁ〜?」
「舞弥!今日学食一緒に食べない?」
「あ~ごめん、今日は桜那と食べる予定だから……」
「今日はなんの香りかなぁ……くんくん」
「何もつけてないって〜……――ってこら嗅ぐな〜!」
「……」
席に座るやいなや、待ってましたとばかりに舞弥さんに寄ってくるB組の女子の皆さん。私はその隣で外の景色――私達は窓際席なのです を見、物思いにふけっていました。
(舞弥さんや未悠さん達以外に友達作らないと……)
私にはあの双子姉妹を含めて三人しか友達しかいません。人によっては”もう十分”だという人間もいるかも知れませんが、私にとっては少ない気もするのです。
(作れるかな……)
(ダメ……”沢山友だちを作って色んな感情を知りたい”って言って
由子さん――叔母の教えから外れた道を選んだのは他でもない私なのだ。今更何を――
そんな事を考えていると、キンコーンと聴き慣れたチャイム音とともに女性教師――槇羽先生が入ってきました。私と皆さんは窓の景色から眼を離したり着々と席に座ったりした後、正面――槇羽先生がいる方向を向きます。
(いつ見ても痛々しい……)
かしょん、かしょんと特有の音を立てる槇羽先生の右脚は機械化された義足になっており、右腕も長い袖だけがひらひらと舞っています。
槇羽先生は、教壇に立つと左手に持っているタブレット端末を置きながら
「HR始めるぞ。――日直」
「起立……!……礼!」
そう言うと今日の日直――確か西広さん――がはきはきとした声で号令をかけたので、私達もそれにならって起立礼をします。
「着席……。よし、全員揃っているかチェックするぞ。――相澤。」
「はい!」
着席し、槇羽先生が生徒の名前を呼び確認を取っている最中、私は先程と同じように物思いにふけっていました。
(今日は実技……。)
正直、実技は不安しかありません。急加減速に基本武装の運用方法や、さらには私達ライザー持ちに必須な機体の運用方法のおさらいなど、覚える量が多いのです。
(それでもゆず姉を救えるなら…)
ゆず姉――杠波を、”ハイエナ”から救う事ができるなら私は……。
「いし……
「はっ……はい!」
私は慌てて上ずった声で返事をすると、あたりからクスクスと笑い――嘲笑が込み上げてきます。
(うぅ……。)
槇羽先生は冷淡な声で
「全く……”専用機持ち”がこうでは……今日は実技もあるんだからしっかりしろ……」
「はい……」
と呆れたような態度で言い放つ槇羽先生。考えすぎると前が見えなくなるのは癖だと思いつつもついなってしまいます。
ふと隣の席を見やると、舞弥さんが心配そうに見ていました。
私は力なく座り、他の生徒の名簿呼びをしている間気まずく座っていました。
「うぅ……」
しばらくして、すべての生徒を呼び終えた槇羽先生は
「よし……では本日の日程だが、今日の午前中はA組と合同で実技練習を行う。忘れ物には十分注意するように。また、ホール内でも再度忠告するが、フレームは戦闘や防衛で使用するものだ。訓練機とはいえど使用には十分注意するように。以上だ」
「「「「はい!」」」」」」
「あのぉ〜槇羽先生ぇ〜。」
全員が反応する中、ひとり挙手をしてきた生徒――先程舞弥さんと話していた人の一人――がいました。
「ん? どうした? なにか不満でもあったのか?」
と槇羽先生がそう不思議そうに聞くと、生徒はそののんびりとした声で
「今日ってメンバーの振り分けって行わないんですかぁ〜?」
と応えます。
(確かに言ってなかったわ……)
そう、そうなのです。いつもならこの場で言われるはずの「メンバーの振り分け」が言われていないのです。
槇羽先生はその
「あぁ、今回はメンバー分けをしない。何故なら今回は合同で”基本動作”と”基本戦闘”、そしてテキスト・補習で教わったであろう”急加減速”の実技練習をするからだ」
教室中に「えぇ〜!?」や「あれゲロるからやだ〜」という声が広がります。
槇羽先生はその言葉を半ば無視し、続けて
「しかしながらライザー……専用機持ちには、既にホールで待機している副担任の
という言葉で閉じます。
(違う練習? 何かしら……?)
「HRは以上だ。ではこの後は各自、着替えてからホールに集合しろ。――当たり前だが、遅れるんじゃないぞ?」
槇羽先生はそう言うと足早に教室を出ていきました――準備があるためです。
(っと、行かないと……)
因みに槇羽先生が言っていた”ホール”まではおよそ十五分ほどかかります。なので今から向かわないと間に合いません。
「さ~〜なっ! 行こっ?」
「――ですね。今から行かないと間に合いませんし……。行きましょうか」
「桜那ちゃん! 舞弥〜!! 合同練習だって! 一緒に行こ!」
舞弥さんに誘われると同時に、隣の教室から沙姫さんと未悠さんが現れ、嬉しそうに誘ってきます。
そして未悠さんの隣では、沙姫さんが同じく嬉しそうにVサインを出していました。
私はそんな二人にOKサインを送ると、先生と同じく足早に教室を出ていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます