65話 共同作業

その後、話し合いを済ませたアリアさんと合流する。


俺はと言えば、報酬である小麦粉や卵をもらってホクホクである。


「どうでしたか? こっちは有難いことにお礼を頂きました」


「ふふ、それは良かったな。とりあえず、こちらも大きな問題はなさそうだ。奇跡的に人的被害もないから、誰も文句は言わんだろう。他の誰であっても、タツマ以上のことはできなかったからな」


「それでは、キングオクトパスはもらっても?」


「そもそも、誰も欲しがらんさ」


そうだった、不味いから食わないんだった。

しかし、折角の美味いものを知らないというのは可哀想だ。


「あれを使って、何処かで料理はできますか?」


「ああ、可能だと思う。タツマの要望なら、ある程度は通るだろう」


「それでは、住民達に作ってあげたい料理があります。もちろん、今回は無料で」


「ふむ……何か大きな事件があった後は、それを払拭するイベントをやるのが定番だ。タツマの料理をそれに当てるのもありか……わかった、確認するから待っててくれ」


「はい、ありがとうございます」


アリアさんが再び話し合いをする中、俺はハクを撫で回す。


「ハク、お前にも食わせてやるからな」


「ワフッ!」


ハクは嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

どうやら、飼い主に似て食いしん坊になったらしい。

そして許可が下り、俺は早速準備に入る。

しかし、その時に重大なことに気づいてしまった。


「アリアさん、小さい穴がいくつも空いた鉄製の鍋とかないですよね?」


「なんだそれは? ……聞いたことがないな」


……それゃそうだ。

この世界にたこ焼き機なるものがあるわけがない。

そもそも、そのタコを食べないんだから。


「はぁ……どうするかな」


「ん? その道具がないと作れないのか?」


「いえ、そんなこともないんですけどね……ん? いや待て……そしたら、あっちを作ればいいのか?」


「何か妙案が浮かんだか?」


「ええ、どうにかなりそうです」


考えがまとまった俺は、屋台用に使う鉄板と、調理用具一式を用意してもらう。

そして港付近の場所を借り、アリアさんと料理を始める。


「言っておくが、私は戦力にならんぞ?」


「大丈夫ですよ、料理と言っても簡単なものなので」


「そうなのか? では、頑張ってみよう」


そう言い、両手の拳を握り気合を入れてフンスフンスしている……可愛い。

そんなことを思いつつ、俺は器に水に卵、そして小麦粉と片栗粉、塩を加える。


「これを混ぜてください」


「ただ混ぜるだけでいいのか?」


「ええ、もったりするまで良く混ぜてください。俺はその間に、具材を仕込みます」


「うむ、任せろ」


アリアさんの作業を横目で見ながら、まな板で大量の玉ねぎやニラを刻んでいく。

最後に茹でて下処理したタコを細かく刻んで、野菜と合わせる。

これを繰り返していき、どんどんタネが出来上がっていく。


「タツマ、できたぞ」


「ありがとうございます。それじゃ、その工程を繰り返していきましょう。材料は、俺が使っていた通りに。とにかく、量が必要になるので。ある程度、分量は気にしなくていいので」


「なるほど、タツマがやっていたようにやればいいのか。あれくらいなら、私でも出来そうだな」


そう言い、アリアさんは鼻歌を歌いながら水に小麦粉などを加えていく。

俺は手が止まり、その様子を眺めてしまう……なんか、新婚さんみたいだな。

すると、アリアさんと目が合った。


「ん? な、何か間違えただろうか?」


「い、いえ! 鼻歌を歌っていたので……」


「……へっ? わ、私が?」


「あれ? 気づいてませんでしたか?」


「うぅー……なんたることだ」


今度は耳が赤くなって俯いてしまう。


可愛い、うん、可愛い……我ながら語彙力が死んでる。


その後、作業をするが鼻歌が聞こえることはなかった。


……しまった、言わなければ良かった。

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