第6話 提案屋台五件目

「じゃあ、名古屋発祥のあんかけパスタ! ってなるかもしれんけど……。茹でたパスタをラードで揚げ焼きしとるしさぁ……。炒めとるんじゃないんだわ。揚げとるの。トマトソースにウスターソース混ぜたみたいな汁を、片栗粉でとろみつけて餡にして、揚げ焼きにした麺にかける。少量でも腹にズシっとくるに。ヘビーだにぃ」

「あんかけパスタはランチで食べてもヘビーだろ」

「そもそも麺そのものが、ぶっといからね。それをラードで揚げ焼きって……」


 拳を口元に当てて肩をゆすり、失笑しながら民子が続ける。


「あんかけパスタは多少田舎のスーパーでも、レトルトで売っとるやん? だけど、あんかけパスタ専用の麺までは売られとらんから。ほんとにマジで許せんわ」

「そんなに違う?」


「全然違う! 試しにレトルトで作ってみたがね。そしたら全然違うもん。あんかけパスタは、あの麺をラードで揚げ焼きしなくちゃダメなんだって気づいたね。あっ、言っとくけど。私の料理の腕がどうのこうの言わんといてね。レトルトソースなんだから。玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、ソーセージを炒めたら、スーパーで買い得る限り一番太い麺を茹でたやつと、少し絡めて、ソースをかけただけだからね? 失敗しようがないんだからさ」


「料理するんだ」

「そりゃ、するさ。都会での一人暮らし。就職してからまだ一年。自炊しないと貯金も出来んし、生きられぇせん。薄給だもん」

「意外」

「なんで?」

「包丁なんて握ったことありませんって顔、してるじゃん」

「握ったろうか? 目の前で」

「話が脱線してきたな」

「あんたがチャチャ入れてくるからだがね」


 名古屋弁の応酬は、他県民からするとケンカでもしているのかと疑うほどに好戦的だ。けれどもそれは言葉遊びの範疇はんちゅうだ。


「あんかけスパの第一号店に食いにいけば、レトルトも麺も売ってるよ」


 至極正論を述べられて、民子はむすっと押し黙る。くるくると、よく表情を変える民子はまるで万華鏡だとまなぶは思う。


「他に何か、あんかけスパを屋台で出すのに躊躇する課題や問題は?」

「……別に。もういい」

「大抵の客は普通にググって食べにくるから。そこまで心配でんでもいい」

「心配なんかしとらぁせんがね。そのググって来なかったお客さんが……」


 と、押し黙る。

 案外優しく、心配性な面もある。強気なタイプは形勢不利に転じると、表の顔を引っ込めて、裏の顔を出してくる。



 


 

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