64話 お礼の品

その後、救援の船が来てキングオクトパスと襲われた船を引っ張っていく。


俺は港に帰る途中、ふと忘れていたことを思い出す。


「そういや、今更だけど……こいつを調べてなかったな」


食眼は便利ではあるのだが、発動を意識しないと使えないのが困る。

こちとらそんな機能がついたのは最近だから、ついつい使うのを忘れてしまう。


『キングオクトパス』

そのグロテスクな見た目から、海のバケモノと呼ばれる生き物。

その吐き出す墨は船などを軽く貫く。

しかし、その墨には旨味が凝縮されていて、それがなくなると味も落ちるし硬くなる。

なので美味しく食べるためには、墨を吐き出す前に倒すことが肝心。


……これまた変な生き物だな。

この世界には普通の食べ物や生き物もいるけど、こういった特殊な個体もいるってことだ。

もっと、こまめに調べないとダメか。


「タツマ、どうしたのだ?」


「いえ、何でもないです。こいつをどうやって食べようかと思いまして」


「た、食べるのか?」


「へっ? 逆に食べないのですか?」


俺の言葉に、アリアさんが固まる。

同時に、周りにいた船員たちも。


「あ、あれは硬くて食えたものじゃないぞ? 討伐自体はされたことがあり、海に持ち帰ったこともある。だが、食用に向かないし気味が悪い。それ以降は、海の迷惑者として扱われている魔物だ」


「あぁー……そういうことですか」


タコとは、元々硬い食べ物だ。

そしてこいつは、墨を吐くと更に硬くなると。

しかし、それは俺の食眼がなければわからないことだ。

あとは、こいつを早く倒すのが難しいから気づいた者がいないとか。


「……何か考えがあるのか?」


「ええ、今のこいつは美味いと思いますよ」


「ふむ……それも異世界人の力か?」


そう言いアリアさんが、こっそりと耳打ちをしてくる。

その際に良い香りがするが、どうにか平静を装う。

……というか、ステータスを見た時に食眼の説明はしてなかったか。


「ええ、あの時に見た食眼というものです」


「そういえばあったな……まあ、お主の料理に関しての知識は信用できる。私の方から、食べるので丁重に扱うように言っておこう」


「ありがとうございます。ええ、美味しいモノを用意すると約束します」


そして船が無事に港に到着し、アリアさんは偉そうな方とお話をしている。

ハクは打ち上げられたキングオクトパスを興味深そうに眺めている。

もしかしたら、次に戦う時を考えているのかもしれない。

そんな中、俺が調理方法を考えていると……一人の男性が駆け寄ってくる。


「あ、あの!」


「ん? ああ、先程の船長さんですか」


「はい! モルトと申します! 改めて、助けて頂きありがとうございました!」


「いえいえ、助けられて良かったです」


現金なもので、こうしてお礼を言われるのは単純に嬉しい。

助けられて良かったと純粋に思える。


「それで、是非ともお礼がしたいのですが……」


「いえ、船の修理代もあるでしょうから。それに、キングオクトパスがあるので」


「そういうわけにはまいりません! 貴方がいなければ死んできたのですよ!」


……うーん、これで貰わないのも相手が気を使うか。

それに後から変な要求をされても嫌だろう。

俺は何か欲しいものがあるか考えて……思いつく。


「それじゃ、今度船を出してもらますか? また、海の中を探索したいので」


「あ、あの危険な海の中を……? いえ、貴方なら平気でしたか。はい、私達で良ければお手伝いいたします」


「なら、それで充分ですよ」


「しかし、それだけでは……実は船には小麦粉や卵かございまして、それをお譲りいたします」


その言葉に、俺の心が揺らぐ。

小麦粉に卵? それがあれば、アレが作れるではないか!

……よし、ここは有難くもらっておこう。


「……わかりました。では、それでお終いとしましょう」


「ほっ、感謝いたします」


「いえ、こちらこそ」


キングオクトパスをどうしようかと思っていたが、とりあえず作るものは決まった。


……動いたしお腹減ったな。


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