番外編2 おいしい甘味
民子と話すと、話の筋が酒に変わる。今は甘味の話をするべき時なのに。
「千なりも美味しいけどさ。そういえば私、甘味ならとっておきのブツを持っているかもしれん」
「もったいぶるなよ。なんだよ、ブツって。ピストルか?」
「食べればピストルみたいに撃ち抜かれるって。ほんとに美味しいから、それ」
その名物は、名古屋駅構内の土産物売り場に陳列された『わらび餅』なのだそうだ。
「私はバラエティのテレビで見たんだけどね。とにかく手間暇かけてるの。わらび粉は本わらび。板さんが銅製の大鍋でわらび粉をくつくつ煮るのよ。それが冷めたら四角形の型に流し入れて、冷蔵庫で固めるの。でも、長時間じゃないのよ。冷蔵庫に入れるのは、やっと包丁で切れるかどうかの塊具合で成形に入るのよ」
「詳しいな」
「それを見た友達と、街歩きのスタンプラリーに行ったんだもん。市が指定した場所やお店に立ち寄れば、無料で何かがもらえるの。気になってたわらび餅も、もらえるブツの中に入っていたから、歩いてみようじゃないのって感じでさ」
「歩いただけで店の名物食べられるんなら行くだろうな」
「行くしかないでしょ」
「それで? 食べた印象は?」
「美味しかった! なんでこんな名物が埋もれているのか不思議なぐらいに美味しかったよ。わらび餅はぷるぷるでむちむち。きなこは本大豆のきなこらしいよ。竹皮で作った六角形の箱に十個ぐらい入ってて、六百円。老舗料亭の名物甘味がマジで六百円」
「コスパ、すごいな」
「凄いでしょう?」
「テレビの取材を受けるぐらいなら、交渉も早そうだし」
「三代目のバカ社長が出たがりらしいよ。名古屋の取材っていうと、大体その人が出てくるの。目立ちたがりだからやるんじゃないの? ってか、その社長に今まで上げてきた店の主人に交渉してもらえばいいんじゃん。その人、名古屋の何とか会の会長らしいし」
「何とか会じゃあ、説得力なし。あとできちんと調べろよ」
「えー。面倒くさい。学君やってよ」
「俺は押しが強いタイプはちょっと苦手。毒をもって毒を制すなら、岡田が適役」
学はまだ、民子を名前では呼び捨てできない。
かといって、民子にちゃんは似合わない。
内心迷って岡田と呼んだ。
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