最終話

「博多の中州みたいに、堀川に屋台をずらーっと並べて観光客も地元民も名古屋の中心街に集めたら、一泊させて、今度はモーニング屋台で楽しませる、か。地元の飲食業も屋台だったら出店も閉店もしやすいし。経済効果はあると思うな」

「どうする? この企画書で上に出そうか」

「いいんじゃないかな」


 学は早速パソコンで企画書を作り始める。

 そして、視線を液晶画面に据えたまま、ぼそりと告げる。


「どうせなら、実習練習でどこかの繁華街でハシゴしてからのモーニングって、やってみてもいいんじゃね?」

「はあ?」


 顔の向きを変えない学が耳だけ赤く染めている。

 なんだ。なんだ。そういう話か。感情を押し殺そうとしていても、浮き出てしまうイケメンは愛らしい。

 正直、学はタイプだが、そこまで親しくなってもいない。


「そこで宿泊って文字が抜けてるんなら、つきあうよ」

「ホントに? マジで?」

「普通に呑み歩いて解散して、朝はモーニング食べるだけでしょ? 地元民なら問題ないじゃん」


 歓喜の声を上げたものの、こちらにちらりと視線を向けた学は少しだけ寂し気だ。

 けれど、何事にも順序がある。

 学とは気も合うし、一緒にいても楽しいが、付き合う、付き合わないの決定要素が足りなさすぎる。


「じゃあ、せっかくだから今日、呑みに行こうか?」

「うん、いいよ」


 すると、目鼻立ちがシュっとした涼し気な男前が、顔をぱっと明るくした。

 こうして地元民すら心躍る川沿い屋台だ。企画書だ。

 もしも県外からなら屋台で朝食食べたらさ。せっかくだから名古屋観光もしたってね。


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