67話 夕日を見ながら
……終わったか。
チヂミを焼くこと一時間ほど経ち、ようやく行列がなくなった。
隣を見ると、アリアさんがヘトヘトになっていた。
「え、永遠に続くかと思ったぞ」
「はは、お疲れ様でした。途中で休んでも良かったのに」
「そんなわけにいくか。折角の……アレだ、貴重な経験だからな」
「確かに、王女様がするような仕事ではないですね」
そもそも、アリアさん目当ての客も多かった。
今日は服装や雰囲気が柔らかく、いつもみたいな騎士服ではないからだろう。
どこからみても、綺麗なお姉さんって感じだ。
「それだけが理由ではないのだが……まあ、確かにそうかもしれん。だが、普通の民はこのような生活を送っているのだな」
「まあ、屋台は特殊ですけど」
「それもそうか。でも、知れてよかった。それに、こうして直に民と接する機会は少ない。普段の格好では、どうしても相手を萎縮させてしまうからな」
「あぁー……無理もないですね」
あの凛々しい騎士服姿は、色々な意味で迫力がある。
美人さんという点においても、高貴な者の風格があるし。
そもそも、よくわからないけど王女様らしいし。
すると、仕事を終えたハクが駆け寄ってくる。
「ワフッ!」
「おおっ、ハクもご苦労さん。うんうん、お陰で助かったぞ」
「うむ、見事な働きだったな。我が兵士たちにも、見習って欲しいくらいだ」
「キャン!」
尻尾を振って、嬉しそうに俺の足にまとわりつく。
やはり、子供を成長させるのは経験と褒めることだな。
「さて……俺達も食べますか」
「うむ、流石にお腹が空いてしまったぞ」
「ククーン……」
俺達に言われてお腹を空いたことを思い出したのか、ハクがペシャンコになってしまった。
いや、この場合は充電切れと言った方が良いかもしれない。
「ふふ、ハクは一日中頑張ったからな。私の護衛もしてくれたみたいだし」
「ええ、そうですね。ハク、お前には特別なものを用意しよう。チヂミとは違う、美味いものをな」
「ワフッ!?」
現金なもので、耳と尻尾がピーンとする。
それを見て、俺とアリアさんは顔を見合わせて笑いあうのだった。
完全に人が撤収したら、最後に鉄板を借りる。
そこに油をしき、キングオクトパスの足の一部を切って一本焼にする。
じゅーっという音と共に、海鮮特有の海の香りが辺りを漂う。
「こ、これは、人がいなくなった後でよかったな」
「ええ、本当に」
この匂いがあったら、行列がやまないところだった。
俺達が持ち帰る分もあるし、全部を提供するわけにはいかないし。
何より、たこ焼き用にとっておかないと。
「ワフワフ……」
「おいおい、よだれが……」
「ふふ、待ちきれない様子だな」
その時、隣からクルルーと可愛い音がなる。
恐る恐る横を見ると、俯いたアリアさんがいた。
「……何も聞いていないな?」
「は、はい! 何も聞いてません!」
「なら良い……は、早く焼いてくれ」
「ただちに!」
これ以上恥をかかせてはいけない!
俺は仕上げに、にくにく醤油を鉄板の上からかけていく。
すると、先ほど以上の香りが充満する。
「おおっ……」
「これですよこれ!」
「アオーン!」
そしたらすぐに鉄板からあげて、まな板に移す。
それを切り分けて皿に乗せたら、三人で海が見えるベンチに向かう。
そこはアリアさんがうたた寝をしていた場所で、今は綺麗な夕日が見える。
「おっ、ちょうど沈むタイミングですね」
「ああ、良い時間に来たかもしれない」
「結局、夜まで働いてしまいました」
「全くだ。だが、悪い気分ではない」
「ワフッ!」
ハクが限界を迎え、足元からせがんでくる。
「はいはい、お前はこっちだ」
「キャン! ……はぐはぐ……!」
オクトパスの足にハクが勢いよく齧り付く。
「どうだ?」
「ワフッ!」
機嫌が良さそうなので、どうやら美味いらしい。
それを見て、俺達も食べることにする。
「まずはチヂミから……美味い」
「タツマ! これは美味しいぞ!」
「それなら良かったです」
「なんだ、このシンプルな料理は……言ってはなんだが、珍しくはあるが大した素材は使っていない。だが、味に深みがある」
アリアさんのいう通りだ。
やはり、カツオ昆布を入れたのが良いのだろう。
噛めば噛むほど、海の栄養が詰まった濃厚な味がしてくる。
はっきり言って、これがソースのようなものだ。
「上品な味わいでもあるかと」
「うむ、確かに」
「ただし、こっちは野性味あるかと……どれどれ」
コリっという食感と共にオクトパスの足を齧る。
「もぐもぐ……あぁー、酒が欲しい」
にんにく醤油の味と、コリコリした食感に絶対に合う。
ノイス殿に、持っていくとしよう。
「これも美味しい……噛めば噛むほどに味が出てくる。この食感が、また楽しいな」
「ですよね。ワインとかでも合うかと」
「むっ、確かに……そう言われると、欲しくなってきたな」
「では、都市に戻ったらやってみましょう」
「ふふ、約束だからな?」
「ええ、もちろんです」
そうして、夕日が沈むのを眺めながら食べ進める。
そんな中、ふと横目で見ると……夕日を見つめるアリアさんの横顔はとても綺麗だった。
~あとがき~
皆様、おはようございます。
新作を投稿したので、よろしければご覧ください。
「反逆の英雄譚」という王道モノとなっております🙇♂️
https://kakuyomu.jp/works/16818093076191614531/episodes/16818093076191616016
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