残された二人

 辰巳は、特別操縦見習士官なる、戦闘機に乗る飛行兵の訓練部隊に配属されたらしい、という事を、志乃は琴音からの伝聞で聞いていた。新聞各紙は、この、学徒兵からなる若き戦闘機乗りを「学鷲」という勇壮な名前で呼び、彼らがいかに勇敢かを賞賛していた。

 少なくともすぐに南方の激戦地に送られる訳ではなく、国内の航空隊基地での訓練課程の為にしばらく、辰巳は内地にいるらしいという事だけは、志乃と琴音の胸を撫で下ろさせた。

 

 辰巳が航空隊の見習士官となって、年が明け、昭和19年を迎えた。

 この頃になると、否応なしに、戦況の益々の悪化と、国民生活の窮乏が深刻化していた。志乃の通っていた女学校はお嬢様学校であったから、食べ物もない程、困窮している同級生はいないものの「配給の食料が最近は少なくて、うちも困ってるわ」と、空腹を訴える声は、それでも聴かれた。

 志乃の両親は熱心に、軍に協力し、母は大日本婦人会の会員でもあったから、物資を何処かから横流してもらっているようで、多くの家の食卓が、かぼちゃや、すいとんで空腹を凌ぐなかでも、貴重な缶詰などをごろごろと何処かから持ってきていた。

 「配給も昨今は益々貧相になってきてるようだが、我が家はひもじい思いからは無縁だ」

 「ええ、これだけあれば。積極的に軍にも協力して、人脈は作っておくものね」

 ご満悦な様子で、台所で、物資の山を前にそんな会話をしている両親を見て、志乃は、吐き気がしそうな思いがして、目を背けた。その横流しで蓄え込んだ物資で、自分も空腹に困らずに済んでいるのだと思うと、自分自身も嫌になった。

 『勇ましく戦ってこいと兵隊さんに男の人を送り出して、過酷な戦場に送り出しておいて、私達、早坂家はあんな贅沢を…』

 という気持ちしか湧かなかった。

 

 志乃の、女学校の卒業の時も迫っていた。

 肌寒い教室で、琴音は今日も、国語の授業の時間の合間、季節の花の、花言葉や、その花言葉が生まれた逸話などを聞かせてくれた。概ね、3年目にもなれば、前にも聞いた事のある花言葉も増えたが、それでも、彼女が、花言葉というものについて話す時、それが前にも聞いた逸話であっても、不思議に引き込まれてしまう何かが、その話し方、口ぶりにはあった。

 「ねえ、そう言えば、知ってる…?里宮先生の恋人の方…、学徒出陣で…」

 「ええ、入隊されたんですってね、『学鷲』に。先生、あれ以来、やっぱり元気がないわ…本当に、お気の毒ね」

 授業中、教室の隅で、ひそひそとそんな言葉が交わされた。辰巳が「学鷲」-学徒兵の航空隊、特別操縦見習士官に入隊した事は、いつの間にやら、女学校の中にまで伝わっていた。

 そうした声が耳に入り、窓際の席で志乃は、机の下で、ぐっと手で、スカートの生地を掴む。

 一番好きな時間である、琴音の授業の閑話休題。花言葉の話をしている最中に、ひそひそ話で邪魔をされた事。更には、その話で、琴音が、やはり彼の出征以来、下宿に彼女を訪ねた時も、沈んでいるように見える事を思い出したからだ。

 『私は、琴音お姉さまの支えにならなければならない。こんな戦争が終わって、辰巳さんが帰ってきて、二人が結ばれる…、その時までは、琴音お姉さまを守れるのは、私しかいないんだから…』

 教壇に立っている時でさえも、最近の琴音は、時折、悲し気に、その形の良い眉を歪め、沈んだ表情を見せる時があった。そんな彼女の表情を見てしまう度に、自分は彼女の力にも、支えにもなれていないのではないかと、志乃は自分を酷く責めた。

 辰巳が帰る日まで、小説を書く事をやめて、神様に、辰巳の生還を祈り続けるという日々が、昨年の秋から、志乃と琴音の間では続いていた。

 しかし、文学を手放した日々、というのは、とりわけ、琴音には辛く、堪えるようだった。下宿の部屋に戻っても、小説を書く事を封じた今、夢中になって打ち込めるものは、琴音にはない。ただ、辰巳の置いていった探偵小説の原稿を見返して、彼の写る、二枚の写真を見ては、辰巳が来ていた頃の思い出に浸る…。下宿の老夫妻から、志乃が聞いた話では、そんな過ごし方になっているらしかった。

 それはまるで、既に辰巳が死んでしまったかのような、生きている人間への追憶に浸るような過ごし方だ。健全な過ごし方とは言い難かった。しかし、琴音と一緒に、あの下宿の部屋で、3人で撮った写真を見ながら、辰巳の小説への思い出話を語る。下宿から、志乃の家への帰り道の途中にある小さな神社に手を合わせて、ひたすら、辰巳の無事を祈る。それ以上に、琴音の為、辰巳の為に出来る事が、志乃には見つからなかった。彼女を支える存在にならなければいけないのだと、自分に発破をかけたのに、自分の無力さを知るばかりの日々だった。

 そんな彼女が、しかし、数少ない、辰巳がいた頃を思い出させる、活き活きとした表情を取り戻すのが、文学と並んで彼女が愛しているもの…、花言葉について、女生徒らに話をする時間だった。話に勢いがつくと、琴音の瞳は、一昨年の春に、志乃が見た時と変わらない、初々しい、文学少女のような輝きを浮かべて、花言葉や、その逸話を語るのだった。

 琴音の笑顔を志乃は守りたい。辰巳が生きて帰ってくる時には、二人で、心からの笑顔で彼を迎えられるように。

 その為に自分に出来る事が、まだ、他にもある筈だと、志乃は、校庭の隅に咲く、冷たい冬風に揺れる草花のあたりを眺めて、考えていた。

 志乃と琴音の二人の関係が、大きく変わった、あの初秋の日を思い出す。琴音の事を「お姉さま」として志乃が慕うようになったのは、確か、校庭の隅に偶然にも咲いていた、一輪の紫苑を見つけた時だった。

 二人を出会わせてくれたのも、二人の関係に大きな変化を与えてくれたのも、始まりは花だった。ならば、辰巳が出征して、彼の無事を祈って、願掛けとして、小説を書く事も断ってしまった琴音の、心を晴らす事が出来るのもまた、花なのではないか?

 志乃は一つ、妙案が浮かんだ心地がした。

 

 一月のある日、志乃は、琴音の下宿に向かう途中、とある物を扱う店に足を運んだ。画材を扱う店だった。そこで、志乃は、スケッチに必要な道具一式を買った。

 そして、一月も終わり近くに、志乃は琴音の下宿の門戸を叩いた。 

 顔馴染みになった老夫妻が顔を出す。

 「こと…、里宮先生は、今、お部屋にいらっしゃいますか?」

 琴音お姉さま、と自然に言いそうになったのを、危うく飲み込んで言い換えた。今や、『里宮先生』という呼び方の方が、不自然な感覚がする。

 老夫妻の、夫人の方が志乃に答える。

 「琴音ちゃんなら、部屋で過ごしてるよ。ただ…辰巳さんが兵隊に行ってしまったから、無理もないけど、ここに帰ってきても元気がなくってね。部屋に一人、籠りがちで…。私達も、なんて声をかけたらいいのかも、分からなくてね…。だから、早坂さんがこうして訪ねてきてくれるのは、ありがたい事だよ。少しでも、琴音ちゃんが元気になってくれるから」

 相変わらず、琴音の事を、単なる下宿の間借り人としてではなく、年の離れた娘のような口ぶりで、彼女は話した。

 志乃は、相変わらずよく軋む、少し急な階段を上りながら、二階へと上がる。二階は、隙間風が吹き込んで、廊下は暗く冷え切っていた。その暗い廊下の中に、襖が数センチ開いて、そこから差し込む弱い光があった。その光の方へ、志乃は足を運んで、襖の前に腰を下ろすと、「琴音お姉さま、早坂です。お部屋に入っても、よろしいでしょうか?」と声をかける。

 程なくして、琴音が襖を開けてくれる。着物の上に毛糸の、紺色の長羽織を着込んでいた。

 「いらっしゃい、志乃さん」

 襖が開くと、微かにパチパチと火の弾ける音がして、空気も温もりが混じるのを感じた。陶製の火鉢の中の、木炭の焼ける音だった。

 彼女は、机の上に原稿用紙と、本も何冊か積んだままにしていた。「婦人画報」や「婦人の友」などの婦人誌、それと、一冊の、表紙の塗装が少し剥がれた古い本。

 「ごめんなさいね。散らかしたままで。お互いの、小説の読み合いももうしなくなったのに、こうして、訪ねてきてくれてありがとう」

 小説の読み合いが出来なくなった事は確かに残念だが、志乃がここに来る理由はそれだけではない。何より、辰巳が入隊して、この下宿に来なくなってからの彼女の事が心配だったからだ。きっと、この部屋で一人過ごす時に、彼女の心を満たす物は、辰巳と、お互いの小説の感想を聞かせ合って、時に笑い合った、細やかな幸せがあった日々。その幸せを奪われ、彼の身にもしもの事があったらという、自身ではどうしようもない不安に苛まれ、現実逃避のように、彼との思い出に追想する…。辰巳が軍隊に行ってから、彼女が、この部屋で一人になる度に、幾度となく過ごしてきたであろう、寂しく、重たい時間が、この部屋の空気には折り重なっているように、志乃には思われた。

 老夫妻の、夫人が運んできてくれた、湯気の立つお茶を口に運びながら、志乃は、琴音の机の上の、原稿用紙の束に目を向ける。あれが何かは、一番上の紙の表題を見ただけでも分かる。辰巳の残して行った、探偵小説だ。彼は、あの小説の犯人が誰かを明らかにする事なく‐、未完のままで、軍隊に行ってしまった。

 「辰巳さんの置いていった探偵小説の、犯人は分かりましたか?」

 志乃がそう尋ねると、お茶を一口飲んだ琴音は、茶碗を置いて、首を横に振る。

 「いいえ…私の頭では、見当もつかないわ。繰り返し読んでは、探偵さんになった気分で考えているんだけどね。辰巳さんが小説で仕掛けた謎は、私程度の頭で解き明かせそうにないわ」

 辰巳の探偵小説は、江戸川乱歩も顔負けの奇抜なトリックに、暴かれた犯人の動機や過去にも深い物語があり、単なるトリックの種明かしに終わらない、文学性も兼ね備えていると志乃は思っている。探偵小説など子供騙しの読み物だと低く見る文学者も少なくないと聞いているが、辰巳ならば、そんな論調をひっくり返すような探偵小説家になれると信じている。

 ‐この戦争から、彼が生きて帰ってこられれば、の話であるが…。

 志乃は、頭から、暗い予想をかき消した。こうして二人で、小説を書く事を自ら断って、願掛けしてまでいるのだ。辰巳は必ず、戦争から帰って来る。そう信じるしかなかった。

 足の裏が、ひんやりとした。志乃が振り返ると、部屋の襖が数センチ、開いたままになっていた。琴音がそれに気付いて「寒いでしょう。ここ、古い建物だから、特に2階は冬場は隙間風が冷たくてね…」と言いながら、ちゃんと閉めようと立ち上がった。

 それを、志乃は、立ち上がろうとした琴音の、着物の袖をそっと掴んで、止めた。

 「琴音お姉さま…、私と二人しかいない時は、このお部屋の襖を、閉め切っては、駄目です」

 「…そうね、そういう約束だったわね」

 志乃に制されて、琴音は、思い出したように答えると、腰を下ろす。

 辰巳が軍隊に行った後、初めて、琴音の部屋を志乃が訪れた時、部屋の襖を閉めようとした彼女に、志乃はこう言ったのだ。

 『琴音お姉さま…、私とお姉さまの二人しか、この部屋にいない時は、部屋の襖は少しだけでも開けて、絶対、部屋の中が見えなくなる事が、ないようにしましょう…。そうしないと…、その…、私が、またあの時のように、魔が差してしまうかも、しれないから』

 志乃が、どうなる事を恐れているのかを、琴音もすぐに理解してくれた。

 二人きりで、この部屋の中、誰にも見られないように襖を閉め切って過ごしていれば…、あの日、琴音の唇に触れようと、志乃を動かした悪魔がまた、『今が好機だ』とばかりに、志乃を唆してくるかもしれないからだ。

 再び、そんな空気になって…、今度は、自分を抑えきれずに、もしも琴音の唇に触れてしまったら…、それは、最低最悪の、辰巳への裏切りになる。志乃は自分を許す事は出来ないだろう。

 だから、襖をこうして開けておいて、時折、下宿の老夫妻が二階に上がってくる時には、部屋の中をいつでも見られるように。そして、琴音が、危ないと思ったらすぐに部屋の外に出られるように。志乃は、自分への戒めのつもりで、琴音と二人で過ごす時は決して、襖を閉め切らずに過ごすようにしていた。

 琴音の机の上にある、また別の本に目をやる。そこには、繰り返し読み込まれた事が、表紙の様子からだけでも伺える、花言葉を集めた、全集とも言うべき分厚い本があった。辞書のようなその本が、国語の時間、琴音が、多感な年代の女生徒達の感傷に訴えるような、花言葉、逸話の出所となっているようだった。

 「その本だったんですね…、琴音お姉さまが花の逸話に、あんなにお詳しくなったのは」

 「ええ。もう十年は前になるかしらね…、地元の百貨店にあった書店でお父様が買ってくれたのよ。お花は、お母様も好きで、いくつか庭で育てていたから、名前だけなら知っているものも多かったけど、その花の名前に至るまで、一つ一つに、背負ってきた物語があるんだって知って、すっかり魅了されたの」

 彼女が、一枚栞を挟んでいるページがあった。きっと、そこに挿絵と、文章で説明されている花は、彼女の好きな、紫苑の花に違いなかった。

 「琴音お姉さまは、やっぱり、花と、その物語がお好きなんですね。花について話される時、いつでも、お姉さまの瞳は輝きを取り戻される…」

 志乃は、そして、とあるものを鞄から取り出した。それは小さな手帳だった。琴音は、志乃が取り出した物に、目を丸くした。

 「早坂さん、それは…?」

 「お姉さまのところに来るのに、いつも手ぶらで来るのもなんだと思って…、こちらを、見て頂けませんか?」

 志乃に渡された手帳の、最初の一ページを開く。そして、小さく、驚きの声を上げた。

 「この花の写生…、貴女が描いたの?」

 「今まで、手に取る物は鉛筆か万年筆ばかりだったから、絵筆や色鉛筆で写生は得意じゃありませんけど…、家の庭先に咲いていた、季節の花を描いてみました」

 志乃が、文学を書く筆を置いて、その代わりに、始めたのが、スケッチだった。

 志乃は、女学校が休みの日、近くの手頃な野山まで足を運び、そこの低木に咲いていた、知らない名前の野花を描きとって、ここに持ってきた。

 前日に雪が降った後で、白い雪が梢の上にもまだ残る景色の中、蕾から一つ、二つ綻び始めていた、明るい黄色の花が目に付いたので、描いてきたのだ。

 きっと彼女なら、何の花で、その花に、どんな物語が込められているのかを、教えてくれる筈だろうと、それを楽しみに、かじかむ手をコートのポケットの中で温めながら、描きとってきた。

 「この黄色い花は…、きっと蝋梅(ろうばい)ね。丁度今頃、1月から2月にかけて咲く花よ。私の故郷の山にも、年明けの頃になると、蝋梅の花が見られる森があったわ…、黄色い花が一面に咲いて、仄かな甘い香りもしてね。これ、本当に花を写生するのは初めて?とても、特徴を捉えてるわ。上手よ」

 琴音は、志乃の、拙い写生でも上手だと褒めてくれた。そして、彼女と志乃だけの、二人だけの、花言葉の授業の時間が始まる。

 琴音と初めて会った日、彼女の着物にあしらわれていた、白の紫苑の花言葉を聞かせてもらった、春の日を思い出す気分で、志乃は心が安らいだ。

 その一方で、志乃の選んだ、その花が、不吉な花言葉を、持っていたなら。それこそ、今後の、琴音が待つ人の暗い最期を想起させるような内容の言葉だったなら、どうしようと志乃は内心、どきどきもしていた。しかし、琴音の口から聞かれた言葉は「慈しみ」「慈愛」だった。

 「冬の厳しい寒さにも耐えて花開く、とても、愛情深い言葉を持つ、素敵な花よ…。良い花に巡り合えたわね、志乃さん」

 そう語る琴音の表情は、少しだけど、志乃がこの部屋に来たばかりの時よりも和らいでいるように見えた。やはり、花に、その花が持つ言葉に触れた時、彼女の気持ちは安らいでいる。

 「良かった…、やっぱり琴音お姉さまは、お花の話をしている時は、とても楽しそう…。この写生も、描いてきて良かったです。お姉さまのお話を聞いて、また一つ、素敵な花言葉を知る事が出来て、好きな花が一つ増えました。私、これからもっと、お姉さまの心を明るく出来るように、花の絵を色々、描いて、ここに持ってきます。そして、この春に、私が女学校を卒業してしまっても…、また、このお部屋でしてくださいね。花言葉の、二人だけの授業を…。初めて、私に、白の紫苑の花言葉を教えてくださった、あの日のように」

 志乃がそう言うと、「…ええ。勿論よ。喜んで」と、琴音は微笑んで、頷いてくれた。

 

 二人がそんなやり取りを交わしていた時だった。あの軋む階段を、更にギイギイと軋ませながら、慌てた様子の足音で誰か駆け上がってきた。

 やがて、足音の主が襖をコンコンと叩いた後、言った。下宿を営む老夫妻の、夫の方の声だった。

 「琴音ちゃん、志乃ちゃん!丁度良かった。郵便屋さんから、ここの下宿当てに、○○航空隊基地からお手紙だよ!入隊してから初めての、辰巳さんからのお手紙だ、良かったね」

 そうして、襖を開けた彼は、小さい茶封筒を、琴音へと手渡した。差出人は「山城辰巳」。

 その名前を形作る字に、志乃は懐かしさを感じ、それほど、彼が入隊してからあっという間に月日が過ぎた事を知る。

 はやる気持ちを抑えつつ、琴音は封筒を開き、一枚の折りたたまれた便箋を取り出す。

 「志乃さん…!辰巳さんから、航空隊から各学徒兵に、親族知人との面会許可が下りたので、是非、会いにきてほしい、入隊してから初めて二人に会える事を楽しみにしているですって!」

 琴音の顔は喜色に満ちている。

 志乃も、その文面を見て、辰巳が、特別操縦見習士官‐「学鷲」として元気にやれている事を知り、それは勿論、嬉しかった。琴音が、久しぶりに見る、彼の字でつづられた手紙に喜んでいる姿を見て、志乃も「良かった」と心から思っている。

 ただ、自分のもたらした花の写生、それに触れて、花言葉について教えてくれた時の、彼女の安らぎ。それを、辰巳からの手紙が彼女に与えた喜びが、易々と上回ってしまった事には、何処か寂しい心地も、志乃はしてしまうのだった。

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