番外編 おいしい甘味

「そういえば、甘味系って抜けてるよな」


 学はパソコンで『博多をモデリングにした屋台での集客案』プランニングを打ち込みながら、不意に言う。


「私は甘いものは好きじゃないから、そんなに知らん」

「知名度から言えば、やっぱり『ういろう』だろうな」

「とりあえず、人様から頂戴すれば食べるけど。自分で買ってまでは食べーせんから、よう知らん」

「俺は酒よりも甘味系だから、厳選できるよ」

「だったらお土産も変えるように朝から晩まで甘味コーナーは作っておいた方がいいかもね。お土産なんにしようとか、迷わずに済むぐらいなコンパクトサイズで厳選して」


「『ういろう』って、米粉と水と砂糖と塩一つまみを全部混ぜて蒸すだけだって。ここに角切りのサツマイモを入れたら、『鬼まんじゅう』だな」

「米粉だから、あんなにムッチムッチしてるのか」


 ムッチムッチは触感だ。


「その砂糖を黒砂糖に変えて作ると、見た目は羊羹。だけど、食べてみるとムッチムチ。目隠ししてさ。どっちが羊羹でどっちがういろうかは、すぐにわかる」


「有名どころを優先するなら『ゆかり』も外せんか。甘味じゃないけど」

「ゆかりはエビ煎餅だから、たまに買うよ。酒のつまみに」

「小型の赤エビと小麦粉を混ぜて塩も入れて、鉄板で挟み焼きかあ。酒好きの人への土産なら喜ばれるかな。その場で作ったものを食べられんのがネックだけどな」

「なんで?」

「裏表何度もひっくり返しながら焼いたら、乾燥させる時間がいるらしいな。今、これネットで見たけどさ」

「知名度からいえばトップクラスだから、外せんなあ」

「小袋で売れば、ちょっとその辺でゆかりをつまみにしながらビール飲むのもありだけどな」

「小袋でなら売ってるよ。一袋で二、三百円の感じのやつ」

「それじゃあ、声をかけてもいいかもな。基本、屋台で買って、その場で食べられるのがコンセプトじゃん」

「お菓子の屋台って縁日で売ってる人形焼きとかりんご飴とか綿飴とかさ。ジャンクなイメージ持たれとるやん。それが老舗のおまんじゅう一個から買えて食べられるんなら、甘味好きなら堪らんのじゃない?」

「堪らんな。気兼ねなく一個から買えるってのは魅力だな」

「それなら私、『千なり』食べたい。焼きたての」


  『千なり』は、老舗和菓子屋の名物どら焼き。


「何にしても、有名どころは全部が全部、創業うん十年とか百年以上とかの老舗もあるから。屋台で売ってくれって言われてもなあ。なんか食いつき悪そうだよな」

「食いつけよ。菓子で商売やってるんなら」

「だったら、和菓子屋系の営業はお前に任せる」

「任せとき。今の時代、新しいもんが世界中から入ってきとるに。老舗の暖簾であぐらかいてたら生き残れんて、説教してやる」

「確かに『千なり』はどら焼きなんだけど、どら焼きって言い切れない、みたいなあんこと薄めの皮のしっとり感が絶妙だよな。俺も好きだな。知名度の割に安いから、贈答品でも喜ばれるし。老舗の名前と梱包だけなら、お高めそうに見えるしな」

「私、『千なり』食べながらならハイボール飲めそう」

「そうそう。日本酒でも行けそうだけどな。言われてみればビールでもない。ワインでもない。ハイボール」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る