66話 屋台祭り

 その後、ひたすら種を作り続け……山のような下ごしらえが出来た。


 地元の方にも協力してもらい、最低でも何千人分はある。


 ここまでくれば、何を作るかわかるだろう……そう、海鮮チヂミ風焼きだ。


 これならソースやマヨネーズ、たこ焼き機もいらないし、似たような要領で作れる。


 ちなみにだが、こっそり隠し味を入れてある……俺も早く食べたいな。


「こ、これでいいか? 全く、手が痺れたぞ」


「ええ、十分かと。でも、これも鍛錬の一つです」


「むっ? そうなのか?」


「こじつけですが、そういう見方もあるってことです。剣は手首の使い方が重要ですから。そう考えたら、楽しくないですか?」


「なるほど……確かに。タツマのそういう前向きな姿勢は見習いたいものだ。私はどうしても後ろ向きでな」


「そうは見えないですけど……」


「ふふ、色々とあるのだよ」


 やはり、俺にはわからないことがあるのだろう。

 いずれ話をしてくれるように、頼れる男にならなければ。

 すると、お昼寝をしていたハクが目を覚ます。


「キャン!」


「おっ、いいタイミングだ。ハク、これから即席のお店を開く。お前にも手伝ってもらいたい……できるか?」


「っー!? キャンキャン!」


 尻尾を振って、俺の周りを走り出す。

 どうやら、自分にも役目があって嬉しいらしい。



 その後、全ての準備を終えて、いよいよ焼き始める。

 すでに目の前には、大量のお客さんがいた。

 同時に他にも屋台を出してもらい、地元の方々にもお手伝いをしてもらう。

 調理自体は難しいことはないので、皆さんもすぐに作業に入る。


「はい! お待たせしました! これより、屋台を開始します! 量はあるので割り込みをせずに並んでください!」


 俺の声により、港に人が一斉にやってくる。

 ちなみに、何を食べさせるかは内緒にしてもらった。

 出来れば先入観をなくして欲しいから。


「タツマ、お手本を見せてくれ」


「ええ、わかりました」


 俺はお玉で出来上がったタネをすくい、それを鉄板の上に薄く広げる。

 その作業を繰り返し、鉄板一杯を使って調理を行う。

 隣ではアリアさんも返しを持って待機している。

 すると、すぐに香ばしい香りがしてきた。


「すでにメインであるアレには火が通っているので、三十秒くらいでひっくり返すと……うん、良い感じだ」


「ほう、ほんのりと焼き目がついてるな。なるほど、これなら出来そうだ……こうか?」


 アリアさんは返しを下に入れ……くるっとひっくり返す。


「おおっ、上手ですね。これ、意外と難しいんですよ」


「ふふ、そう褒めるな」


 ……ドヤ顔が可愛い。

 いかんいかん、見とれてる場合じゃない。

 すぐに焦げてしまうので、焼けたチヂミを返しで切っていく。

 そして、それを紙皿に乗せていく。


「はい! 出来ました! 順番にお取りください! こちらはチヂミという料理です!」


「おおっ! よくわからないが出来たみたいだぞ!」


「なんだこれ? 何もつけずに食べるのか?」


「すでに味付けはしております! とりあえず食べてください!」

 さて、どうなるか……恐る恐る反応を見ると。


「……美味い?」


「なんか知らんが美味いぞ! 味に深み?がある!」


「コリコリした食感のやつはなんだ!? 噛むほどに旨味が出てくる!」


 よしよし、反応は上々だ。

 その反応を見て、少し様子見をしていた人達が殺到する。

 それらに対処するため、急いで焼いていく。


「なんだこれ!?」


「ふわふわで美味しい!」


「でも、何も付いてないのに味がしっかりしてるぞ?」


 ……よし、きちんと伝わってるな。

 実は手に入れたカツオ昆布の出汁を取っておいた。

 それをタネの中に混ぜたので、きちんと出汁の味が出ているのだろう。

 海産であるタコとの相性も良いはずだ。

 そんな中、危惧していたことが起きた。


「俺にも一つ!」


「私にも!」


「おい! 俺の方が先だったろ!」


「違うわよ! 私が先よ!」


 やはり、こうなるか。

 しかし、そのための準備もしてある。

 そんな争いの中、小さな生き物が吠えた。


「アオーン!」


「うわ!?」


「狼!?」


「キャンキャン!」


 二人の足元に行き、一生懸命に吠える。

 その姿は争っちゃダメと言っているようだ。


「可愛いな……」


「あら、可愛い……」


「す、すまなかった」


「こ、こちらこそ」


 毒気を抜かれたのか、きちんと列に並ぶ。


「ハク! よくやった! 引き続き、その感じで頼む!」


「ワフッ!」


 ハクは『任せて!』という感じに尻尾を振り、列に並ぶ人達のパトロールを始める。

 そして、要望があれば撫でさせたりしている。

 その姿に癒されたのか、争いの声は静かになっていく。


「ふふ、相変わらずの人気だな」


「ええ、こんなところで役にたつとは思ってませんでしたけど」


「そのうち、タツマの店の看板犬とかになるんじゃないか?」


「……確かに」


 というか、ハク目当てに客が来そうな気もする。


 そんな想像をすると、少し可笑しくなるのだった。

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