ルーク・エメラルダス資料※国家特秘事項
ルーク・エメラルダス(2061〜2085)
ハリバス王国史上最悪の殺戮者。
ハリバス王国建国800年を祝う、武術の祭典〝武術祭〟の開催半月前に、門下生六名を斬り殺し行方をくらませる。
強大な戦力を持っており、武術祭でも重要な出場者だった事もあり、軍は特別対策本部を設置。
所在を特定し、特別部隊を率いて確保に向かうも、歯が立たず、カーライル・ゴドウィン(当時大佐)を含む総勢五十二名を皆殺しにし、再び姿を隠した。
またこの時、ルークの門下生達も殺害されているのが発見される。
武術祭当日、何処からか姿を現し、現在でいう〝剣聖〟。天剣のアルベルト・ルーバルズと試合を始める。
その後暴走し、第十一代国王 バルトリック・ハリバスを殺害。闘技場を崩壊させた後、王都に放火、一万近い死者と三万を越す負傷者を出す。
その後から今に至るまで姿は確認されておらず、火の海となった王都から抜け出せずに死亡したというのが通説となっている。
戦争で龍に両腕を食われたという噂がある。また、王都の大火事の際にも空を飛ぶ龍の目撃証言が相次いでいる。
※龍···厄災の元に姿を現すと言われている伝説上の生物。
◇◇◇
·····。
「揺らすな」
「はい、失礼致しました」
周囲を囲んでパチパチとはじける炎に負けじと、レイブンは声を張った。
「おい!揺らすなと言っているだろう!不快だ」
「し、失礼しました·····!しかし首が·····!」
一筋、首に入った青紫色の切れ込みを指でなぞって、レイブンは両腕に抱えた一冊の本へ弁解がましく言った。
「貴様の能無しの頭が、この私よりも重要と言うのか?」
「いえ!いえ、滅相もございません。私の全てはマクスウェル様の物·····」
角度を変える度、絶えず胴体から転げ落ちそうになる生首を右手で押さえながら、死体となったレイブンは例の狂信的な笑みを浮かべた。
「それでよい、わざわざ貴様を蘇らせてやったのだ。実質私の物と言って良いだろう。」
「仰せの通りに」
レイブンによって開かれた本の頁の中で、マクスウェルは踊る。
「しかし貴様は役立った。·····少なくとも最低限は、だが。」
感極まった様子のレイブンを尻目に、マクスウェルは、未だ火の粉の舞う空を見上げた。
巨大な龍。ルークの全てを、二度も奪った龍。
「龍、龍、龍。」
しかしルーク・エメラルダスは実に良い仕事をしてくれた。
あの一瞬の顕著·····。龍がこの世に呼ばれ出た瞬間を捉えることに成功した。そこから魔力の量子を観測すれば、龍の大まかな実力が分かる。
「これは始まりに過ぎぬ·····。」
手始めに龍を取り込む。非常に面倒で複雑な手順が必要だが、リターンは確実で、邪魔される恐れもない。
次は天使だ。あの見ているだけでも反吐が出る様な鳩共を皆殺しにしてやる。
「直だ、もう直だ。」
考え事に意識を傾けていたマクスウェルの耳に、レイブンの五月蝿い笑い声が聞こえる。
「み、みみ見つけました!私が見つけました!!」
根元から切断された、ルーク・エメラルダスの両腕を摘み上げて、レイブンは喜色たっぷりで騒いだ。
「黙れ、寄越せ」
レイブンが、拾い上げた腕を本に押し付けるようにすると、腕はみるみるうちに本の中へと吸い込まれていった。
絵の一部となった、どす黒い瘴気を吐き出す両腕を、マクスウェルは貴重な証拠品を触るかのように撫でる。
やがて、人のシルエットに姿を変え、両腕を自分の体に接着した。
「ふふ、ふふはは」
人間の命の染み込んだ両腕はよく馴染む。
「何という皮肉、何という悪戯」
彼はこの腕をもってしても、〝最強〟を掴み取る事はついぞ叶わなかった。
「しかしどうやら、この手は神に届くようだぞ?」
他ならぬ俺の腕となってな。
世界を作り替える野望を口に、マクスウェルは嗤った。笑って、踊った。
龍牙鍊剣記 鰹節の会 @apokaripus
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