その頃の飛鳥財閥

 謙二が森林ダンジョンを攻略したり、凜と色々と楽しんでいる間、美波はというと……。


「そうか、【エネミー共存党】が襲撃事件を……」


「せやで。 襲撃事件の主犯の議員と支持者数名が、一休みしていた攻略者数人と一般の人数人を怪我させたみたいなんよ」


「ほぼ無差別やな。 いや、あの政党は自分達以外は攻略者であり、攻略者はいなくなるべし……やったな」


 アトリエRINの隣の別荘から転移ポーターで本家に戻り、当主である美波の父に報告をしていた。

 とはいえ、別荘で軽くビデオ通話で報告はしているが、こうして詳しく報告をしたほうが美波にとって伝えやすいのだろう。


「それで、美波と凛ちゃんと謙二くんがそいつらの対処に出たわけやな」


「うん。 動けけるのはうちらだけやったし。 あいつらは、他の施設でも事件を起こして数十人は殺しているって話やし」


「ああ、だからその場で処刑をと依頼されたわけや」


 襲撃事件の当日に、美波と謙二と凛の三人で【エネミー共存党】の者をその場で処分した理由も報告した。

 他の施設にも襲撃事件を起こしては、死人を出しているので政府としても手順をすっ飛ばして、すぐに処刑をしたかったのだろう。

 それだけ、凶悪だったのである。


「しかし、美波が謙二くんとあの廃校ダンジョンで出会うとはなぁ」


「あそこの近所に彼の住んでるアパートがあるみたいで、攻略しないと住む場所がなくなりそうやかららしいよ」


「それでか。 海外と違って、日本はエネミーがダンジョンから外へ出れるから、一般の住民への襲撃も起っとるしな」


 そして、美波が謙二と遭遇し、彼が廃校ダンジョンに居た理由も話したと同時に、エネミーの違いも言及した。

 福井のある場所で歪みが発生して3年後にも海外にダンジョンが発生したのだが、海外はダンジョンから出る事がないのに、日本ではダンジョンから出て一般の住民を襲ったりしているようなのだ。

 おそらく、日本には福井の東尋坊以外にも富士樹海などのオカルト要素がありそうな場所があるからだろうと密かに当主は考えていた。

 

「で、ミスリルをうちらで管理する予定やと国がいっとったけど、本当なん?」


「ああ、正式に受諾したさかいにな。 凜ちゃんとかにも安定して配れるように出来るで。 あと、配信関係の法案も無事に通ったから、数日で配信が可能になるで」


「そうなんや。 配信もようやく出来るわけやね」


「そこに関しては、海外よりも日本は遅かったからな。 海外からも配信解禁をと圧力を掛けとったが、野党共がそれを物理的に処分しとったみたいやし」


「うわぁ……」


 ミスリルの件は、正式に受諾したという話を聞き、ダンジョン配信関連も法案が無事に通ったようで、数日後には配信ができるようになるという。

 どうも、反対していた数少ない特定の野党は、配信をするように圧力を掛けていた海外の主要人物や企業の代表などを物理的に処分していたようだ。

 攻略者の断絶を目安に団結しているとはいえ、ここまでするだろうか?

 そんな感情を渦巻きながら、美波はため息をついた。


「配信をされると、こっそりやってきた不祥事が写ってバズる可能性もある。 それこそ去年の謙二くんの両親がやられたような事をな」


「それを嫌って様々なやり方で配信を反対しとったんやね。 戦闘に集中できないって言い訳を作って」


「そうや。 本音は自分達の目的の妨害を恐れておるんや」


 やはり、野党は自分達の妨害行動が配信によって暴露されるのを恐れている。

 そのために、ある財閥を利用してメディアを全て掌握したり、海外からの圧力を物理的な意味も含めて排除していたのだ。


「配信ならば、超獣や怪獣がアクシデントで遭遇した際も、【チームTMA】もすぐに出動できるしな」


「ああ、なるほど」


 そして、配信中に超獣などが現れた場合に、対策庁お抱えの特殊チーム【チームTMA】がすぐに出動できる。

 これは、超獣や怪獣などが低レベルのダンジョンに出没した場合に対処するための特殊部隊だ。

 メンバーには特殊な生い立ちの者で構成されていると言う話だが、そこはまだ詳細は不明である。


「それで、美波」


「お父さん?」


 さて、真面目な話をここで終わらせた事で、当主は美波に何か言おうとした。

 美波も首を傾げる。


「謙二くんをひとまず顔合わせ名目でここに連れて来てもらえんやろか」


「謙二さんを? 一応、伝えておくけど……」


「頼む。 凜ちゃんも一緒で構わんから」


 何と当主は謙二をここ本家に顔合わせ名目で連れてきて欲しいという。

 一応、凜と同伴でも構わないというが、飛鳥財閥に対しては見方が変わってるとはいえ、未だに不信感が拭いきれてない謙二を今呼ぶのはリスクが伴う。

 美波は、ひとまず声を掛けてみるとは伝えた。


(君の息子を何としても守らんとな……、譲司じょうじ


 心の中で、何かを呟いている当主をよそに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

攻略者の青年は、今日もダンジョンを攻略する イズミント @izumint-789

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ