第9話 モーニング屋台

「東海圏の名店が屋台ロードに出店したら、地元の人でも行くと思う。手羽先だって、店ごとに微妙にスパイス違うでね。手羽先だけのはしごもできて楽しいかも。ほんで朝にはそこに、もうひとつの名古屋名物の屋台を並べる」

「あっ、それもいいな」

「でしょう?」

「俺も朝はモーニング食ってくるもん」


「名古屋の昔ながらの喫茶店には、大抵モーニングと中日新聞あるじゃんね。飲み物の注文、それこそコーヒー一杯の代金で、無料のトーストと茹で卵が付いてくる。その飲み物に何円か足せば、小倉餡おぐらあんもプラスできる。これで名古屋名物小倉餡トーストも楽しめる」


「昔ながらのモーニング地域は、訳わからんくなっとるけどな」


 モーニングというのは、繊維会社がひしめく地域から始まったと言われている。

 これから重労働に向かう職人が朝食抜きでは身体を壊すと心配した、とある喫茶店の店長が、薄給の労働者を支えるために、ドリンク代でパンとゆで卵も付けるようになったらしい。

 

「モーニングは今は果物屋でも、うどん屋でも居酒屋でもカレー屋でもやっとるよ。おしゃれなカフェなら、ドリンク代だけで生クリーム&フルーツ付きのワッフル。うどん屋ならコーヒーに、まんま小ぶりのうどんとか。昔ながらの喫茶店なら、おにぎりと味噌汁と小鉢や茶碗蒸しがついてくるとか。ナンとミニカレーとか、その店らしい何かが付いてくる。だから、モーニング屋台は地元民も、日替わりでいろんな朝食が食べられる」


「夜とは店も客層も変えるって訳か」

「居酒屋系屋台のモーニングなら、朝呑みできるよ」

「朝っぱらから酒出す店は企画で通らんと思うな」

「えーっ」

「だって、そうだろ? 県庁の企画だぞ? 朝呑み推奨は、できんだろう」

「えーっ、つまんない。ドリング代でモーニング付くんだから、ビール一杯にモーニング付いても同じじゃん」

「同じじゃない」


 身をくねらせて文句を垂れる民子を学がセーブする。

 まるで民子は猿回しの猿だと思ったが、あらためて民子は猿だと思う。

 誰かがセーブしなければ、本能のままにあらぬ方へと突っ走ってしまいかねない。

 

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