第7話 提案屋台六件目

「ほんで、一番有名な台湾ラーメン。台湾ラーメンは中華鍋で大量のニンニクと、ほぼ丸ごとの鷹の爪と、豚挽肉ぶたひきにくを炒めたら、鶏がらスープを加えてニラも投入。丼に醤油ダレ入れて、豚挽肉入り激辛スープを加えて麺も投入。背脂の代わりに、ラー油の被膜が浮いてるラーメン」

「お前、台湾ラーメン職人か」

「だって、台湾ラーメンのレトルトなら、大抵スーパーで売っとるもん」


 民子は麺が好きらしい。

 学は頭の中の民子ファイルに書き足した。


「味はシンプルな醤油ラーメン。でもスープを啜ると、まずむせる。ビギナーは必ず咽る。ゲホッて、なるぐらい辛いから」

「すごくわかりやすく辛いよな。辛さが後からついてくるんじゃなくて、短距離走のスタートダッシュかってぐらい、速攻で辛くね?」


「だけど、鶏ガラスープはコクがあってすごくおいしい。やっぱり食べたい。せっかくだし。で、今度は麺を啜る。またブフッて、なる。ラー油が絡んだ麺も辛い。スープも麺も喉通らん」

「それは言える」

むせた拍子に挽肉ひきにくが、気管支入って咳が出る。咽せながら咳込んどると、鼻から挽肉出そうになる」

「出したこと、ありそうなぐらいにリアルだな」


 この相槌は民子の女性としてのデリケートな部分を逆撫でしまったようだった。眉間に皺が寄り、しばしの沈黙が訪れた。


「それでも意地でも食べるがね。お金払っとるのに残すとか嫌。だけど、そのうち唇が腫れてくる。痛い。痺れる。痛すぎてなんかイラっとくる。台湾ラーメンは痛いのよ。これを酔客の〆に薦めろと? いろんな惨事が発生しそうだ。よー言わん」

「知名度としてはいちばんなんだけどね」

「知名度かぁ……」


 腕組みをした民子は悩まし気に唸っている。


「じゃあ、どんな惨事が起きようと、それも自己責任ってことで出しちゃうか」

「出した方がいいんじゃないかな。そういえば俺さ、台湾ラーメンに餃子つけて注文したら餃子も激辛だった。浸した酢とかが辛いんじゃなくて、餃子も辛い。ラーメンも辛い。水を飲むと、辛さが倍増。逃げ場がなかった」

「餃子まで辛いんか……。知らんかったわ」

「あれは台湾じゃなくて四川料理」


「だけど観光客は知らんだろう。スタンダードの辛さより控えめな辛さ希望なら『アメリカン』。スタンダードを超えたいのなら『エスプレッソ』とかいった隠語とか」

「あっ、それホームページの豆知識にして書いてみるよ。見た人がアメリカンでお願いしますって、店員さんに言えるかどうかは別だけど」

「なんで言えんの?」

「ベタすぎて、なんか、こっ恥ずかしい。親父ギャクみたい」


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