第8話 提案屋台七件目

「だで、認知度も話題性も劣るけど、ここはが救世主」

「きしめんね。それもアリかな。きしめんはうどんを平らにしただけって思われとるけど、別物べつもんだからな。きしめんにはきしめんの、つるっとした喉越しの良さがある。そこは強調したいな、俺も」


 学は事務椅子を軽く左右に揺らしつつ、長い足をすらりと組んだ。


「きしめんは上品な鰹出汁かつおだしに、平打ちうどんの組み合わせ。仕上げに鰹ぶしをこんもり乗せる」

「鰹節が汁の上で踊っていないきしめんは、きしめんじゃない」

「鰹節は山のようにが鉄則だよね。名古屋人は何でもはっきりしとらんと、気が済まん。しょっぱいならしょっぱい。辛いなら辛い。乗せるなら山のように鰹ぶしを乗せる。その鰹ぶしを出汁に沈め、麺に絡めながら品良くすする。しんみりする。しんみりするけど、胃には優しい」


「夜の屋台。〆の麺類どうするかだけは今後の課題だな」

「えっ? なんで? あんかけパスタも台湾ラーメンもきしめんも、自己責任で食べてねって注釈入れれば大丈夫でしょ?」

「あっ、そうなんだ。民ちゃん的にはOKだったんだ。だって、全部問題作って言ってたから」

「それは、自己責任ってことで解消されたんじゃないの?」


 どさくさに紛れる形で学は民子をたみちゃんと呼んでみた。胸の鼓動が高鳴った。さりげなさを装った。その呼称の変化に民子は気がついてくれたのか。

 それとも気がついていないのか。

 気がついていない振りなのか。


 学としては懸案事項として話が進んでいたはずだったが、確かに誰が何を食べようと、本来ならば自己責任。

 県庁のホームページだからといって、危険性の注釈までしてしまったら、店側としても出店の意味がない。神経質になりすぎた。

 

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