リリーちゃん
香久山 ゆみ
リリーちゃん
はじめはゴミ集積所で見つけました。金髪碧眼のフランス人形の外見ながら、市松の趣もあり、目を引きました。が、それだけです。私も頼子さんも人形遊びをするような齢ではありませんから、そのまま通り過ぎ、彼女のアパートへ行きました。帰りにはすっかり忘れていました。
だから、次に彼女の家に遊びに行った際、チェストの上にあの人形を見つけて驚きました。私には捨てられた人形を持って帰るという感覚がないから。「あの人形拾ってきたんだね」なるべく否定的な口調にならぬよう気を付けました。すると、彼女はこともなげに言いました。「ああ、リリーちゃん?」まるで昔から一緒にいるみたいに。彼女は大学進学で地元から出て一人暮らしを始めたから、寂しいのかもしれない。そう納得しました。リリーちゃんは洗ってもらったのか、汚れもなく綺麗でした。けれど、私はあまり見ていたくないと思った。
しばらくして、キャンパスで会った頼子さんに驚きました。声を掛けられなければ気付かなかった。黒髪が、金髪になっていました。少し遅い大学デビューなのだろう。入学して初めてできた友達だったけど、やっぱりタイプが違ったみたい。「カラコン入れたんだね。私は怖くて無理だな」社交辞令めいてしまい、彼女は「なにが?」と青い瞳で返しました。
また半月程して彼女を見掛けました。声を掛けられずとも気付いたのは、目を引く格好だったから。ロリータファッションから伸びた足はすらっと細い。けれど、ウエストは少しふくよかなままで、なんだかアンバランスでした。「お茶しない」と誘われ、興味本位でついて行きました。彼女、バンドか何かに嵌まったんだろうと思いました。
再訪した彼女の部屋は洋風に様変わりしていました。見回しても、バンドやアニメのグッズはありません。代わりに、チェストの上に例の人形がありました。かわいらしい帽子を被っています。大切にしてるんだなと、直視した瞬間声が出そうになりました。帽子の下に髪がない。ドレスで分かりにくいが、足もない。そして白い顔にぽかりと二つの空洞。ぞっとしました。「二の腕も細くしたいの」と笑う彼女に、急用だと言い訳して逃げるように帰りました。
それきり夏休みに入り、新学期に彼女を見ました。すっかり腕も腹も痩せ、メイクも決まってる。微笑を浮かべながら歩いているが、その表情は張り付いたように動きません。
「……リ……」
掛けようとした声は飲み込みました。
リリーちゃん 香久山 ゆみ @kaguyamayumi
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