太陽を喰らう月

白木 月

第1話 おかしなこと




パリン─────


ああ、まただ。

私の後ろにある棚に置いてあった花瓶かびんが割れた。


誰も触れていないのに

花瓶が落ちたわけでもないのに


不自然に



「こはくちゃん!」


みなとくん…』


「あ!また花瓶が…大丈夫?怪我してない?」


『大丈夫、けがしてないよ』



月出ひだちこはく 14歳。中学3年生。


私の周りでは昔からおかしなことがよく起こる。


例えば、さっきみたいに近くにあった花瓶が誰も触れていないのに割れたり、花瓶に限らず私の近くにあるガラス製の物は割れたりヒビが入る、本棚や立てかけてあったふすまが地震が起きたわけでもないのに私の方に倒れてきたりなど挙げだしたらキリがない


「怪我がなくてよかった、とりあえずこの花瓶早めに片付けよう」


『うん、湊くんありがとう』



私のことを心配してくれて割れた花瓶の片付けの手伝いまでしてくれている優しい男の子は


流川るがわ みなとくん


白く透き通った髪に端正な顔立ちの男の子だ。

私と同い年で私の祖父母の屋敷にいっしょに住んでいる。


湊くんがこの屋敷に来たのは6歳のときでこの屋敷に住むことになった経緯を湊くんに聞くと



「んーーー、内緒ー」


「君のおじい様と俺のお母さんが仲良いからかなー」


と真面目に答えてくれない。


親元を離れて他人の家で暮らすってことはそれなりの事情があるのだろう、これ以上はなにも聞くまい。



「結構破片はへん飛び散ってるね」


大きめの破片を湊くんが拾い集めビニール袋の中にいれていく。


『ごめんね、湊くん』


私はブラシとちりとりを使って小さな破片を片付けていく。


「謝らなくていいよ、別にこはくちゃんが割ったわけじゃないでしょ」


『ありがと…』



湊くんは私の周りでおかしなことが起きているのを知っている。

みんな私の周りで何か起きる度に私が気を引くためにわざとやったんだと言う

私はそれを否定するけれど、湊くん以外信じてくれない



「何をしているの?」


声をかけられ顔を上げるとそこに立っていたのは

黒髪を後ろできっちりと団子結びにし、薄い緑を基調とした着物を着た上品な女性



恵子けいこさん…』


恵子さんは私やこの屋敷に住んでいる従姉妹達の教育係で

なぜか私に対するあたりがかなりきつい。



恵子さんは飛び散った破片と私を見て



「また、貴方が割ったのね」


と冷ややかな口調で言った。



『割ってません。』


「じゃあ、誰が割ったというの?湊さんが割ったとでも?」


『違います、誰も触れてないし誰も割っていません。』


「…花瓶が勝手に割れたとでも?」


私は首を縦に振った。

恵子さんはまるで汚物を見ているような目で私を見る。



「また、貴方はそうやって…ふざけてるの?」


『ふざけてません』


私は少しでも信じてもらおうと、真っ直ぐに恵子さんの目を見つめて言った


恵子さんの顔がよりいっそうけわしくなる。


「はぁ…貴方は本当に貴方の母親にそっくりね。周りの気を引きたくていつも嘘ばかり言う。」



私は恵子さんのことが嫌いだ、何かある度に私の両親をけなす。私の両親は私が物心つく前に亡くなっていて私は両親の顔を写真でしか見たことがない。


「貴方の両親は頭がおかしかったわ精神病だったのよきっと、貴方も似たのね両親に」

「貴方もいずれあの2人みたいに…!」


「恵子さん、おしゃべりしすぎですよ」


「っ…」


私たちの会話を黙って聞いていた湊くんが声を発した。


いつも優しくて明るい湊くんが、冷たい声色と表情をしていて、すこし驚いた。

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